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第三球 遅れてきた魔王たち
第22話 【八回ウラ】思わぬ助っ人
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「負傷退場なんてイヤだ! オイラは、まだやれる!」
控室で、レザンが暴れている。その腕には、痛々しい包帯が巻かれていた。
「でも、あなたのケガは治癒魔法では間に合わないレベルだわ。大事を取ってもらわないと」
チームリーダーのオランジェが、レザンをなだめる。
「腕がなくなってもいい! 今はピンチなんだろ!? オイラがやらないと!」
「一人の選手が犠牲になって成り立つ勝利なんて、このメンバーの誰も望んでいないわ!」
オランジェが、駄々をこねるレザンを黙らせた。
「そんな形で勝利を手に入れたって誰も喜ばないわ。それは、あなたが一番良くわかっているはずよ!」
「う……」
それでも、レザンはあきらめきれない様子だ。
治癒魔法と言っても、一時的に傷を塞いだり骨をつなげたりするだけらしい。治療院と呼ばれる場所で、適切な処置を受ける必要があるという。
「なんとかならないのか?」
オレは、魔王ラバに助言を求めた。
「……奥の手を、使うしかあるまい」
ラバが、腰を上げる。
「勝利を確実にするため、選手を交代させるぞよ。二人」
二本指を立てて、魔王が宣言した。
レザンが、うつむく。
魔王が、マントヒヒとゴリラを呼び出した。
「なんザマしょう、お嬢様?」
「お前の力をあの子に、レザンにやれ」
うつむいていたレザンの頭が、上を向く。
魔王に呼ばれて、マントヒヒがレザンの腕を取る。
「承知したザマス。ワタシは野球では対して役に立ちませんでしたザマスから。お役に立てて何より」
マントヒヒが、レザンの手に自分の手を添えた。
「ワタシの全パワーを送り込むザマス」
それで、残りのゲーム回数分はもつだろうとのこと。
「でも、あんたは」
「別にワタシは死ぬわけじゃないザマス。召還獣ザマスからね」
この試合中には、マントヒヒを呼び出せなくなるだけだとか。
マントヒヒの霊圧が、消えた。
「手を動かしてみるがよい」
レザンが魔王の言うとおりにすると、手が元に戻っていた。
「ありがとう、魔王!」
これで、レザンの方は大丈夫なようだ。
「オレからも礼を言う。マントヒヒにも、ヨロシク言っておいてくれ」
「うむ。あやつも役に立てて喜ぶだろうて」
魔王が「さて」と、腰を上げた。
「ゴリラの方には、もっと大事な用事がある」
「フンガー」
魔王とゴリラが、綿密な打ち合わせをしていた。
「ですが、次の打席はマントヒヒさんですわ。打者はどなたになさって?」
「そんなの決まっているだろう」
なんと、魔王がヘルメットをかぶる。
「余、自らが出る」
「冗談でしょ!? あなたにバッティングの能力なんて」
「見ておれ。ゴリラ」
「フンガー」
ゴリラが光となって、魔王の体内に吸収されていった。
「今のは?」
「まあ、ベンチで見ておるがいい」
魔王が、バットを持ってボックスに立つ。
『ああーと! なんと八番打者は魔王です。魔王ラバナーヌ自らが、バットを握っております。選手表を受け取りましたが、レザン選手の治療に際して、選手交代があったそうです。とはいえ、魔王はマネージャーではありませんでしたか? 一応、控えの選手として登録はされておりますが』
ナメられたと思ったのか、パステークが怒りをあらわにする。
どうせ打てるわけがないと、甘い球が放り込まれた。
だが、ラバは初球すらも見逃さない。
『なんということだ! 非力と思われたらラバナーヌ選手、ソロホームラン! 本試合初ホームランは、マネージャーの魔王ラバナーヌから! これで同点! 勝負はわからなくなってきた!』
興奮するラジオが流れる中、魔王がホームベースに帰還した。
「魔王様、なんなのあれは!? 反則です!」
「いや。反則などしておらぬ。余は、ゴリラから腕力と、あのドラゴンの戦闘データを手に入れただけぞ」
それを、反則っていうんだがな……。
「それにもう、余は疲れた。守備はポンコツ化するゆえ、期待するでない」
続くランナーで追加点と行きたかったが、そうもいかない。レザンお得意のセーフティーバントも対策され、勝負は九回までお預けとなった。
「ここからは、本気を出し放題、って言っていたな」
最悪、なんでもありなルールになると。
ただ、できるだけフェアプレーにはなるだろう。
「ですが、相手チームはドラゴンという隠し玉を出しています。恐れるのはパステークさんと、強打のシトロンさんでしょう」
九回は、シトロンにまで打順が回ってくる。あの強打者さえ止められれば。
「ちょい待て! 守備も足りねえ。ゴリラの穴はどう埋めるんだ?」
「は? 交代選手なら、おるではないか。目の前に」
えっ? なんでオレを指すんだ?
控室で、レザンが暴れている。その腕には、痛々しい包帯が巻かれていた。
「でも、あなたのケガは治癒魔法では間に合わないレベルだわ。大事を取ってもらわないと」
チームリーダーのオランジェが、レザンをなだめる。
「腕がなくなってもいい! 今はピンチなんだろ!? オイラがやらないと!」
「一人の選手が犠牲になって成り立つ勝利なんて、このメンバーの誰も望んでいないわ!」
オランジェが、駄々をこねるレザンを黙らせた。
「そんな形で勝利を手に入れたって誰も喜ばないわ。それは、あなたが一番良くわかっているはずよ!」
「う……」
それでも、レザンはあきらめきれない様子だ。
治癒魔法と言っても、一時的に傷を塞いだり骨をつなげたりするだけらしい。治療院と呼ばれる場所で、適切な処置を受ける必要があるという。
「なんとかならないのか?」
オレは、魔王ラバに助言を求めた。
「……奥の手を、使うしかあるまい」
ラバが、腰を上げる。
「勝利を確実にするため、選手を交代させるぞよ。二人」
二本指を立てて、魔王が宣言した。
レザンが、うつむく。
魔王が、マントヒヒとゴリラを呼び出した。
「なんザマしょう、お嬢様?」
「お前の力をあの子に、レザンにやれ」
うつむいていたレザンの頭が、上を向く。
魔王に呼ばれて、マントヒヒがレザンの腕を取る。
「承知したザマス。ワタシは野球では対して役に立ちませんでしたザマスから。お役に立てて何より」
マントヒヒが、レザンの手に自分の手を添えた。
「ワタシの全パワーを送り込むザマス」
それで、残りのゲーム回数分はもつだろうとのこと。
「でも、あんたは」
「別にワタシは死ぬわけじゃないザマス。召還獣ザマスからね」
この試合中には、マントヒヒを呼び出せなくなるだけだとか。
マントヒヒの霊圧が、消えた。
「手を動かしてみるがよい」
レザンが魔王の言うとおりにすると、手が元に戻っていた。
「ありがとう、魔王!」
これで、レザンの方は大丈夫なようだ。
「オレからも礼を言う。マントヒヒにも、ヨロシク言っておいてくれ」
「うむ。あやつも役に立てて喜ぶだろうて」
魔王が「さて」と、腰を上げた。
「ゴリラの方には、もっと大事な用事がある」
「フンガー」
魔王とゴリラが、綿密な打ち合わせをしていた。
「ですが、次の打席はマントヒヒさんですわ。打者はどなたになさって?」
「そんなの決まっているだろう」
なんと、魔王がヘルメットをかぶる。
「余、自らが出る」
「冗談でしょ!? あなたにバッティングの能力なんて」
「見ておれ。ゴリラ」
「フンガー」
ゴリラが光となって、魔王の体内に吸収されていった。
「今のは?」
「まあ、ベンチで見ておるがいい」
魔王が、バットを持ってボックスに立つ。
『ああーと! なんと八番打者は魔王です。魔王ラバナーヌ自らが、バットを握っております。選手表を受け取りましたが、レザン選手の治療に際して、選手交代があったそうです。とはいえ、魔王はマネージャーではありませんでしたか? 一応、控えの選手として登録はされておりますが』
ナメられたと思ったのか、パステークが怒りをあらわにする。
どうせ打てるわけがないと、甘い球が放り込まれた。
だが、ラバは初球すらも見逃さない。
『なんということだ! 非力と思われたらラバナーヌ選手、ソロホームラン! 本試合初ホームランは、マネージャーの魔王ラバナーヌから! これで同点! 勝負はわからなくなってきた!』
興奮するラジオが流れる中、魔王がホームベースに帰還した。
「魔王様、なんなのあれは!? 反則です!」
「いや。反則などしておらぬ。余は、ゴリラから腕力と、あのドラゴンの戦闘データを手に入れただけぞ」
それを、反則っていうんだがな……。
「それにもう、余は疲れた。守備はポンコツ化するゆえ、期待するでない」
続くランナーで追加点と行きたかったが、そうもいかない。レザンお得意のセーフティーバントも対策され、勝負は九回までお預けとなった。
「ここからは、本気を出し放題、って言っていたな」
最悪、なんでもありなルールになると。
ただ、できるだけフェアプレーにはなるだろう。
「ですが、相手チームはドラゴンという隠し玉を出しています。恐れるのはパステークさんと、強打のシトロンさんでしょう」
九回は、シトロンにまで打順が回ってくる。あの強打者さえ止められれば。
「ちょい待て! 守備も足りねえ。ゴリラの穴はどう埋めるんだ?」
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