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35、初めての一人暮らし
しおりを挟む「ブルックリンちゃん、まずは食べなよ。ここのお茶菓子は割といけるぜ?甘い物、女子なら好きだろう?」とずらりと並んだお菓子を勧めてくれた。色とりどりで見た目にも華やかで美味しそうだった。こんなお菓子は見た事がない。
「いいんですか?では失礼して頂きます」と側にあった焼き菓子を一つ手に取り、ハムッと齧ってみた。口に入れた途端にほろほろと砕け、シュワっと溶けた。溶けると同時に広がる甘さと花の香り。
「・・・・美味しいです、とっても美味しい」と言いながら1つ、また1つと食べて行った。
「好きなだけ食べろよ?たくさんあるからさ」とアーチャーは微笑んだ。・・・・・・アーチャーに向かって何か言いたいのにそれは叶わなかった。
「・・・・ぐっ。エグ、エグ・・・」涙がボロボロと溢れて止まらない。何故だろう?
「ーーーークウ・・・」本当に私おかしい。最近泣いてばかりな気がする。
「ーーーー泣きたい時は泣けばいい。人は泣けるのだから」としたり顔でアーチャーは言う。
「ただ、食べるのか泣くのかどっちかにしないと大変だぞ?」と笑っている。その言葉にブルックリンは気を取り直し「じゃあ、食べます」と笑った。
暫く食べてしっかりとお茶まで飲み干すとアーチャーはブルックリンに向かって「実はここからの話は僕が指示を出すまで内緒にしておいて欲しい。と言ってもすぐに大衆のわかる所になるけど」と膝の上で手を組み話し出した。
「まず、君の身柄はこのまま魔法塔の預かりとなる。安心して欲しいのは、君のお家には引き続き身元の固いナニーに通ってもらう。そしてこの話を了解してもらえるなら、魔法塔への就職準備金として3ヶ月分のお給料が払われる」
「ここまではいいかな?」
「あっ、はい」何だかいい話すぎて信じられない。現実ではないような気がする。私は夢を見ているのかしら?
「君にして欲しい事は、表向きは魔法塔の魔法師団の僕の配下に入り、テスタメンターの修行だ。そして極秘裏に君の持っている魔法陣の強化をして欲しい。君のあの魔法陣がこれから必要になってくるんだ」
「ーーーーもしかして、最近の行方不明者の増加と地盤沈下の増加が関係してたりしますか?」とブルックリンも聞き返す。
「さすがだね。それが大惨事の起こる前触れなんだ。僕としたらこの国の防衛は強化するに越した事はないと思っているんだ。それにもう条件が揃ってしまっているんだ。兎に角君には一刻も早く体を回復させて魔法陣の強化に乗り出して貰いたい。もうこれ以上は話せない。どうだろう?やって貰えるか?」
「ーーーーそんなの・・・・・・O Kに決まってます。アーチャー様どうかよろしくお願いします。私は全力を尽くします」と話すとガッチリとアーチャーに向かって握手した。
それからと言うもの、次の日には病室にガブリエラの姿があった。「お久しぶりです、ガブリエラさん。その節は大変お世話になりました」と挨拶すると「聞いたわよ。大変だったわね。でももう大丈夫だから。あれからあの魔道具店、アーチャーが潰したから」としれっと言った。えっ、私まだあそこから出てそんなに経ってないんじゃ?・・・・何と恐ろしい。
そんな話をしながら病院を出て魔法塔の住居区域に行った。その道徒然に、このあたり一帯の施設や魔法塔の仕組みを教えて貰った。
そしてあるアパートに着くと「ここが魔法塔の単身世帯用の住居なの。さあ、行きましょう」と言いつつガブリエラはその中の一室まで歩いて行くと、ポケットから鍵を取り出し、ガチャガチャと音を立てて鍵を開けた。
「さあ、まず自分の目で見て確認しては?」とブルックリンに中に入るように促す。
「ーーーー失礼します」とがらんとした空間に一声掛けると中へ入った。
1番に目に付いたのは大きな出窓だ。思わず近寄り外の景色を眺めてみた。すぐ側には魔法塔があり手前にはポプラ並木が続いている。ポプラ並木の中を魔法塔の職員が何名かがゆったりと話しながら歩いていた。
(とてもいい環境だわ。私には勿体無いぐらい。これは頑張らなくっちゃね)ブルックリン自身がそう決意をした所で、部屋のチェックをしていたガブリエラが「ブルックリン、一度自分自身でこの部屋をチェックしてみてね。一通りの物は私が用意しておいたけど、足りない物があったら、魔法塔の中のショップを利用してもいいし、この近くにも雑貨や食料品を扱う店があるからね。後これ」とガブリエラが封筒を差し出した。
「・・・・ガブリエラさんこれは?」
「うん、当座の生活費よ。アーチャーから預かって来たの。これで必要な物を購入するといいわ。まあ、さっきも言ったけど部屋の中を一通り見てね」そう話すとドアへ向かった。
「あっ!!」と思い出したように振り返ると、「私の部屋はこの隣よ。何かあったら尋ねて来なさい」と微笑んだ。「ガブリエラさんありがとうございました。これからよろしくお願いします」とおじぎをしたら、すでにその場所にガブリエラはいなかった。
「とりあえずは・・・・」と部屋をチェックし必要な物を書き出す。チェストの中を見れば魔法省の職員である事を示す紺色のローブが入っていた。
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