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第三章 打ち合わせ、やらないとダメですか?
生放送 撮影風景
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撮影本番が近づく。
真剣な表情で、マヒルさんがPC前のゲーミングチェアに着席した。
「ではいきます。五秒前……」
社長秘書のグレースさんが、カウントダウンを始めた。
絵描き兼スタッフのぴよぴよさんが、タイムスケジュールを受け持つ。
飯塚社長が脇へ引っ込み、オレの側に立った。
『こんにちは~。「ひめにこ」なのじゃ~』
撮影が始まった瞬間、マヒルさんの声が別人に変わる。
『声優は演技中、生体が変化する』と、声優を特集したTV番組で見たことがあるけれど、本当なんだな。
マヒルさんではなく、ひめにこというキャラクターになっていた。
意外だったのが、機材の少なさである。小さな部屋にあるのは、デスクトップととマイクだけ。場合によってはノートPCを使うという。それだけしか使わないそうだ。
撮影スタジオと言うから、もっと機材とかがたくさんあると思っていた。
「動画のコンセプトが、『少ない備品で多大な効果を生むこと』だからな」
ひめにこに、3Dモデルはない。2Dのキャラで配信ができるソフトを利用して、PCで撮影する。ソフトさえあれば、スマホでも撮影できるとか。
「もっとモーションキャプチャーとか使って、派手にやるんだと思ってましたね」
3Dモデルが作れたら、もっとやれることは増えるらしい。
「実際は、こんなにも手軽にできるらしい。先人の知恵様々だ」
大手のバーチャル配信者事務所の取材をして、勉強したという。
『登録者数一〇〇〇人突破したぞよ~。ありがとぉなのじゃ~。応援してくれたみんなと、今日は乾杯したいなのじゃ~』
ひめにこが、パチパチと拍手を送っている。当のマヒルさんもうれしそうだ。
「数日で登録者数一〇〇〇人とか、すごくないですか?」
「企業系配信者だと、遅い方かもしれん。事務所を介さないキャラクターだと、こんなものかもな。私個人としては、一週間で登録者一〇〇〇人超えは素晴らしい功績だ」
飯塚社長は、誇らしげだ。参観日に娘の成長を見に来た母親の心境だろう。
応援メッセージが、バシバシ流れている。トラブル回避のため、平日の真っ昼間に配信だ。というのに、結構な人が見に来ていた。
中には既にマヒルさんが正体だと気づいている人もいて、『ヤンキー無理すんな』とか書かれている。ガチのアンチなのかジョークなのかは、まだわからない。
祝杯を終えて、マヒルさんは寿司を食べ始めた。ワサビがきつかったのか、「くう~」とオヤジみたいなため息が漏れる。「中の人が飛び出てる!」と、コメント欄もザワついた。
オレたちも、昼食がてら寿司をいただく。回っていない寿司屋の特上を頼んだのだ。社長が奮発してくれた。
ぴよぴよさんは席に座っていない。もうひとつ寿司桶を持って、奥さん元へ行っている。
「配信は自宅で見るから、トラブルがあったら戻ってくる」と言っていた。こういうとき、自宅が職場に近いとありがたい。
『おお、エア投げ銭が、たくさんじゃ。ありがたいの~』
マヒルさんが、投げ銭した「つもり」のコメントを読みながら、ウキウキした。
必要な登録者数を満たし、投げ銭機能がある国で配信していればいい。
ただ、実際に投げ銭をもらう条件は、「年間再生数が四〇〇〇時間以上」必要だ。相当数の動画を再生してもらえているが、先は長い。
どうしていろんな配信者が「雑談」や「質問企画」、「登録者数が一定に達するまでの耐久動画」とか「歌配信」とかを頻繁に行うのか、なんとなくわかる気がする。
長時間配信する必要性があるからなのでは、と。
とはいえ、ひめにこには企業のバックアップがある。そこまで収益化には執着していない。どちらかというと、企業とユーザーの架け橋になることが「ひめにこプロジェクト」の目的だ。
『今日はみんなが送ってくれた、質問に答えていくぞよ~』
スマホ片手に、マヒルさんが質問を読み上げていく。
生放送の前の週に、「質疑応答やるから、コメントくれ」と、つぶやき系サイトであらかじめコメントを募っていた。
『なになに、「カレシいるの?」じゃと? いきなりぶつけてくるのう。これはご想像に任せよう。悶々とするがよい』
実際、マヒルさんにはカレシはいないらしい。以前は恋人がいたらしいが、声優を目指すと言ったら「声優を抱ける」と思われて態度が変わった。結局別れたという。実に生々しい話だ。
『なぬ? 「彼氏がいないから付き合って」じゃとお? 一〇〇年早いわい。わらわは宇宙人ぞ。感覚が全然違うから、幻滅するのがオチじゃぞー』
少し素が出たな、マヒルさん。
『他は、「好きなモノは?」か。バイクじゃ。休みの日はMURASAKIの五〇〇を乗り回しておるぞ。食べ物なら肉系、酒はハイボールがええのう。鶏からと合うんじゃ。もちろん、飲酒運転はせんぞっ。宇宙人でも交通ルールは守るわいっ』
休みの日のオッサンだな。
『嫌いなモノかー。小骨が多い系の魚かのう。さっきお寿司にコハダが入っておったが、骨がなくてうれしかったぞよ。さすが高いお寿司じゃのう』
わかる。たまにエラとか取り損なってるんだよ。
『休みの日の行動は答えたから……これじゃ。「好きなゲームジャンルは?」と。実は恋愛シミュレーションなのじゃ!』
さっきまでおとなしかったのに、マヒルさんは話題が変わったら急変した。なんかのスイッチが入ったらしい。
真剣な表情で、マヒルさんがPC前のゲーミングチェアに着席した。
「ではいきます。五秒前……」
社長秘書のグレースさんが、カウントダウンを始めた。
絵描き兼スタッフのぴよぴよさんが、タイムスケジュールを受け持つ。
飯塚社長が脇へ引っ込み、オレの側に立った。
『こんにちは~。「ひめにこ」なのじゃ~』
撮影が始まった瞬間、マヒルさんの声が別人に変わる。
『声優は演技中、生体が変化する』と、声優を特集したTV番組で見たことがあるけれど、本当なんだな。
マヒルさんではなく、ひめにこというキャラクターになっていた。
意外だったのが、機材の少なさである。小さな部屋にあるのは、デスクトップととマイクだけ。場合によってはノートPCを使うという。それだけしか使わないそうだ。
撮影スタジオと言うから、もっと機材とかがたくさんあると思っていた。
「動画のコンセプトが、『少ない備品で多大な効果を生むこと』だからな」
ひめにこに、3Dモデルはない。2Dのキャラで配信ができるソフトを利用して、PCで撮影する。ソフトさえあれば、スマホでも撮影できるとか。
「もっとモーションキャプチャーとか使って、派手にやるんだと思ってましたね」
3Dモデルが作れたら、もっとやれることは増えるらしい。
「実際は、こんなにも手軽にできるらしい。先人の知恵様々だ」
大手のバーチャル配信者事務所の取材をして、勉強したという。
『登録者数一〇〇〇人突破したぞよ~。ありがとぉなのじゃ~。応援してくれたみんなと、今日は乾杯したいなのじゃ~』
ひめにこが、パチパチと拍手を送っている。当のマヒルさんもうれしそうだ。
「数日で登録者数一〇〇〇人とか、すごくないですか?」
「企業系配信者だと、遅い方かもしれん。事務所を介さないキャラクターだと、こんなものかもな。私個人としては、一週間で登録者一〇〇〇人超えは素晴らしい功績だ」
飯塚社長は、誇らしげだ。参観日に娘の成長を見に来た母親の心境だろう。
応援メッセージが、バシバシ流れている。トラブル回避のため、平日の真っ昼間に配信だ。というのに、結構な人が見に来ていた。
中には既にマヒルさんが正体だと気づいている人もいて、『ヤンキー無理すんな』とか書かれている。ガチのアンチなのかジョークなのかは、まだわからない。
祝杯を終えて、マヒルさんは寿司を食べ始めた。ワサビがきつかったのか、「くう~」とオヤジみたいなため息が漏れる。「中の人が飛び出てる!」と、コメント欄もザワついた。
オレたちも、昼食がてら寿司をいただく。回っていない寿司屋の特上を頼んだのだ。社長が奮発してくれた。
ぴよぴよさんは席に座っていない。もうひとつ寿司桶を持って、奥さん元へ行っている。
「配信は自宅で見るから、トラブルがあったら戻ってくる」と言っていた。こういうとき、自宅が職場に近いとありがたい。
『おお、エア投げ銭が、たくさんじゃ。ありがたいの~』
マヒルさんが、投げ銭した「つもり」のコメントを読みながら、ウキウキした。
必要な登録者数を満たし、投げ銭機能がある国で配信していればいい。
ただ、実際に投げ銭をもらう条件は、「年間再生数が四〇〇〇時間以上」必要だ。相当数の動画を再生してもらえているが、先は長い。
どうしていろんな配信者が「雑談」や「質問企画」、「登録者数が一定に達するまでの耐久動画」とか「歌配信」とかを頻繁に行うのか、なんとなくわかる気がする。
長時間配信する必要性があるからなのでは、と。
とはいえ、ひめにこには企業のバックアップがある。そこまで収益化には執着していない。どちらかというと、企業とユーザーの架け橋になることが「ひめにこプロジェクト」の目的だ。
『今日はみんなが送ってくれた、質問に答えていくぞよ~』
スマホ片手に、マヒルさんが質問を読み上げていく。
生放送の前の週に、「質疑応答やるから、コメントくれ」と、つぶやき系サイトであらかじめコメントを募っていた。
『なになに、「カレシいるの?」じゃと? いきなりぶつけてくるのう。これはご想像に任せよう。悶々とするがよい』
実際、マヒルさんにはカレシはいないらしい。以前は恋人がいたらしいが、声優を目指すと言ったら「声優を抱ける」と思われて態度が変わった。結局別れたという。実に生々しい話だ。
『なぬ? 「彼氏がいないから付き合って」じゃとお? 一〇〇年早いわい。わらわは宇宙人ぞ。感覚が全然違うから、幻滅するのがオチじゃぞー』
少し素が出たな、マヒルさん。
『他は、「好きなモノは?」か。バイクじゃ。休みの日はMURASAKIの五〇〇を乗り回しておるぞ。食べ物なら肉系、酒はハイボールがええのう。鶏からと合うんじゃ。もちろん、飲酒運転はせんぞっ。宇宙人でも交通ルールは守るわいっ』
休みの日のオッサンだな。
『嫌いなモノかー。小骨が多い系の魚かのう。さっきお寿司にコハダが入っておったが、骨がなくてうれしかったぞよ。さすが高いお寿司じゃのう』
わかる。たまにエラとか取り損なってるんだよ。
『休みの日の行動は答えたから……これじゃ。「好きなゲームジャンルは?」と。実は恋愛シミュレーションなのじゃ!』
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