上 下
22 / 26
第三球 遅れてきた魔王たち

第22話 【八回ウラ】思わぬ助っ人

しおりを挟む
「負傷退場なんてイヤだ! オイラは、まだやれる!」

 控室で、レザンが暴れている。その腕には、痛々しい包帯が巻かれていた。

「でも、あなたのケガは治癒魔法では間に合わないレベルだわ。大事を取ってもらわないと」

 チームリーダーのオランジェが、レザンをなだめる。

「腕がなくなってもいい! 今はピンチなんだろ!? オイラがやらないと!」

「一人の選手が犠牲になって成り立つ勝利なんて、このメンバーの誰も望んでいないわ!」

 オランジェが、駄々をこねるレザンを黙らせた。

「そんな形で勝利を手に入れたって誰も喜ばないわ。それは、あなたが一番良くわかっているはずよ!」

「う……」

 それでも、レザンはあきらめきれない様子だ。

 治癒魔法と言っても、一時的に傷を塞いだり骨をつなげたりするだけらしい。治療院と呼ばれる場所で、適切な処置を受ける必要があるという。

「なんとかならないのか?」

 オレは、魔王ラバに助言を求めた。

「……奥の手を、使うしかあるまい」

 ラバが、腰を上げる。

「勝利を確実にするため、選手を交代させるぞよ。二人」

 二本指を立てて、魔王が宣言した。

 レザンが、うつむく。

 魔王が、マントヒヒとゴリラを呼び出した。

「なんザマしょう、お嬢様?」

「お前の力をあの子に、レザンにやれ」

 うつむいていたレザンの頭が、上を向く。

 魔王に呼ばれて、マントヒヒがレザンの腕を取る。

「承知したザマス。ワタシは野球では対して役に立ちませんでしたザマスから。お役に立てて何より」

 マントヒヒが、レザンの手に自分の手を添えた。

「ワタシの全パワーを送り込むザマス」

 それで、残りのゲーム回数分はもつだろうとのこと。

「でも、あんたは」

「別にワタシは死ぬわけじゃないザマス。召還獣ザマスからね」

 この試合中には、マントヒヒを呼び出せなくなるだけだとか。

 マントヒヒの霊圧が、消えた。

「手を動かしてみるがよい」

 レザンが魔王の言うとおりにすると、手が元に戻っていた。

「ありがとう、魔王!」

 これで、レザンの方は大丈夫なようだ。

「オレからも礼を言う。マントヒヒにも、ヨロシク言っておいてくれ」


「うむ。あやつも役に立てて喜ぶだろうて」

 魔王が「さて」と、腰を上げた。

「ゴリラの方には、もっと大事な用事がある」

「フンガー」

 魔王とゴリラが、綿密な打ち合わせをしていた。

「ですが、次の打席はマントヒヒさんですわ。打者はどなたになさって?」

「そんなの決まっているだろう」

 なんと、魔王がヘルメットをかぶる。

「余、自らが出る」

「冗談でしょ!? あなたにバッティングの能力なんて」

「見ておれ。ゴリラ」

「フンガー」

 ゴリラが光となって、魔王の体内に吸収されていった。


「今のは?」

「まあ、ベンチで見ておるがいい」

 魔王が、バットを持ってボックスに立つ。

『ああーと! なんと八番打者は魔王です。魔王ラバナーヌ自らが、バットを握っております。選手表を受け取りましたが、レザン選手の治療に際して、選手交代があったそうです。とはいえ、魔王はマネージャーではありませんでしたか? 一応、控えの選手として登録はされておりますが』

 ナメられたと思ったのか、パステークが怒りをあらわにする。

 どうせ打てるわけがないと、甘い球が放り込まれた。

 だが、ラバは初球すらも見逃さない。

『なんということだ! 非力と思われたらラバナーヌ選手、ソロホームラン! 本試合初ホームランは、マネージャーの魔王ラバナーヌから! これで同点! 勝負はわからなくなってきた!』

 興奮するラジオが流れる中、魔王がホームベースに帰還した。

「魔王様、なんなのあれは!? 反則です!」

「いや。反則などしておらぬ。余は、ゴリラから腕力と、あのドラゴンの戦闘データを手に入れただけぞ」

 それを、反則っていうんだがな……。

「それにもう、余は疲れた。守備はポンコツ化するゆえ、期待するでない」

 続くランナーで追加点と行きたかったが、そうもいかない。レザンお得意のセーフティーバントも対策され、勝負は九回までお預けとなった。

「ここからは、本気を出し放題、って言っていたな」

 最悪、なんでもありなルールになると。

 ただ、できるだけフェアプレーにはなるだろう。

「ですが、相手チームはドラゴンという隠し玉を出しています。恐れるのはパステークさんと、強打のシトロンさんでしょう」

 九回は、シトロンにまで打順が回ってくる。あの強打者さえ止められれば。

「ちょい待て! 守備も足りねえ。ゴリラの穴はどう埋めるんだ?」

「は? 交代選手なら、おるではないか。目の前に」

 えっ? なんでオレを指すんだ?
しおりを挟む

処理中です...