20 / 26
第二球 選手《キミ》がいて監督《オレ》がいる風景
第20話 【六回ウラ~七回ウラ】 ドラゴン攻略法
しおりを挟む
『ああっと、なんとパステーク選手が、モンスターに変身しました! パステーク選手の正体は、ドラゴンだったようです!』
実況籍もだが、観客席も盛り上がっている。悲鳴を上げる人は、誰もいない。この状況を、楽しんでいるみたいだ。
やはり一番沸いているのは、スリーズ側の応援席である。今のスリーズは守備側なので、応援できない。しかし、最も声がデカかった。
『さて、シードラゴンとなったパステーク選手、第一球……投げた! ああっとストレート。ムロン選手、さっき打てた球に手が出ません!』
なんだ、あの球は? まるで水柱じゃないか。
ムロンも食らいつこうとするが、打てない。
勇者の投法は、変わらずサブマリンだ。だが、威力はまるで違った。ペシェのチェンジアップのように、球の速度をコントロールしてタイミングをずらす戦法とは違う。まともなストレートだ。しかし、速すぎる。
今はツーアウトだから、さっきのようなスクイズも通じない。しかも相手もこちらもサウスポーだ。相性が悪すぎる。
「ムロン、力むな! 打つことだけ考えろ!」
ヘタな指示を出せば、ムロンを負傷させてしまう。無難なことしか言えない自分がもどかしい。
「心配するな、イチゴー。私は当てるぞ、絶対に! おおおおお!」
『ボールカウントは、ツーストライク・スリーボール! 第、六球! ああっとミートした……え!?』
宣言通り、ムロンはバットに当てた。当てたんだ。しかし。
「ぐああああ!」
金属バットが、くの字に曲がって溶けた。
「こなくそおお!」
渾身の力を込めて、ムロンはボールを飛ばそうとバットを振る。
『打ちました。あの怪物めいた球を見事にバットへ当てましたが……セカンドフライ。スリーアウトチェンジです』
見事なスイングだった。初見のボールに、よく食らいついてくれたもんだ。ムロンは、だたものではない。
「すまん、球は当たったが、得点には繋がらなかった」
しかし、当の本人は顔が沈んでいる。
「すごいんだぞ、お前は。誇っていい」
「名誉なもんか。結果に結びつかねば」
「勝利だけが、お前の仕事じゃない」
「何を言うか、イチゴーッ! 私は何の役にも!」
「チームメイトを見ても、そんなことが言えるか?」
オレの言葉に触発されて、ムロンがメンバーを見る。
みんな、清々しい顔をしていた。
「ナイスプレーですわ、ムロンさん。ライバルながら、あっぱれな行いです」
「オイラだったら、逃げてたよ」
ペシェとレザンが、ムロンを励ます。
「なぐさめるな! 私は仕事が果たせなかった」
「いいえ。あなたは仕事をしたわ」
落ち込むムロンの肩に、オランジェが腕を回した。
「うむ。お主は我々の、勇者に対する恐怖心を取っ払ってくれた。すごいことぞ」
「次の回は、任せてよ!」
落ち込んでいるムロンを、魔王ラバとポムが励ます。
「ウチらも球をよく観察して、ムロンっちに繋ぐよ。で、いいんだよね、監督ちゃん?」
「イチゴー監督。あなたは、野球は全員でやるスポーツだって言った。我々も協力する。ご指示を」
妹のポワールも、この試合に勝つつもりでいる。二人とも素人だったのに。
よく考えてみたら、ダンスにおいて二人はプロだった。その責任感が、誰よりも強いのだろう。
「みんな。ありがとう! 次の回で、竜退治だ!」
ムロンが腕を上げると、みんなで「オーッ!」と叫ぶ。
このチームを指揮できて、本当によかった。
七回といえば、試合が動く時間である。ペシェが三者凡退で抑えたとはいえ、こちらもゴリラとポムが三振で返ってきた。
「球が全っ然、見えなかったぁ」
バットを担ぎながら、ポムが悔しがる。
「でも、なんか勇者の様子は変だったよ」
「どうおかしかったんだ?」
「ゼエゼエいってる感じ。ウチらの家ってね、ドラゴンのコミュニティとも仲がいいんだよね。あの子たちさ、オーバーヒートするとウロコが開くんだよ」
巧妙に隠しているつもりだろうが、すぐにわかってしまうという。
「確かめてくる」
続くポワールが、チップ……つまりファールを狙って当てに行った。普段から姉を担いでダンスをしているため、重い球にも動じない。目もよかった。なんせ、シトロンの打球の軌道を読んで取ろうとしたくらいだから。
「すごい。私は、当てられなかったのに」
「最初だったからな。お前はよくやった」
ムロンが粘ってくれたおかげで、ポワールも仕事ができたのだ。
強打者のムロンが当てられないラインを、ポワールはすくい上げる形でバットを振る。
だが、ファール二球で、ポワールも限界か。
「ストライク!」
内角低めの球に、ポワールが食らいついてしまった。コントロールの精度も高まっていたのか。いや、違う。
「ごめんなさい。もっと投げさせて疲れさせようと思ったのに」
「あれでいい。十分相手は疲弊している」
それは、八回まで行けばわかる。
オレたちは円陣を組み、アドバイスを送る。
「みんな。よろしく頼む。あのでかいドラゴンは、たしかに強い。しかし、相手は一人だ。あのドラゴンさえ倒せば、なんとかなるかもしれない」
一対一なら勝てない相手でも、全員でかかれば。
「みんな、いくわよ!」
オランジェが、円の中心に手を差し出す。
「みなの力を一つにするぞよ」
魔王ラバが続く。
全員が手をかざし、最後にペシェが重なった手の甲に自分の手を乗せた。
「試合は、わたくしが繋ぎますわ。みなさんも、踏ん張ってくださいまし!」
みんなで、気合を入れ直す。
実況籍もだが、観客席も盛り上がっている。悲鳴を上げる人は、誰もいない。この状況を、楽しんでいるみたいだ。
やはり一番沸いているのは、スリーズ側の応援席である。今のスリーズは守備側なので、応援できない。しかし、最も声がデカかった。
『さて、シードラゴンとなったパステーク選手、第一球……投げた! ああっとストレート。ムロン選手、さっき打てた球に手が出ません!』
なんだ、あの球は? まるで水柱じゃないか。
ムロンも食らいつこうとするが、打てない。
勇者の投法は、変わらずサブマリンだ。だが、威力はまるで違った。ペシェのチェンジアップのように、球の速度をコントロールしてタイミングをずらす戦法とは違う。まともなストレートだ。しかし、速すぎる。
今はツーアウトだから、さっきのようなスクイズも通じない。しかも相手もこちらもサウスポーだ。相性が悪すぎる。
「ムロン、力むな! 打つことだけ考えろ!」
ヘタな指示を出せば、ムロンを負傷させてしまう。無難なことしか言えない自分がもどかしい。
「心配するな、イチゴー。私は当てるぞ、絶対に! おおおおお!」
『ボールカウントは、ツーストライク・スリーボール! 第、六球! ああっとミートした……え!?』
宣言通り、ムロンはバットに当てた。当てたんだ。しかし。
「ぐああああ!」
金属バットが、くの字に曲がって溶けた。
「こなくそおお!」
渾身の力を込めて、ムロンはボールを飛ばそうとバットを振る。
『打ちました。あの怪物めいた球を見事にバットへ当てましたが……セカンドフライ。スリーアウトチェンジです』
見事なスイングだった。初見のボールに、よく食らいついてくれたもんだ。ムロンは、だたものではない。
「すまん、球は当たったが、得点には繋がらなかった」
しかし、当の本人は顔が沈んでいる。
「すごいんだぞ、お前は。誇っていい」
「名誉なもんか。結果に結びつかねば」
「勝利だけが、お前の仕事じゃない」
「何を言うか、イチゴーッ! 私は何の役にも!」
「チームメイトを見ても、そんなことが言えるか?」
オレの言葉に触発されて、ムロンがメンバーを見る。
みんな、清々しい顔をしていた。
「ナイスプレーですわ、ムロンさん。ライバルながら、あっぱれな行いです」
「オイラだったら、逃げてたよ」
ペシェとレザンが、ムロンを励ます。
「なぐさめるな! 私は仕事が果たせなかった」
「いいえ。あなたは仕事をしたわ」
落ち込むムロンの肩に、オランジェが腕を回した。
「うむ。お主は我々の、勇者に対する恐怖心を取っ払ってくれた。すごいことぞ」
「次の回は、任せてよ!」
落ち込んでいるムロンを、魔王ラバとポムが励ます。
「ウチらも球をよく観察して、ムロンっちに繋ぐよ。で、いいんだよね、監督ちゃん?」
「イチゴー監督。あなたは、野球は全員でやるスポーツだって言った。我々も協力する。ご指示を」
妹のポワールも、この試合に勝つつもりでいる。二人とも素人だったのに。
よく考えてみたら、ダンスにおいて二人はプロだった。その責任感が、誰よりも強いのだろう。
「みんな。ありがとう! 次の回で、竜退治だ!」
ムロンが腕を上げると、みんなで「オーッ!」と叫ぶ。
このチームを指揮できて、本当によかった。
七回といえば、試合が動く時間である。ペシェが三者凡退で抑えたとはいえ、こちらもゴリラとポムが三振で返ってきた。
「球が全っ然、見えなかったぁ」
バットを担ぎながら、ポムが悔しがる。
「でも、なんか勇者の様子は変だったよ」
「どうおかしかったんだ?」
「ゼエゼエいってる感じ。ウチらの家ってね、ドラゴンのコミュニティとも仲がいいんだよね。あの子たちさ、オーバーヒートするとウロコが開くんだよ」
巧妙に隠しているつもりだろうが、すぐにわかってしまうという。
「確かめてくる」
続くポワールが、チップ……つまりファールを狙って当てに行った。普段から姉を担いでダンスをしているため、重い球にも動じない。目もよかった。なんせ、シトロンの打球の軌道を読んで取ろうとしたくらいだから。
「すごい。私は、当てられなかったのに」
「最初だったからな。お前はよくやった」
ムロンが粘ってくれたおかげで、ポワールも仕事ができたのだ。
強打者のムロンが当てられないラインを、ポワールはすくい上げる形でバットを振る。
だが、ファール二球で、ポワールも限界か。
「ストライク!」
内角低めの球に、ポワールが食らいついてしまった。コントロールの精度も高まっていたのか。いや、違う。
「ごめんなさい。もっと投げさせて疲れさせようと思ったのに」
「あれでいい。十分相手は疲弊している」
それは、八回まで行けばわかる。
オレたちは円陣を組み、アドバイスを送る。
「みんな。よろしく頼む。あのでかいドラゴンは、たしかに強い。しかし、相手は一人だ。あのドラゴンさえ倒せば、なんとかなるかもしれない」
一対一なら勝てない相手でも、全員でかかれば。
「みんな、いくわよ!」
オランジェが、円の中心に手を差し出す。
「みなの力を一つにするぞよ」
魔王ラバが続く。
全員が手をかざし、最後にペシェが重なった手の甲に自分の手を乗せた。
「試合は、わたくしが繋ぎますわ。みなさんも、踏ん張ってくださいまし!」
みんなで、気合を入れ直す。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる