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第三球 遅れてきた魔王たち
第25話 【九回ウラ】 勝負
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「チャンスを棒に振るのか?」
「うむ」
「またお前が、ムチャをすることになるだろ?」
「構わぬ」
向こうの投手は、弱っている。代わりのピッチャーもクビにしてしまって、今はうちのチームにいる。
オレか、ポムとポワールのいずれかが、スクイズで勝ち越せばよし。
仮にオレがアウトになったとしても、打順はポム、ポワール、次の回で魔王の順だ。
オレの手番で決まらなければ、延長して、魔王にまたヒットを打ってもらうと。
「それでいいのですか? そんな勝ち方で!」
まず、抗議してきたのはペシェだ。
「オイラも反対だ。どうせなら、勝負して勝ちたい」
「うむ。同感だな。初めて、ペシェと意見があった気がする」
レザンとムロンも、延長案に反対した。
「でも、イチゴー監督がこんな状態では、無理はできないわ!」
多数決では、半々というところである。
「心配してくれているんだよな? ありがとう」
みんな、安堵の色を見せた。
「その上で頼む。オレに、パステークと勝負をさせてくれ」
オレは、みんなに頭を下げる。
監督として考えたら、このアイデアはあまり得策ではない。弱っているとはいえ、相手がまだ万全の状態だ。
その中で、非力なオレが戦えば確実にアウトになる。最悪、ダブルプレーまで取られるだろう。
三塁に残留するオランジェが帰れなかったら、オレの作戦ミスとなる。
となれば、流れが変わって相手が息を吹き返す危険もあった。
それでも、オレはアイツと戦わなければならない。
「勝ちたいんだ」
オレ一人のせいで、仲間が妥協案を出している。
ならば、オレができると証明するしかない。
「お主がそう言うなら、やるか」
「ありがとう」
「ただし、どのような副作用が出るかわからぬ。それは覚悟しておいておくれ」
「わかった」
再び、オレはバッターボックスへ。
「待たせた。やるか」
バットを構えて、パステークを迎え撃つ。
「こっちも十分休ませてもらったよ! さあ、楽しませてよ、ねっ!」
勇者パステークのサブマリンが、浮上してきた。
間近で見ると、すごい迫力だ。見るだけなのと実際に対峙するのとでは、ここまで違うのか。
「ボール!」
だが、やや高めに飛んだ球はボールの判定に。ストライクゾーンが狭すぎるのだろう。
「ツーボール!」
また、勇者がボール扱いにされた。オレの身体が小さすぎるためか、いつものコースで投げてもボールにされている。
これは、思いがけずラッキーだな。
普通の監督なら、押し出しで満塁を考えるだろう。
とはいえ、これでも点には繋がらない。ランナーを返す必要がある。
オレは足も遅いため、満塁になったところでチャンスを活かせない。
「ストライク!」
ようやく調子づいたのか、勇者にストライクが出るようになった。
『ボールカウントがツーストライク・スリーボール。フルカウントとなりました! さてイチゴー監督、得点へ結びつけることができるか?』
オレも、元投手である。バッティングがうまいわけじゃない。しかし、点に繋ぐ。
軌道をとらえ、オレはフルスイングで打ち返す。ボールはピッチャーをかすめ、一・二塁間へ。
『打った! しかし、ピッチャー返し! ああっと!』
ドラゴンのパステークは、たしかにボールを捉えようとしていた。しかし、自分の身体が縮んでいることに気づいていなかったようである。
ボールは勇者のグローブの先を、わずかにかすめた。
『取れない! 勇者パステーク選手ボールを取れませんでした! ボールは一・二塁間を抜けて、ライトに転がっていく!』
変な軌道に飛び、ヒットになってしまう。
その間に、オランジェが帰塁した。
ベンチにいたメンバーが、オランジェを迎えに行く。
『まさかの、サヨナラ打! イチゴー監督やりました! サヨナラタイムリーッ! 試合終了ぉ! この試合、魔王立 野いちご女学園の勝利です! 優勝候補の聖さくらんぼ女学院が、一回戦で姿を消しました!』
だが、オレもここまでだったらしい。
一塁ベースを踏んだ瞬間、オレは意識が飛んだ。
「うむ」
「またお前が、ムチャをすることになるだろ?」
「構わぬ」
向こうの投手は、弱っている。代わりのピッチャーもクビにしてしまって、今はうちのチームにいる。
オレか、ポムとポワールのいずれかが、スクイズで勝ち越せばよし。
仮にオレがアウトになったとしても、打順はポム、ポワール、次の回で魔王の順だ。
オレの手番で決まらなければ、延長して、魔王にまたヒットを打ってもらうと。
「それでいいのですか? そんな勝ち方で!」
まず、抗議してきたのはペシェだ。
「オイラも反対だ。どうせなら、勝負して勝ちたい」
「うむ。同感だな。初めて、ペシェと意見があった気がする」
レザンとムロンも、延長案に反対した。
「でも、イチゴー監督がこんな状態では、無理はできないわ!」
多数決では、半々というところである。
「心配してくれているんだよな? ありがとう」
みんな、安堵の色を見せた。
「その上で頼む。オレに、パステークと勝負をさせてくれ」
オレは、みんなに頭を下げる。
監督として考えたら、このアイデアはあまり得策ではない。弱っているとはいえ、相手がまだ万全の状態だ。
その中で、非力なオレが戦えば確実にアウトになる。最悪、ダブルプレーまで取られるだろう。
三塁に残留するオランジェが帰れなかったら、オレの作戦ミスとなる。
となれば、流れが変わって相手が息を吹き返す危険もあった。
それでも、オレはアイツと戦わなければならない。
「勝ちたいんだ」
オレ一人のせいで、仲間が妥協案を出している。
ならば、オレができると証明するしかない。
「お主がそう言うなら、やるか」
「ありがとう」
「ただし、どのような副作用が出るかわからぬ。それは覚悟しておいておくれ」
「わかった」
再び、オレはバッターボックスへ。
「待たせた。やるか」
バットを構えて、パステークを迎え撃つ。
「こっちも十分休ませてもらったよ! さあ、楽しませてよ、ねっ!」
勇者パステークのサブマリンが、浮上してきた。
間近で見ると、すごい迫力だ。見るだけなのと実際に対峙するのとでは、ここまで違うのか。
「ボール!」
だが、やや高めに飛んだ球はボールの判定に。ストライクゾーンが狭すぎるのだろう。
「ツーボール!」
また、勇者がボール扱いにされた。オレの身体が小さすぎるためか、いつものコースで投げてもボールにされている。
これは、思いがけずラッキーだな。
普通の監督なら、押し出しで満塁を考えるだろう。
とはいえ、これでも点には繋がらない。ランナーを返す必要がある。
オレは足も遅いため、満塁になったところでチャンスを活かせない。
「ストライク!」
ようやく調子づいたのか、勇者にストライクが出るようになった。
『ボールカウントがツーストライク・スリーボール。フルカウントとなりました! さてイチゴー監督、得点へ結びつけることができるか?』
オレも、元投手である。バッティングがうまいわけじゃない。しかし、点に繋ぐ。
軌道をとらえ、オレはフルスイングで打ち返す。ボールはピッチャーをかすめ、一・二塁間へ。
『打った! しかし、ピッチャー返し! ああっと!』
ドラゴンのパステークは、たしかにボールを捉えようとしていた。しかし、自分の身体が縮んでいることに気づいていなかったようである。
ボールは勇者のグローブの先を、わずかにかすめた。
『取れない! 勇者パステーク選手ボールを取れませんでした! ボールは一・二塁間を抜けて、ライトに転がっていく!』
変な軌道に飛び、ヒットになってしまう。
その間に、オランジェが帰塁した。
ベンチにいたメンバーが、オランジェを迎えに行く。
『まさかの、サヨナラ打! イチゴー監督やりました! サヨナラタイムリーッ! 試合終了ぉ! この試合、魔王立 野いちご女学園の勝利です! 優勝候補の聖さくらんぼ女学院が、一回戦で姿を消しました!』
だが、オレもここまでだったらしい。
一塁ベースを踏んだ瞬間、オレは意識が飛んだ。
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