上 下
23 / 26
第三球 遅れてきた魔王たち

第23話 【九回オモテ】 オレはゴスロリがユニフォーム

しおりを挟む
『さて、魔王立野いちごフワンボワーズ学園対聖さくらんぼスリーズ女学院の試合も、九回を残すのみとなりました。とはいえ両チーム、手札をほぼ出し切っています。どう出るのか?』

 ライトではマントヒヒ召還獣の代わりに、魔王ラバナーヌがあくびをかみ殺す。本当にさっきのホームランで、すべてを出し切ってしまったのだろう。

『サードの選手も、変わったということですが……あーっとぉ! なんということだ!? サードのゴリラ召還獣選手に変わって、イチゴー監督です! 皆さんご覧ください。あの小さい寸胴体型の少女を! あれが、イチゴー監督が魔法で女性に変えられた姿だそうです!』

 人数がいないなら、監督が入ればいい。その理屈で、オレは女体化させられ、試合に参加している。服までゴスロリユニフォームに、着替えさせられて。

「こんなの聞いてない! 反則って取られたらどうするんだ!」

 ライトにいる魔王に、オレは抗議した。

「ちゃんとメンバー表には控えの選手として登録しておる! 『謎の美少女サード、イチゴちゃん』として!」

「はあ!?」

 名前まで変えられるとは! 

 マジか。メンバーとして戦うのは百歩譲ってよしとする。しかし、少女の姿に変えられるとは。

「よいよい。そのうちクセになる」

「いらん!」

 悪夢なら、とっとと終わってくれ。

「ほれみろ! 相手チームが審議を要求しているじゃないか!」

 すごい剣幕で、シトロンが審判に噛みついている。あれはいいのかと。

 約五分ほど、試合が止まった。ピリ付いた空気が、会場に漂う。

 女性審判からボディチェックを受けながら、オレは物言いが終わるのを見守った。

 男性の審判長が、マイクを持つ。

『えー先ほどスリーズ女学院から、男性が内野に立っていいのか、という物言いがありました。ボディチェックの結果、相手選手は正常であり、選手表にも事前に名前が記載されていることを確認しました。よって、選手として登録していると見なします!』

 厳選な審議の結果、試合は続行となった。

 観客席から、歓声とブーイングが交互に飛んでくる。

 悪い空気は続く。

 試合の方も、ワンアウトながらランナー一塁のピンチになった。三遊間に飛んできた球を、オレが一塁に悪送球してしまったのだ。

「身体が馴染んでないんだな。すまん」

 男の状態だったら、うまく投げられたかもしれない。自分の身体能力を、過信してしまったな。

「気にするな。取り返していこう」

 ムロンに励ましをもらう。

 そこから相手も、バント作戦にスイッチした。こちらのエラーをチャンスと見て、意地でも点を取りに来ているらしい。

「次から次と、妙な動きをなさるのですね!」

 逆転のランナーを抱えたまま、現れたのはシトロンだ。本日絶好調である。

「ですが、お身体はまだ慣れていないご様子ですわ……ねっ!」

『あっと打った! これは大きい!』

 しかし……。

「チンパン止まれ! ポワール! お前の前方に飛んでいくぞ!」

 
 二塁からライト前に走るチンパンを止めて、ポワールに前へ走らせる。

 やられた。ホームラン狙いじゃない。初めから犠牲フライが目的だとは。

 そうか。点を取れたらいいんだ。犠牲フライだろうと狙ってくる! うまく落ちてくれれば、センター前ヒットだ。
 
 もしや、やる気のない魔王のいるレフト前を狙ったのか?

 センター・レフト間は、ポワールがポムのいるライトに寄っているから、ガラ空きだ。

 ペシェの得意球が【遅いチェンジアップ】だと見越して、ホームランを捨てたのだろう。

 シトロンもオランジェと同じで、本来は自分を捨てて点を取りに行くタイプだったらしい。どこまでもシステマチックな野球をする。

「おっとっと。よし」

 ようやく、ポワールがボールをキャッチした。犠牲フライが成立する。

 じれていた三塁手のギアが、トップになった。こいつ、足の早いタイプか。

「こっちだポワール!」

「ほい」

 ポワールが放り投げた球を、ホームへ返す。

 相手チームのランナーが、足から滑り込んで帰塁してくる。

 あわや接触という危ない場面だが、はたして……。

「アウト! スリーアウトチェンジ!」

 オランジェが、選手の足を見事に抑え込んでいた。これで二対二の、同点で九回へ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...