上 下
37 / 48
第七章 コレは社員旅行ですか? 合宿にしか思えないのですが?

水着回

しおりを挟む
  シャツを脱ぎ捨て、マヒルさんが真っ先に海へと飛び込んだ。

「ヒャッハー海だーっ!」

 アンちゃんとぴよぴよジュニアを除けば最も若いので、人一倍はしゃいでいる。
 これが若さか。
 それにしても大胆だな。

「チューブトップか。えらく決めてきたな」
 
 社長が、マヒルちゃんの水着に驚いていた。

 マヒルちゃんのスタイルはそこそこ、という感じである。ごくごく一般的な女性の体型だ。

「プライベートビーチで人がいない、って聞いてたんで。こういうときじゃないとこんなの着られないないっすから」

 声優のラジオでこの水着をもらったが、着る機会がなかったという。

「ありがとう姐さん、これでこの水着も浮かばれるっすよ」
「死んでないからな」

 マヒルさんは、一人でワイワイと楽しんでいた。

 ぴよぴよ一家は、赤子と砂の城を作っている。三人ともラッシュガードで、露出は控えめだ。まあ、彼らのサービスショットを求める人はいないだろう。

 グレースさんのお嬢さんは……トボトボとスマホ片手に歩いていた。父親と一緒に。フリフリのセパレートを着ている。彼女なりに、攻めてきたみたいだ。

「あー、スラッシュ・ドラゴン ウォークですか?」
「はいっ。レアモンスターがいるという情報がありまして」

 父親はアンちゃんと手を繋ぎ、正面を向いている。父親の視線を頼りに、アンちゃんがモンスターを探すという感じだ。

「なーんか、しまらないなぁ」

 焚き火台を設置しながら、オレはつぶやく。

 各々が、それぞれ別行動をしている印象を受ける。

「まあ、いいじゃないか。こちらはこちらで楽しもう」

 飯塚クリス社長は、テーブルの上で割り箸を削っていた。フェザースティックを作っているのだ。火おこしもマッチやガスバーナーではなく、麻紐とファイアースターターという本格仕様である。

「動画で見て、やってみたいと思っていたんだ。よし、火をおこすぞ」

 細い着火棒を小さい金属で擦って、火花を起こす。

「一発! すげええ」
「よし、ヒモに火が付いた。これを炭へイン! 花咲くん、炭を積み上げてくれ」
「はい!」

 空気の通り道を残しつつ、オレは炭を重ねていった。あとはひたすら仰いで、空気を送り込む。

「上出来だ、ハナちゃ……花咲くん」

 歯切れの悪い答えが、返ってきた。

「は、はい。てっきり新聞紙とライターで火をつけるモノかと」

 途中のトイレ休憩で寄ったコンビニで買おうかしらと、一瞬考えたが。

「私も同じことを考えていた」

 グレースさんによると、
「新聞のインクが具材に付着しまうからダメ」
 とのこと。手慣れてるなぁ。

 ちなみにグレースさんの水着は、昔懐かしいハイレグである。競泳水着に近いデザインだ。メンバーの中で、一番細い。

「火が安定してきたな。鉄板に具材を放り込むぞ」

 ワンボックスの荷台を占拠していた大半が、肉と魚介という組み合わせだ。

「道の駅で買ったから、全部新鮮だぞ」
「そうですね。いい匂いです」

 肉を焼くオレの隣では、グレースさんがずっと野菜を切っている。

「では、みんなを呼んできてくれ」
「はい。おーい!」

 全員を呼び戻し、食事になった。

「うまいっ! 焼きナス好きです。適度にしおれた感じが最高ですよね」
「光栄です。ウチの子にも食べさせたいのですが……」

 梶原さんが、アンちゃんにナスをすすめているが、アンちゃんは口にしようとはしない。
 好き嫌いは、誰にでもあるよな。

「肉サイコー」

 焼けたカルビに、マヒルさんは真っ先に手を付ける。小さい子もいるのに、大人げない。

「すんません。意地汚くて」

 本人も、よくわかっているらしい。

「ウチねえ、五人きょうだいの真ん中で、メシ争いが苛烈だったんすよ。だから一刻も早く一人暮らしがしたくってぇ、都会に出てきたんすよ」

 焼きおにぎりをハイボールで流し込みながら、マヒルさんはモゴモゴと話す。ひめにこと同じような設定だな。だから選ばれたのかもしれない。

「ちょうどね、女男の順で生まれて、あたし、下は弟がいて、末が妹っす」
「ごきょうだいは、今何をしてるんだ?」
「長女が二児の母で、長男が美容師、下の子はまだ高校っす。弟が受験だって」
「育ち盛りだな」
「みんなマジメな家系で、あたしだけがこうなったっす。一番放任だったんで」

 一家の中で、マヒルちゃんはもっとも自由人な生き方をしてきたらしい。まともすぎる一家で、窮屈だったのだろう。そこは飯塚社長と似ていた。

「それはそうと花咲さんさぁ」

 もうできあがった状態で、マヒルちゃんがオレの肩に腕を回してくる。

「姐さんにもっとさぁ、言うことないんすか? 水着褒めるとかぁ」

 缶を持っている方の指で、マヒルちゃんが社長を指す。
 水着を指摘され、飯塚社長が縮こまった。

「一緒に買ったときに見ただろ? 驚かないだろう」
「似合ってます、社長。デパートで見たときより、ドキドキします」

 オレが言うと、マヒルちゃんがうれしそうに「やっば!」と茶化す。

「言うっすね。やっぱり男はシャキッと正直にならないとっすよね。うん」

 新しいハイボール缶を開けながら、マヒルちゃんが「ふう」とため息をついた。

「社長、マヒルちゃんが一番楽しんでますね」
「あの娘が一番、働いているからな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三人の秘密の関係

M-kajii2020b
ライト文芸
絡まりすぎた赤い糸、三人の関係はその糸を解きほぐせるのか。

余命-24h

安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売中
ライト文芸
【書籍化しました! 好評発売中!!】 『砂状病(さじょうびょう)』もしくは『失踪病』。 致死率100パーセント、病に気付くのは死んだ後。 罹患した人間に自覚症状はなく、ある日突然、体が砂のように崩れて消える。 検体が残らず自覚症状のある患者も発見されないため、感染ルートの特定も、特効薬の開発もされていない。 全世界で症例が報告されているが、何分死体が残らないため、正確な症例数は特定されていない。 世界はこの病にじわじわと確実に侵食されつつあったが、現実味のない話を受け止めきれない人々は、知識はあるがどこか遠い話としてこの病気を受け入れつつあった。 この病には、罹患した人間とその周囲だけが知っている、ある大きな特徴があった。 『発症して体が崩れたのち、24時間だけ、生前と同じ姿で、己が望んだ場所で行動することができる』 あなたは、人生が終わってしまった後に残された24時間で、誰と、どこで、何を成しますか? 砂になって消えた人々が、余命『マイナス』24時間で紡ぐ、最期の最後の物語。

投稿インセンティブで月額23万円を稼いだ方法。

克全
エッセイ・ノンフィクション
「カクヨム」にも投稿しています。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   

設樂理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

夢見るディナータイム

あろまりん
ライト文芸
いらっしゃいませ。 ここは小さなレストラン。 きっと貴方をご満足させられる1品に出会えることでしょう。 『理想の場所』へようこそ! ****************** 『第3回ライト文芸大賞』にて『読者賞』をいただきました! 皆様が読んでくれたおかげです!ありがとうございます😊 こちらの作品は、かつて二次創作として自サイトにてアップしていた作品を改稿したものとなります。 無断転載・複写はお断りいたします。 更新日は5日おきになります。 こちらは完結しておりますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。 とりあえず、最終話は50皿目となります。 その後、SSを3話載せております。 楽しんで読んでいただければと思います😤 表紙はフリー素材よりいただいております。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

チェスがしたいだけなのに!

奏穏朔良
ライト文芸
「……なんでこうなった??」 チェスがしたかっただけなのに、いつの間にか反社会勢力のボスに祀りあげられ、暴力団やテロ組織と対決することになる男子高校生の話。 戦犯は上手く動かない表情筋と口である。 **** 2023/07/17本編完結しました。 ちまちま番外編あげる予定です。 【注意】勘違いの関係で視点がよく変わります。 見直していますが誤字脱字やりがちです。 ライト文芸大賞にて最高順位が32位でした。投票して下さった読者の皆様本当にありがとうございます!(2023/06/01)

処理中です...