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第二球 選手《キミ》がいて監督《オレ》がいる風景

第12話 【四回ウラ】打倒、サブマリンの勇者

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 野いちごフランボワーズ女学園対聖さくらんぼスリーズ女学院の術式野球も四回のウラ、ワンアウトの場面となる。ランナーはいない。

 三振の山を築いてきた勇者に対して、レザンはセーフティーバントを選択した。

『さあ、勇者パステーク・ル・ギャリエンヌ選手、構えます。これまで幾多のバッターを苦しめてきた、サブマリン投法の名手です』

 腰を低く構えて投げるサブマリン投法は、打者からすると相当打ちにくい。潜水艦のように、直前でふわっと浮き上がってくるのだ。

 こっちの世界にも「潜水艦」があるのは、驚きである。戦争時に使用していたんだとか。

 特に勇者パステークの球は、低い。すくい上げてもゴロになってしまう。

 だが、レザンなら、対抗できる。出塁さえできれば。

 レザンが、ボールにバットをコンと当てる。
 
 三塁側へ、ボールは転がっていった。

 キャッチャーにボールを掴まれる。

 が、相手が投げる頃にはレザンは一塁を踏んでいた。

『バントでの出塁は……成功! ギリギリでした! セーフティーバントを成功できるのは、やはりこの少女か!』

 アナウンスも興奮している。

 俊足のレザンなら、やれると思っていた。

「前の打席では、三振させられたからのう。フラストレーションが溜まっておったようだ」

「塁にさえ出れば、こっちのもんだ。サブマリンには、欠点がある」

 次の打席は、オランジェだ。ドワーフらしく、ブンブンとバットを振り回す。彼女がバットを振ると、まるで刀鍛冶に見える。

『続きまして三番打者、オランジェ選手がバッターボックスに入ります。清楚な顔立ちです。実家は鉱山と温泉街という、お嬢様です。週イチで実家で仲居のお手伝いをしているという、親孝行です。さて、野球ではどういう仕事をするのか? ああっと!』

 オランジェの紹介をしている間に、レザンが盗塁に成功した。

「これだ。サブマリンの弱点は」

 独特の構えを取るサブマリンは、盗塁に対応できない。ましてレザンの速さならなおさらだ。

「プレッシャーを与えるだけでいいんだ。それだけで、ピッチャーは疲弊する。勇者だって言っても」

 常勝している投手なら、余計にダメージが大きい。負け慣れていないから。

 勇者も焦っているのか、大きくため息をつく。
 ノーヒットノーランを続けていた投手だと、堪えるだろう。

 サブマリンがオランジェに飛んできた。

 臆せず、オランジェはバットを振る。

『詰まった! 一、二間に転がっていく。これでオランジェ選手は打ち取られてツーアウトです。が、レザン選手は三塁に進むことができました』

 アウトになったが、オランジェはいい仕事をした。

 レザンがバントをしてくれたおかげで、球の軌道が読めたのか。すごいもんだな。

『盛り上がってきましたツーアウト、ランナー三塁! 一点を追う場面で打席が回ってきたのはこの人! ムロン・ミカゲ一塁手! 逆手持ちのムロンが、かつての戦友と対決します!』

 バットを逆手に持つという独特のフォームで、ムロンは勇者に挑む。

 勇者は余裕の表情だ。

「パスさん! ニヤニヤしない! 遊びではないのです!」

 相手キャチャーのシトロンが、勇者に檄を飛ばす。

「えーっ。せっかく勝負できるチャンスじゃーん。楽しもう!」

 この土壇場で、勇者はどれだけ肝が据わっているのだ?
 目もキラキラしている。
 逆境に立たされるほど、興奮するタイプだったか。

 今はツーアウトだ。スクイズの選択肢はない。ここは勝負どころだ。

「一度、ちゃんと勝負したかったんだよっ、ね!」

 勇者のサブマリンが、空気の壁を突き破るかのように浮き上がってくる。

「その余裕が、気に食わんのだ!」

 すくい上げるように、ムロンは逆手を振り上げた。

『センター前ええええええっ!』

 二塁を抜け、ボールはセンターへ。

 その間に、レザンが走る。

 相手も剛腕で、球はすぐにホームベースへと飛んでいく。

 この世界でもコリジョン、つまり衝突プレイは禁止されている。だが、レザンは難なくキャッチャーを避けたスライディングで帰塁した。

 続くゴリラが打ち取られて、スリーアウトに。

 とはいえ、ようやく念願の一点をもぎ取った。
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