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第一章 美人社長とゲームを一緒に遊ぶのは辞令ですか?

異動先は二次元

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「えっと、どういう意味なのでしょう?」
「社長がポンコツ化したので、私からご説明しましょう」

 涙目の飯塚社長に代わって、秘書のグレースさんが事情を話してくれるという。

「お願いします」
「実は、飯塚久利須社長は近々、経営者の座を降りようとお考えなのです」

 どうも社長は、近々セミリタイアをするらしい。

「経営を、辞めちゃうんですか?」

 まさか、経営悪化で会社を畳むつもりでは。

「いきなり全部を辞めるわけではありません。会社の運営自体も滞りなく進んでいます。ただ、任せられるところは人に任せ、飯塚社長自身はロイヤリティだけで過ごしたいと」

 それだけの準備はしてきたらしい。

「元々、セミリタイアか早期退職アーリーリタイアが目的だったんだ。しかし、経営とは責任がつきまとうから、辞めるに辞められなかった」

 で、青春も謳歌することができず、ズルズルとここまできてしまったらしい。

「稼ぐのは、もう十分だ。あとは自分の青春を取り戻すコトに決めたんだ。しかし、辞めると決意したとたん、気が抜けた」

「燃え尽き症候群ってヤツですね」

 老後のサラリーマンあるあるだな。それを女性の円熟期で迎えてしまったと。

「そうなんだ。しかも時代が変わりすぎて、最近のゲームもよくわからん」

 老後の楽しみとして、社長は気になっているゲームを一応買い続けていた。だが、遊ぶ余裕まではなかったらしい。

「つまり、一緒に遊んでくれと?」

「話が早いな。そのとおりだ。ネットで仲間を募ってもいいが、怖い」

 わかりますよ。見ず知らずの人と遊ぶのは怖いですもんね。オレもそうだったし、今でもそうだ。

「ご友人には頼めなかったので?」

「ゲームは、もう引退してしまったと言われたよ。私のプライベート仲間は、みんな子どもがいるからな」

 ションボリしながら、飯塚社長は答える。

「そういう事情でしたら、わかりました。オレが担当しましょう。アミューズメント部門とは、具体的に何をすれば?」

「表向きは、アミューズメント関連の意見交換にしています。でも実体は、社長とゲームをするだけです」

 ボロい。

「つまり、オレは社長と遊んでいたらOKで、企画立案に関してオレの意見は不要だと」

「まあ、そういうことになります。ご不満でしょうか?」

「ナイスだと思います」

 オレは開発者じゃない。ゲームの遊び方はわかっても、作り方までは関与しようなんて思っていない。オレにできることと言えば、モニターとして参加して不具合の調節をするくらいだろう。

「月収も三〇万を渡そう。手取りで。賞与も付ける」

 社長と遊ぶだけで、そんなにもらえるのかよ? 今の給料より三〇%アップとか。

「驚くかも知れませんが、それくらい社長の精神状態は逼迫しているとご理解ください。私も協力できればよかったのですが、世代が違いすぎて」

 最初こそ、気のいい社長仲間同士でやればいいじゃんとも思った。しかし、彼女にとって経営者たちとは「気のいい仲間」ではいられないのだろう。

「やってくれるだろうか?」

 真剣な眼差しで、社長はオレに尋ねてくる。

「正直なところ、ゲームを仕事にするつもりはなかったんです」

「そうか……」

「ですが、ただ遊ぶだけでいいなら、引き受けますよ。オレも、ゲーム好きが増えるの、うれしいし」

 そう。これは、ゲームが好きな人をもてなす立派な仕事だ。
 
 言ってしまえば忖度とも。

 しかし、営業課的には接待とも言えるのではなかろうか。

 ならば断る理由はない。しんどいなら、家で好きかってすればいいんだし。

「引き受ける前に、一つだけ。どうしてオレだったんです」


「まだわからないのか、『ハナちゃん』?」


 オレの心臓が、バクンと跳ね上がった。

「では、イーさんは社長だったんですね?」

「そのとおりだ。私がキミの弟子だ」

 やはり飯塚社長が、『イーさん』だったのである。

 彼女は単に「見た目」で魔族を選んだんじゃない。
 自分に似せてキャラメイクをしたら、社長そっくりになったんだ。

「キミなら、ヘタな私をからかうことも、マウントすることもなかろう。よって、キミを選んだ。何より、キミはゲームを楽しんでいた」

「はあ」

 支社長には適当に言い訳して、オレの所属を変えさせるという。

「今後、二人だけの時はキミのことをハナちゃんと呼ぶぞ。キミも私のことを、プライベートでは『イーさん』と呼ぶように」
「わ、わかりました」

 とにかくオレは、『社長のゲーム友だち』という役職を手に入れた。
 


 部署に戻ると、同僚や後輩たちがオレを取り囲む。

「先輩、どうなっちゃうんですか? やっぱりクビですか?」
「どうだ電太、死んだか?」

 彼らの言葉から、オレがこいつらからどう思われているかよくわかる。

「異動だってよ」

「やっぱり、リストラかー。お前ならそうなると思っていたよ」

 同僚が天を仰ぐ。でも、心なしか楽しそう。

「で、どこへ飛ばされるんだ? ド田舎か? それともメキシコか?」

 ムチャクチャだな。

「二次元だ」

 後輩が、首をかしげた。

 誰だって、そんなリアクションを取るよな。

 オレだって信じられないんだから。
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