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第一章 男の娘ニンジャ、惚れられて追放!?

いいお嫁さんだって?

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「イノシシの肉か。硬いんだよな、これ」

 家畜の豚肉に比べると、臭くてちょっとミシミシした食感になる。

「よーし、これはボクの腕の見せ所だね」

 イノシシの足を切って、まな板の上に置く。
 続いて取り出したのは、麺を伸ばす用の棒だ。

「秘技・百裂拳! あたたたた……」

 麺棒で肉をドコドコと叩く。

 ハーブで下味をつけまして、パン粉を肉にまぶす。衣で肉を覆ったら、パッパと払う。それを熱した油の中へ。

 肉を揚げている間に、キャベツをザクザクと。

 油の中の肉が、きつね色になったら取り出す!

「ワーオ! イノシシのカツ、完成!」

 自分でも思わず、歓声を上げた。

 用意ができたので、いだだきます。

「このイノシシ、柔らかい」

 キュアノさんが、わずかにうっとりした顔になる。厳密には表に出していないんだけれど、雰囲気からして美味しそうに食べていた。

「棒で肉の繊維を砕いたんだ。お店のお肉みたいな柔らかさでしょ?」
「それに、ハーブも利いている。辛味があって、味わい深い」

 スパイスが、いい仕事をシてくれたみたいだな。 

「さらに長時間漬け込むと、もっとおいしいんだけれど」

 時間がなかったからね。

「私では、こんなにおいしく作れない」
「パーティでは、料理担当だったから」

 紅一点が、カレーライスか鍋料理しか作れない子だったからね。

「ごめんなさいね、サヴちゃん。帰ってきたら、あの娘にキツく言っておきます」
「いいですよ。カミラのカレーは最高だったので」

 カレーは、ドワーフの家庭料理だからね。土に詳しいから、自然とスパイスの知識も入るのだとか。その点においては、ヘルマにはとうてい敵わない。

 このスパイスに漬け込んだ調理法も、ヘルマから教わったものだ。

「ありがとうございます。あの子も男だったらねえ」

 はあ、とヘルマさんはため息をつく。

「それにしても、ほんとにおいしいですわ。サヴちゃんはいいお嫁さんになりますね」

 いや、ボクは御免こうむる。料理は好きだけれど、自分がおいしく食べたいからってだけだし。結果的に、人が喜んでいるだけだ。

 だけど、恋人と作るなら一緒に作りたい。ボクはそう思うね。 

「パーティのメンバーは今ごろ、街の宿屋なんだろうな」

 ボクは、ひとりごつ。

 冒険者ギルドがあるファウルハーバー王国は、ここからひとブロック先にある。歩いて一日かかる位置だ。王宮へも、あいさつに行っているだろう。
 こんなまったりした村にとどまる必要はない。
 街なら装備のメンテでもできる上に、ドロップ品の換金も可能である。

 ここへの用事は、ホルストがお土産としていろいろな物資を届けて寄った程度だ。

 ボクだけが、くつろいでいる。いいんだろうか。仲間は魔王討伐へ向かっているのに。

「どうか、なさいましたか?」
「いや、パーティのことが心配なだけで」

 追放された身だから、足手まといなのはわかっている。けれど、なんの役に立てないなんて。

「ぼっちゃまがあなたを追放したのは、サヴちゃんが優しすぎるからでもあるのですよ」
「ボクが、優しすぎるですって?」

 ヘルマさんが、うなずいた。

「以前から、ぼっちゃまはあなたの過剰な自己犠牲ぶりを気になさっていました。そのせいで、命を落とすのではないかと」
「気にしすぎですよ。そこまでひどくはありません」
「だと、よろしいのですが」

 それにしても、どうしてホルストは急にボクをお嫁さんにしたいとか言い出したんだろう。確かにホルストはいい男だけれど、異性として付き合うとなったら別だ。男同士だから、子供も作れない。

 それに彼は、王女様と結婚の約束していたじゃないか。
 どうするつもりなんだろ?

「ホルストが王女様とはどうなったか、ヘルマさんは知りませんか?」
「婚約を破棄されに行くとかで」
「なんですって!?」

 ボクは立ち上がった。いくらなんでも、こじらせすぎだよホルスト!

「こうしてはいられない! ボクも行かなくちゃ!」
「いえいえサヴちゃん。もう夜ですよ。今から行ったら、到着が夜中になっちゃいます。それに、王宮への近道は、危険な森も抜けなければなりません。いくらここが始まりの村と揶揄されていようとも、魔王の配下が潜んでいる可能性だって」

 ヘルマさんに説得されて、ボクは思いとどまる。冷静に考えたら、ボクが行ったところでどうにもならないよね。二人の問題だもん。責められるとしたら、ホルストだ。

「ごちそうさまでした」
「おいしゅううございました、サヴちゃん。ではお風呂へどうぞ。お着替え、ご用意しますね」
「ありがとうございます」

 ボクは指示通り、オフロに入る。ここまでは、問題なかった。警戒していたけれど、怪しいところはない。

「はーっ、気持ちいいなー」

 東洋のお風呂をイメージした浴室で、ボクは肩まで湯に沈めた。自然と、ため息が漏れる。

 王宮へ向かわなくちゃって息巻いていたのに、もうくつろいでいた。

 ここんところ、水浴びばっかりだったからなぁ。ゆったりとお風呂に入れるって、うれしい。こういうときは、お屋敷に住まわせてもらってよかったなと思うよ。

 突然、ノレンが上がった。

「へあ!? ちょ、ちょっと!」
 なんと、キュアノが入ってきたではないか。
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