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第五章 ホラーは苦手ですか?
自室に男女二人、何も起きないはずもなく?
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「はいどうぞ」
オレは社長のために、ミルクココアを淹れた。
「すまない。うまい……」
社長はふーふーしながら、カップに口を付ける。
もうミルクココアって季節ではない。が、アイスコーヒーだと利尿作用が働いてしまう。夜遅くにトイレが近くなるのは、できるだけ避けたい。
「なんでまた、オレの部屋なんかに? マヒルさんがいるでしょ?」
「ラーメン食べに行っちゃった」
「ええ? あ、ホントだ」
SNSに、「ちょっとバイクでラーメン旅」と書いてあった。北陸って書いてあるから、煮干しかな?
思っていたら、マヒルさんから電話が鳴った。
『花咲さんっすか? 今日VRホラゲーの収録で、やたらめったらガイコツと戦ったっしょ? そしたらやたら煮干しラーメンが食いたくなって』
とのこと。
「ぴよぴよさんちは赤ちゃんがいるから、お邪魔できない。よってキミを頼った」
グレースさんを頼れば……という手も考えて、やめた。あちらも小さいお子さんがいるんだっけ。
「そうですか。散らかっていてすいません」
社長に受け答えしながら、オレは部屋を片付けている。床が汚れていなくてよかった。昨日掃除していなかったら、足の踏み場がないとこだ。
「寝られないんですよね、どうします? ゲームですか?」
「そうだな。キミといえば、ゲームだからな」
「なにがいいです? いくらでもありますよ」
PCをスリープから立ち上げる。だが、社長と距離ができてしまった。ノートでも遊べる軽いゲームにするか。
「次の収録までに、ホラーに慣れておきたい。手頃な物はないか?」
「手頃って言ってもなぁ」
ゾンビを撃ちまくる3Dゲームなら、手許にある。だがこれは、酔うだろう。
VRの収録でわかった。飯塚社長は、あまり三半規管が強くない。
「社長。今、スマホあります?」
「うむ。目覚まし用に持ってきた」
ナイスだ。
軽めで、一緒に遊べるホラーのゲームなら、スマホゲーだろ。
「ホラー要素は弱いですが、怖い話系は?」
オレは、一本のスマホゲームを選ぶ。
「ノベルゲームか。いいな」
「これなら相談しあえて、面白いですよ」
内容は、同じアパートに住む隣人の秘密を、画面から証拠品をタップして当てるというゲームだ。
「謎解きゲームだな。やってみるか」
「描写もソフトめです。心霊的要素が強いですが、グロくはないです」
残酷描写系は、オレも苦手なのだ。
「意外だな。血ブシャー内蔵ドバーは、平気だと思っていた」
「そうじゃなくて、作者の嗜好がモロ出しだったりするんで、悪趣味なんですよ。物語に必要な要素じゃないなら、描写は控えめにした方が雰囲気が出て怖いんですよ」
最近のゲームや映画は、色々と見せすぎである。ボカすことで活きる表現だってあるはずだ。
「これはいいゲームですよ。適度に見せて適度に伏せています。ちょい昔のゲームなんですけどね」
「うむ。これは、私がまだ学生だった頃のアプリゲームだな」
そうだったのか。知らなかった。最近動画サイトで知ったゲームだから、てっきり最近のゲームだとばかり思っていたけれど。
「とはいえ、長いぞ。結構」
「よし。今日は夜更かしするか!」
オレはホットココアのおかわりと、ポテチを用意した。
「明日から二日間休みだからな。一日くらいはいいか。今日は寝かせないぞ、ハナちゃん」
イーさんも、夜更かしモードに。
「一件目は、ストーカーの家だな。JKの写真が一杯だ。おや?」
「これだ。ソファーの下っ!」
顔を引きつらせながらも、スマホをタップする。
見事正解だ。ソファーの下に、遺体があった。
犯人は、「勢い余って対象を殺し、死体を連れて帰った」と独白している。自首するのではなく、このまま練炭自殺するという。
窓や玄関にガムテープが貼ってたのは、そのためか。
その後も、オレたちは住民の謎を解き明かしていく。
「ひい!」
次の部屋の描写は、やや過激だった。性的な意味で。
「女物の下着ばかりだ! 下の階で下着泥棒があったと言っていたが、犯人はコイツだったのか!」
「うわあ。しかもコイツ、女装ヤロウだぜ」
「キミ、こんな趣味はないだろうな!」
「オレがやっても、グロ画像になるだけだぜ」
とっとと事件を解決させ、次の部屋へ。
「次は、目が見えない人か」
『ドライブ中に、両目と恋人とを同時になくした』と説明がある。
「隣に住む親友が、面倒を見てあげているのか。友情だな」
「いや、そうでもないぜ」
住人の扉に貼ってあるひらがなのシールに、オレは背筋が凍った。
「このシールを並び替えてみな」
イーさんは、シールが意味するアナグラムを解いていく。
「うーむ。あっ! 『お・れ・の・い・も・う・と・を・か・え・せ』とあるが?」
そう。
住人が死なせてしまった女性は、親友の妹だったのである。
「親友の家に、仏壇あったじゃん。隣のタンスに、写真立てが置いてあったろ? 三人が写っていたけれど、住人の顔部分だけが割られていたんだ。それで、もしかしてって思ってさ」
目が見えないのをいいことに、彼は住民に嫌がらせをしていた。さも気遣っているかのように振る舞って、復讐の機会をうかがっていたのだ。
実際、友人は男性にわずかな毒を盛り続けていて、もうすぐ死ぬ予定になっている。
謎を解き明かした後で、そういう説明が成された。
「おー、こういう心理的ロジックの方が、私には合っているかも知れないな!」
気に入ってくれて、何よりだ。
「次の相手は……毒親か」
急にイーさんが、深刻な顔になる。
オレは社長のために、ミルクココアを淹れた。
「すまない。うまい……」
社長はふーふーしながら、カップに口を付ける。
もうミルクココアって季節ではない。が、アイスコーヒーだと利尿作用が働いてしまう。夜遅くにトイレが近くなるのは、できるだけ避けたい。
「なんでまた、オレの部屋なんかに? マヒルさんがいるでしょ?」
「ラーメン食べに行っちゃった」
「ええ? あ、ホントだ」
SNSに、「ちょっとバイクでラーメン旅」と書いてあった。北陸って書いてあるから、煮干しかな?
思っていたら、マヒルさんから電話が鳴った。
『花咲さんっすか? 今日VRホラゲーの収録で、やたらめったらガイコツと戦ったっしょ? そしたらやたら煮干しラーメンが食いたくなって』
とのこと。
「ぴよぴよさんちは赤ちゃんがいるから、お邪魔できない。よってキミを頼った」
グレースさんを頼れば……という手も考えて、やめた。あちらも小さいお子さんがいるんだっけ。
「そうですか。散らかっていてすいません」
社長に受け答えしながら、オレは部屋を片付けている。床が汚れていなくてよかった。昨日掃除していなかったら、足の踏み場がないとこだ。
「寝られないんですよね、どうします? ゲームですか?」
「そうだな。キミといえば、ゲームだからな」
「なにがいいです? いくらでもありますよ」
PCをスリープから立ち上げる。だが、社長と距離ができてしまった。ノートでも遊べる軽いゲームにするか。
「次の収録までに、ホラーに慣れておきたい。手頃な物はないか?」
「手頃って言ってもなぁ」
ゾンビを撃ちまくる3Dゲームなら、手許にある。だがこれは、酔うだろう。
VRの収録でわかった。飯塚社長は、あまり三半規管が強くない。
「社長。今、スマホあります?」
「うむ。目覚まし用に持ってきた」
ナイスだ。
軽めで、一緒に遊べるホラーのゲームなら、スマホゲーだろ。
「ホラー要素は弱いですが、怖い話系は?」
オレは、一本のスマホゲームを選ぶ。
「ノベルゲームか。いいな」
「これなら相談しあえて、面白いですよ」
内容は、同じアパートに住む隣人の秘密を、画面から証拠品をタップして当てるというゲームだ。
「謎解きゲームだな。やってみるか」
「描写もソフトめです。心霊的要素が強いですが、グロくはないです」
残酷描写系は、オレも苦手なのだ。
「意外だな。血ブシャー内蔵ドバーは、平気だと思っていた」
「そうじゃなくて、作者の嗜好がモロ出しだったりするんで、悪趣味なんですよ。物語に必要な要素じゃないなら、描写は控えめにした方が雰囲気が出て怖いんですよ」
最近のゲームや映画は、色々と見せすぎである。ボカすことで活きる表現だってあるはずだ。
「これはいいゲームですよ。適度に見せて適度に伏せています。ちょい昔のゲームなんですけどね」
「うむ。これは、私がまだ学生だった頃のアプリゲームだな」
そうだったのか。知らなかった。最近動画サイトで知ったゲームだから、てっきり最近のゲームだとばかり思っていたけれど。
「とはいえ、長いぞ。結構」
「よし。今日は夜更かしするか!」
オレはホットココアのおかわりと、ポテチを用意した。
「明日から二日間休みだからな。一日くらいはいいか。今日は寝かせないぞ、ハナちゃん」
イーさんも、夜更かしモードに。
「一件目は、ストーカーの家だな。JKの写真が一杯だ。おや?」
「これだ。ソファーの下っ!」
顔を引きつらせながらも、スマホをタップする。
見事正解だ。ソファーの下に、遺体があった。
犯人は、「勢い余って対象を殺し、死体を連れて帰った」と独白している。自首するのではなく、このまま練炭自殺するという。
窓や玄関にガムテープが貼ってたのは、そのためか。
その後も、オレたちは住民の謎を解き明かしていく。
「ひい!」
次の部屋の描写は、やや過激だった。性的な意味で。
「女物の下着ばかりだ! 下の階で下着泥棒があったと言っていたが、犯人はコイツだったのか!」
「うわあ。しかもコイツ、女装ヤロウだぜ」
「キミ、こんな趣味はないだろうな!」
「オレがやっても、グロ画像になるだけだぜ」
とっとと事件を解決させ、次の部屋へ。
「次は、目が見えない人か」
『ドライブ中に、両目と恋人とを同時になくした』と説明がある。
「隣に住む親友が、面倒を見てあげているのか。友情だな」
「いや、そうでもないぜ」
住人の扉に貼ってあるひらがなのシールに、オレは背筋が凍った。
「このシールを並び替えてみな」
イーさんは、シールが意味するアナグラムを解いていく。
「うーむ。あっ! 『お・れ・の・い・も・う・と・を・か・え・せ』とあるが?」
そう。
住人が死なせてしまった女性は、親友の妹だったのである。
「親友の家に、仏壇あったじゃん。隣のタンスに、写真立てが置いてあったろ? 三人が写っていたけれど、住人の顔部分だけが割られていたんだ。それで、もしかしてって思ってさ」
目が見えないのをいいことに、彼は住民に嫌がらせをしていた。さも気遣っているかのように振る舞って、復讐の機会をうかがっていたのだ。
実際、友人は男性にわずかな毒を盛り続けていて、もうすぐ死ぬ予定になっている。
謎を解き明かした後で、そういう説明が成された。
「おー、こういう心理的ロジックの方が、私には合っているかも知れないな!」
気に入ってくれて、何よりだ。
「次の相手は……毒親か」
急にイーさんが、深刻な顔になる。
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