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第二章 男の娘ニンジャと、はじまりの村

キュアノの実力

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 向かってくる巨大な鉄塊を、キュアノはサーベルを横向きに構えて受け止めた。

 あんなに細いのに、見事サーベルはバルログの武器を凌ぐ。

 エルフって、こんなに力が強いの? 見た目からは想像ができないんだけれど。

 ボクだって、筋力はそれなりに強い方だと思う。でも、戦闘になれば受け流すことが主流になる。力比べは非効率だから。

 自慢するほどの怪力ではないと、相手にわからせたかったのかなぁ。

「ほお、そんな細い身体で、このオレサマと腕試しするってのか? おそらく森を守ろうとしたか? その度胸だけは認めてやるぜ。だが、こいつはマジで武器なのかよ? 杖にしか見えねえぜ!」

 そうなのだ。キュアノのサーベルには、刃がない。非殺傷の武器らしく、刀身全体が丸いのだ。これで、どうやってバルログを倒すというのか?

「サヴ、心配ない。この武器はちゃんと刃がある」

 キュアノは、サーベルを逆手の体制で構えた。殴りかかるような体制で、バルログを押し出す。

「持ち方を変えたからって何になるってんだ!」

 バルログが、腰からもう一本の武器を取り出す。片刃の斧だ。

「死ねえ、じぇえあ!」

 横一文字に、斧を投げつける。斧をブーメランのように飛ばして、キュアノの胴体を両断する気だ。

「逃げてキュアノ!」

 ボクが叫んだときには、すでに斧がキュアノの腹筋に急接近していた。

「そのまま輪切りになっちまえ!」

 キュアノの気配が、一瞬消える。まるで、陽炎のように。明らかに、斧はキュアノの胴を捕らえているように見えたけれど。

 スコンと、岩がチーズのように真っ二つになった。

 しかし、キュアノの姿が見当たらない。

「あのアマ、どこだ?」

「上」

 キュアノの声に、バルログが真上を見上げた。

 逆手に持ったサーベルを真下に構え、キュアノは突きの姿勢で落ちてくる。相手の目かノドか。

「そんな攻撃など!」

 斧と包丁をクロスさせて、バルログは急降下してきたキュアノの攻撃を跳ね返した。さすがの巨体も、キュアノの突進を受けきれず、膝をつく。

「なんてパワーだ!? だが!」

 武器でキュアノを強引に薙ぎ払う。

 風に舞う葉のように、キュアノはふわりと着地した。

「調子に乗りやがって!」

 地面に降りるタイミングを狙って、バルログが今度こそキュアノを捉える。

 逆手持ちのまま、キュアノは二つの武器をサーベルで受け止めた。

 押されている。
 今度はキュアノが膝を落とす版だった。

「グハハハ! 非力なエルフに、このバルログ様の怪力など止められまい!」
「あなたは、一つ勘違いをしている」
「んだとぉ?」

 キュアノが、サーベルを指でなぞる。

 刃だと思っていた刀身が、縦二つに分かれた。
 バルログの頬に、冷や汗が伝う。

「これも鞘」

 バオンッ! という派手な音とともに、炎のゆらめきのような光刃が発動した。
 かと思えば、青白い軌道を描き、バルログの肩から脇腹を通り抜ける。

「ぐはあ!?」

 胴体を切り裂かれ、バルログが上を向いて瘴気を吐く。そのまま、仰向けに倒れ込んで絶命した。自分がいつ斬られたのかさえ、覚えていなだろう。

「これが、凍てる空の君」

 あまりにも一瞬で、ボクにも何が起こったのかわからない。ただ一つ言えるのは、目の前の怪物が真っ二つになったことだけ。悲鳴を上げる暇すら、与えなかった。

「大丈夫?」
「問題ない」

 汗一つかいていない。おそらく、キュアノの本気はこんなもんじゃないのだろう。

 だが、キュアノが村に視線を向けた。 

「まだ、魔力の気配が。村の方」

 隕石みたいな大きい火球が、次々と村に落下している。

 他にもバルログがいるってこと?

「早く戻らないと」
「うん。ついてきてキュアノ」

 ボクたちが、村へ駆け出そうとした瞬間だった。

 村の方角で、大爆発が起こる。

「ブランケンハイムの村が」

 炎をまとった煙が、もうもうと立ち上がっていた。

「グフフフゥ!」

 身体が半分になった状態で、バルログがニヤリと笑う。まだ生きていたのか。

 バルログの気配ではない。

「我が名は偉大なる魔王のしもべ、バルデル!」

 どうもバルログのリーダー格ネームドが、死体を借りて話しているようだ。

「始まりの村は今頃、このバルデルの配下たるモンスター共が占拠しているところだぜ。その数、およそ一万! お前たちが戻る頃には、村民の皆殺しが済んでいることだろうな。だが、安心しろ。すぐに奴らの胃袋の中で会わせてやるからよぉ。フハハハハァ、ゲホオ!」

 盛大に血を吐き、バルログは今度こそ絶命した。


 バルログの大半が、村へ先行しているらしい。

「うん。故郷を焼かれて旅立つ決意を固めるシーンって、よくあるよね」

 バルログの死体に向けて、ボクは吐き捨てるように告げる。

「どうした? 呆けた顔をして。故郷が火に巻かれている」
「帰ろう。キミも見ればわかるよ」

 ボクたちは、村へと戻る。

「再会できるのは、奴らの方だから」
「そうだな。仲間の敵討ち、助太刀する」

 キュアノもわかってなかったみたいだ。

 真実を。ブランケンハイムが「始まりの村」と呼ばれている、本当の意味をね……。

 数分ほどかけて、村に戻る。

 村は、ほとんどが焼け野原となっていた。
 あちこちで、火がくすぶっている。

「村人がいない。まさか」
 最悪の事態を想像しているのか。キュアノが、わずかに沈んだ顔になる。
「父さん」
「よぉ。よく帰ってきたな」

 そこには血まみれになった父と――

「父さん、やりすぎ」

――血まみれにされて土下座させらている、バルログ族がいた。
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