上 下
11 / 26
第二球 選手《キミ》がいて監督《オレ》がいる風景

第11話 トライアウト、始動!

しおりを挟む
「かかか、監督! ハレンチですわ。初対面の女の子とキキキ」

 ペシェが、錯乱している。

「キスなんて直接してないだろ?」

「しているようなもんですわ!」

 人の食ったやつを食うと、口づけと同じ意味合いになってしまうのか? どんだけ乙女だよ、この異世界は。

「とにかく、レザンをフワンボワーズの新メンバーとして加入するかどうかが大事だろ? 反対のヤツはいるか?」

 ソレに関しては、誰も手を挙げない。

 おっと、本人が手を上げたぞ。

「オイラは別に、フランボワーズに入るなんて言ってないぞ!」

「どうしてだ?」

「あんな名門で、オイラのできることなんてねえさ。学費も払えないし」

 本業が、スリだもんな。

「フランボワーズの責任者である魔王は、別に犯罪者だろうが受け入れるらしいぜ。成績を出せばだが」

 魔王本人に直接聞いたんだ。間違いない。

「でもオイラ、別に野球が好きってわけでもなくて」

「じゃあ、なんで球場にいる?」

「あったかいからさ。おいしいスープだって出るんだよ」

 聞くと、ここはフワンボワーズなどの強豪校が寄付をしているらしい、スープも、学校が提供するのだとか。

「その割には、いいトマトのキャッチだったじゃないか」

 ここに来る前、背後から飛んできたトマトを、レザンは見事にノールックキャッチした。

「ずっと見ていればね。覚えたんだ。オイラはエアプ勢。ヤジを飛ばすだけでいいんだよ」

 いや、覚えられると実際にプレイできるとは違う。ただの野次馬に、あんな動きはできない。レザンは野球ができる。

「どうしてもイヤだってんなら、勝負しかないよな」

 オレは、レザンを一塁へ立たせた。

「ここにいるペシェから、二塁を盗んでみせろ。見事盗塁ができたら、お前の好きにしていい」

 まだバッティングを見ていないオランジェに、バッターを頼む。

 キャッチャーはオレがやる。

「負けたら、あんたのチームに入れってこと?」

「そういうこったな。その代わり、本気でやれ。よしプレイ!」

 ペシェが二度、けんせいをした。

「ところで、なんでスリなんてやってんだ?」

 レザンは、動きが曲者そのものだ。あのキレで「自分はエアプ」だなんてよく言える。

「両親が早くに死んで、親戚をたらい回しにされて」

 典型的な孤児か。

「親御さんたちは野球を?」

「そうだよ。それで、覚えた」

 遺産は親戚が使い潰したという。

 それで世捨て人になって、小悪党まで墜ちたと。

「チームに入れたって、どうせ使い潰すつもりだろ?」

「いや。オレが養うつもりだ」

「はあ!?」

 レザンは困った表情を浮かべた。

「戸籍が問題だってんなら、オレの養女になれ。妻ってのはムリだが、食わせるくらいはしよう」

 誰がなんと言おうが、オレは本気だ。コイツは手に入れたい。絶対、野球で成功する。

「ど、同情すんな! オイラは可哀想な子じゃない!」

「ああ。合理的に考えた結果だ。養女にすればチームも手に入り、お前はメシと寝床が手に入る。万事解決って判断しただけだぜ」

「オイラなんて養ったら、あんた後悔するよ?」

「していいよ。お前が手に入るなら」

 レザンは、オレの言葉に戸惑いを抱いているような顔をした。

「オレは野球で勝つことしか、考えていない。野球以外のことは、お前の好きにしろよ。世の中に不満があるんなら、スリを続けたっていい。オレが世間様に頭を下げまくってやる」

 ガキが面倒を起こすなら、親であるオレの導きが足りないってだけ。

 その不満を、野球で解消してくれたら。

「さて、本気を見せてくれ。プレイ!」

 再開早々に、オランジェのバットが快音を鳴らす。

 しかし、一塁手のムロンがファインプレーで塁を踏む。ワンアウト。あとは二塁にボールを送ればゲッツー成立……。

「ひゅう」

 オレは、口笛を吹く。

 二塁に行けば勝ちって言ったのに、レザンは三塁にまで到達していた。

「負けたよ。お前は、自由だ」

 と言っているのに、レザンは帰ろうとしない。

「どうした?」

「オイラに選択権があるんだよな?」

「おう」

「じゃあ……オイラをっ、お、お嫁さんにしてくださいっ」

 急に、レザンから手を差し伸べられる。

「いや養女な! 結婚とか早すぎるから!」

「いや養女な! 結婚とか早すぎるから!」

「愛人からでいいんで!」

「違うったら!」

「じゃあ、チームに入れてくださいっ」

 オレは、レザンの手を受け取った。

「ようこそフランボワーズ野球部へ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...