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第七章 コレは社員旅行ですか? 合宿にしか思えないのですが?

ひめにこ、画面を飛び出す

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『みんなー、ひめにこなのじゃー。今回は、レトロゲーム記念館という場所に来ておるぞー』

 画面の向こうに、「社長」が手を振っている。ただし、無言で。

『この記念館は、古くなって廃棄されたアナログゲームが多数揃っておるぞ。ぜひみんなも来ておくれー』

 マヒルちゃんの吹き替えに合わせて、社長が身振り手振りで記念館の内容を紹介する。

 実は、マヒルちゃんでは「胸のサイズが合わなすぎる」という。社長がF、マヒルちゃんは、あてもBとCの間らしい。

「頭から上を映さない」という条件で、社長はひめにこの衣装を着ることを承諾した。差分の中にあった、白いセーラー服だ。とはいえ、JK設定なのにバストだけ規格外である。

『今日は解説役に、ギャング梶原殿が来ておるぞ。みんな拍手~』
「どうも、ギャング梶原です」

 落ち着いた表情で、ギャング梶原さんがカメラに挨拶をした。

『今日は、よろしく頼むぞよ~』
「よろしくお願いします」

 二人が挨拶をかわす部分まで撮って、ぴよぴよ夫さんがOKを出す。

「恥ずかしい!」

 飯塚社長が、その場にうずくまる。

「バッチリです、社長!」
「なんか褒められても、素直に喜べないな」

 立ち上がって、自分の穿いているスカートを摘まむ。

「しかし、生身動画は企業側の要望だったとは」

 取材先の記念館側が、「可能であれば、遊んでいる様子を撮ってもらいたい」と言ってきた。その方が、楽しんでもらえるのではないかと。

 なるべく手許を映さず収録することも可能だ。しかし、それだと「どうやって遊ぶのか」がわかりづらい。そこで、コスプレをした誰かがプレイするのがいいだとうとなった。

 だが、ひめにこのスリーサイズの関係上、できるのは社長しかいない。

「後ろ姿は映しますが、正面は絶対に撮らないので」
「うむ。『ひめにこ』の顔がリアルに表示されては、幻滅するギャラリーもいるだろう」

 腕を組みながら、社長も納得する。

「では、本番行きます」

 撮影が続行された。

『昔は、駄菓子屋というのがあって、そこで駄菓子を食べながらゲームをするという時代があったそうじゃのう。じいちゃんから聞いたぞ』
「うわあ、俺ギリギリ世代ですわ」

 ギャング梶原さんが、吹き出しながら語る。おお、世代間ギャップがスゴイ。

「ひめにこちゃん、コレ知ってます?」

 梶原さんが指さしたのは、穴が六個空いている筐体である。

『モグラ叩きかの? しかも、相当使い込まれたタイプじゃのう?』
「名前しか知らない感じですか?」
『これ、うちのママの世代でも、ゲーセンになくなっておったぞ。ワニを殴るやつは知っておるが』

 やはり、モグラ叩きはレトロ中のレトロなんだな。

「やってみてください」
『よし、初挑戦するぞよ』

 筐体に添え付けてあるハンマーを、ひめにこ姿の社長は持ち上げた。

『えいっえいっ。こりゃあ難しいぞな。昔の仕様かのう?』

 運動神経が鈍いのか、社長はなかなか高得点を取れない。

『ふうん!』

 ヤケになった社長が、豪腕を振るった。

「うお!?」

 オレも思わず、驚きの声を上げてしまう。

 最後の一発は、せつない。

『ぬう、つい本気を出してしまったわい。すまんのう、スタッフの声が入ってしもうて』

 半笑いで、マヒルちゃんがそうアテレコする。マヒルちゃんを笑わせてどうする?

『次は……なんじゃこれは?』

 馬のオモチャに乗って、レースをするゲームらしい。馬は塗装が剥げていて、年期がうかがえた。

『なるほど、健康器具みたいなヤツかのう? どれどれ梶原殿、レースしようぞ』
「いいですよ!」

 ちょうどマシンは二台ある。レース開始。

 突然、馬がガクンと跳ね上がる。

「うはう!?」

 声を出さないようにしていた社長が、馬の挙動に悲鳴を上げた。口を押さえたくても、馬の動きが不規則すぎて声が出てしまう。

「うわーうわーっ!」

 これは、音を消して録画にアフレコだな。

「社長大丈夫ですか?」
「ムリムリ! こんなの黙って遊べない!」

 飯塚社長も、さすがに音を上げる。とはいえ、レースには勝利した。
 巨漢な梶原さんに、馬が参ってしまったようである。 

『おおーっ。お菓子がいっぱいあるぞよ、お菓子。見てみよ皆の衆。やってみようぞ』

 クレーンを操作して駄菓子をゲットするゲームを、ひめにこが見つけた。心なしか、テンションが高い。

『やってみようぞ。一〇円でプレイできるのかえ。これはお得じゃな』

 驚きの安さに、ひめにこが驚愕していた。

『ラムネ一個しか獲れんかった』

 一〇〇円プレイして、手に入ったのはラムネの袋一つだけ。

 一旦撮影が終わり、社長はアンちゃんの元へ。

「アンちゃん。付き添ってくれたお礼だ。あげよう」
「いいの? ありがと!」

 ひめにこがもらっても、仕方ない。アンちゃんにあげるのがちょうどいいだろう。

 お昼は、近くの海鮮レストランで済ませた。

 ちなみに、社長には半袖のラップコートを着てもらっている。この間の買い物で着たラップドレスのコート版だ。

「お寿司お寿司」

 アンちゃんが、サーモンをバクバク食いながら楽しんでいる。

「花咲さん」

 ぴよぴよ夫さんがオレの隣に座り、声をかけてきた。

「お昼からはメンバー限定動画を撮りますので、手伝ってくださいね」
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