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第一章 美人社長とゲームを一緒に遊ぶのは辞令ですか?

自宅兼スタジオ

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 翌日、オレに正式な辞令が下った。

 先日の秘書さんから聞いた説明だとフワッしていたが、「具体案が決まった」とメールが。

 簡単に説明すると、『我が社でバーチャル配信者を作るから、サポート要員になれ』とのこと。

『お前ゲーム好きやんけ。だったらお前が配信者のやるゲーム実況のセッティングをしろ。当日やるゲームのプレイを解説するとか、色々アシストしろや』

 これが、オレの仕事内容だという。細かいことは専門家を呼ぶなりして対応するからと、説明が書かれてあった。

 重要なのは、『仕事内容は極秘事項で』という部分だ。

 オレだって、隠し通すつもりである。外部に『社長とゲームでいちゃついています』なんて漏れたら、同僚になんて言われるかわからない。

 ちゃんと守秘義務は守ります、社長! ご安心を!


「いやあ、キミも係長かー。エラくなったねー。ワシもやっと肩の荷が下りたよぉ。三年間、ご苦労さん。花咲はなさきくん」

 鬼課長が、珍しくオレを労ってくれた。会話内容はとても出世したモノを送り出すセリフではないが。

「すべて課長のご指導のたまものです」
「その謙虚さが、もっと早い段階で発揮されていれば、今頃ワシを追い越していたかもだけどねえ……」

 なんとでも言え。オレは晴れてホワイト部署に転属なのだ。

 オレは勤務先である支社を去った。




「えっと、ここだな……」

 電車で数駅かけて、目的地に辿り着く。

 新しい勤務先は、本社から近いスタジオである。スタジオだと聞いていたが、どう見ても小さなアパートである。

 咳払いをして、入り口のドアを開けた。

「おは……ん? 誰もいない?」

 だだっ広いフローリングのスタジオは、まるでダンスレッスンのステージに思える。

 クツがあるから、社長はいるようだ。

「おはようござああああああああああああ!?」

 玄関から廊下へと続く道で、思わずアゴが外れそうになる。

 スタジオの扉をあけたら、半裸の社長がいたからだ。
 黒の上下下着を身につけ、タオルを肩に掛けていた。濡れた髪がまた艶っぽい。


「わおjbmぱえwr9ううsgなkl;bなsd:呂G!?」


 オレも社長も、声にならない悲鳴を上げてしまった。

 慌ててドアを閉める。

「ドドドアホンぐらい使いたまえよ!」

 ドアの向こうから、社長の怒鳴り声が。

「すいません! 開いていたモノでつい」

 今後は、確認してから入るようにしよう。


「むう……」

 朝食のトーストをかじりながら、社長がオレを睨んでいる。

「ご自身のお部屋で、お休みになられたらよろしいのに。居住スペースは二階なのですから」
「だって、めんどくさかったんだもん」

 秘書のグレースさんにコーヒーを淹れてもらいながら、社長は頬を膨らませた。

「まさか、ラッキースケベ属性がおありだとは。ライトノベルの世界だけだと思っておりました」

 グレースさんによると、朝食前の運動を済ませてシャワーを浴びていたという。

「すいません」

 向かいの席に座って、コーヒーをごちそうになった。あやうく、人事異動早々に退職するハメになるところだったぜ。

「食事が終わったら、早速ゲームをするからな」

 朝からゲームか。なんて背徳的なんだ。しかし、これも仕事仕事。

「ひとつ伺いたいんですが、ここって」
「はい。社長の自室を改造した、簡易スタジオでございます」

 スタジオだと聞いていたので、てっきりもっと機材まみれだと思っていた。どう見てもマンションの一室なので、驚く。

「それじゃあ、社内バーチャル配信者ってのは、方便なので?」
「ああ、そのことでしたか。ちゃんと進行していますよ」

 信憑性を持たせるため、プロジェクトは稼働中だそうだ。このスタジオは仮で使っているという。

「自室を事務所にするって、税金とかは」
「ああ、自室というのは、このマンション全体のことです。社長の所有ですから」

 その一階すべてを、スタジオとして利用するらしい。

「また、配信を担当する役者さん、イラストレーターさんも、ここに住んでもらっています」

 声優さんと絵描きさんは、二階に部屋を持っているとか。家賃も、通常の半額で残りは会社持ちだ。

「へ、へえ……」

 もはや、なんでもありだな。

 現在声優さんは声のレッスン、イラストレーターさんは会社と打ち合わせ中だそうで。

「君も住むか? 通いは辛かろう」
「え、いいんですか?」
「と言っても、私の隣の部屋になるが」

 非常口側の部屋が開いているという。グレースさんはダンナさんの持ち家があり、子どもも小さいため入る気はないとか。

「社長さえよろしければ」
「そうか。是非是非」

 引っ越しの手続きを済ませ、いよいよゲーム開始だ。
 ゲーム室へ通される。

「ふえええ」

 ゲーミングPCだ。しかも結構高めの。

「このマウス、手に取ってみたかったんだよな」

 ゴチャゴチャした中二心をくすぐるマウスを、掴む。

 といっても、『幻想神話』は「パッドでも適当にこなせるゲーム」がコンセプトなので、宝の持ち腐れなのだが。

 まあいい。今後はFPSなどもやるかもしれない。ゲーミングになれておくのもいいだろう。

「『幻想神話』の続きだー。やるぞー」

 飯塚社長が、腕をまくる。

「ノリノリですね、社長」
「私は『イーさん』だ。ハナちゃん」

 そうだった。あと、警護も禁止だっけ。

「わかった。よろしくなイーさん」

 オレも、ハナちゃんモードになる。
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