上 下
14 / 48
第二章 スポーツはゲームに含まれますか?

夜の運動?

しおりを挟む
 昼は買い物に行き、大型デパート内で夕飯にした。前に社長が食っていた、ちゃんぽん麺をいただく。チェーン店なのにうまい。

 忘れずに、来客用のカップを買った。 
 オレのセンスは疑わしいが、きっと気に入ってもらえると思う。
 お茶菓子も、ちょっといいものを揃えるか。営業をやっててよかった。よそを参考にすればいいから。
 

 必要なモノは揃えた。帰って、ゲーム三昧といきますか。


 それにしても、業者の人はありがたかった。オレの間取りほぼそのままトレスしてくれたからな。

 新居だが、少しだけグレードが上がっている。
 
 エアコンは設置済み、契約せずともWi-Fiがアパート内で繋がる。デパートも近い。本社とも古巣の支社ともアクセスが容易だ。

「さてさて今度こそミステリのアドベンチャーゲームを、と」

 ゲームを立ち上げた。

 最初から、おどろおどろしいオープニングからスタートする。

 キャバクラ嬢が、企業の内部告発をしようとしていた社員と無理心中した現場から、物語は始まった。
 しかし、探偵であるプレイヤーは現場の不自然な状況に気づく。
 探偵は、被害者が勤めていた会社の女社長が怪しいと睨む。
 が、彼女も命を狙われていると判明した。
 重要参考人なので疑いを抱きつつ、探偵は彼女を守る決意を固める。

 複雑な心境だ。やるなぁ。

「よっほっやっ」

 壁の向こうから、女性の声が聞こえてきた。

 飯塚社長だろうか。ドタドタする音からして、フィットネスゲームを続けているらしい。

 それにしても、響くな。壁が薄い? いや、防音はバッチリのハズ。

 話が進むに連れ、このゲームにもややセンシティブなシーンが挿入される。アダルトめな絵柄なので、そこまで興奮はしない。あくまでも、場の説得力を持たせるためのシーンだ。 

「んあっ……んはあっ」

 あれ。このゲーム、音声がないよな。

 また、お隣の飯塚社長が運動中らしい。

「おいおいおい」

 よりによってどうしてゲームの方まで、「探偵と女社長とのラブロマンスシーン」なんて始まるかな。狙っているのか? 相手役の女社長も、どことなく飯塚社長に似ているし。

「はあっ、はあっ、はああっ!」

 待って待って待って……。暗転したシーンで、あえがないで社長! 

「ダメだ。集中できん」

 オレは、ゲームを中断した。やばいな、想像してしまいそうだ。

 少し落ち着こう。炭酸を飲んで、一息つく。別ゲーを立ち上げて、妄想を頭から追い払わないと。派手目なシューティングにしよう。脳を忙しくして、気分を変えることにした。

「あはあ、ん……」

 まだ聞こえてくるよぉ。

 集中力が切れたところで、自機が爆発した。

 骨伝導ヘッドホンは、ちょっと失敗だったかも。耳を塞がない分、他のノイズも拾ってしまう。
 かといって、耳を塞ぐタイプには戻す気はない。インターホンやスマホの連絡などが聞き取れなかったことが何度もあったからだ。
 ましてここは、社長の部屋も近い。いつ、この間のように呼び出しがあるか。

「はひい。あはあ」

 勘弁してくれ。ホントにゲームしてるのか? なにか、よからぬ行為をいたしているのでは?

「う~ん……ふ~んっ」

 飯塚社長の声は、オレに妙な妄想までさせた。絶対にあり得ない。なのに社長の声はオレの思考を歪ませ、変な期待をさせてしまう。

 いつの間にか、シューティングの手も止まっていた。もう、ゲームどころではない。炭酸を飲む勢いも増す。こんな時に酒でも飲めたら、声を気にせずぐっすりと眠れるのだろう。

「はあはあはあはあっ……はあっ!」

 段々、社長の声が乱れ、いや淫らになっていく。

 先日社長の裸を見てしまったばかりに、頭が社長のことで一杯になってしまう。

 オレが妄想でモヤモヤしていると、ドンドン! と強いノックオンが隣から聞こえてきた。

 社長が鍵を開けたらしい音がする。

「おお、まひるちゃんじゃないか」

 どうやら、「まひる」という女性が部屋に入ってきたらしい。

「ちょっとクリスねえさん! 窓を閉めて! 隣までHな声がまる聞こえッスよ!」
「そうか。スマンスマン!」

 ガラガラと、窓を閉める音が鳴った。そこから、向こう側の音が止む。

「窓が開いてたから、社長の音が聞こえてきていたのか」

 だとしたら。オレは慌てて、自室の窓を閉めた。よし、音は聞こえなくなったぞ。

 引き続き、ミステリを進める。だが、何も情報が頭に入らない。思考は乱れ、推理は悉く外す。結局「ひとつも真相が分からないまま未解決」という、最悪のバッドエンドを迎える。

 周回を続けようかと思ったが、やめた。真夜中の鈍った思考では、どうせ続けても同じだろう。

「今日はもう寝ようぜ」と、頭の中でつぶやいた。

 ぼんやりした脳を休ませるため、ベッドの中へ入る。 

 小さなボリュームで、『まひる』という女性が社長に説教している声がした。それはいつしか、雑談になっていく。

 まひるちゃんって、何者だろう? 妹さんかな? いや、確か飯塚 久利須くりすは一人っ子のハズだ。となると、お隣さんかもしれない。

 そういえば、隣の人にあいさつもしておかないと。しかし、GWが終わってからの方がいいだろう。向こうも旅行に行くかもだし。



 結局GW中は誰とも会うことなく、休むことができた。

 ときどき呼び出されて社長とゲームはしたが、ちゃんとグレースさんも一緒である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

間違いなくVtuber四天王は俺の高校にいる!

空松蓮司
ライト文芸
次代のVtuber四天王として期待される4人のVtuberが居た。 月の巫女“月鐘(つきがね)かるな” 海軍騎士“天空(あまぞら)ハクア” 宇宙店長“七絆(なずな)ヒセキ” 密林の歌姫“蛇遠(じゃおん)れつ” それぞれがデビューから1年でチャンネル登録者数100万人を突破している売れっ子である。 主人公の兎神(うがみ)も彼女たちの大ファンであり、特に月鐘かるなは兎神の最推しだ。 彼女たちにはある噂があった。 それは『全員が同じ高校に在籍しているのでは?』という噂だ。 根も葉もない噂だと兎神は笑い飛ばすが、徐々にその噂が真実であると知ることになる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

はちびっと

とし
ライト文芸
とあるゲーム会社に就職した安達アカネ。絶滅危惧種であるドット職人を目指し、日々奮闘する物語。 作者遅筆により更新はいつされるか分かりません。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...