8 / 26
第一球 オレたちゃゴスロリがユニフォーム
第8話 それぞれの特技と、監督の異能
しおりを挟む
「どうしてだ! 私はピッチャーにふさわしくないというのか!?」
自前のグローブを手にムロンは、オランジェをキャッチャー側に座らせる。
「見ていろ! 私はペシェや勇者より優れている!」
ムロンが、渾身のストレートを放つ。ペシェとは違う、豪速球が武器のようだ。
「うん。悪くない」
「カーブも見てみるか? なんなら、シンカーも投げられるぞ」
「いや、いい」
オレが言うと、ムロンは青ざめた。
「私が優秀ではないからか?」
「いや。お前は優秀だよ。先発だけではなく、抑えの投手としても悪くない。だが、少なくともスリーズ戦では使わない」
オランジェは、オレの話を聞きながらうなずいている。
ペシェも、納得したようだ。
だが、肝心の本人はわかっていない。
「どうしてだ!? 私はいつでもマウンドに立つ準備があるのに!」
「相手チームに対策されてるからだ」
そこまで言って、ようやくムロンも押し黙る。
ムロンは、相手側のピッチャーだった。チームメイトの球種など、肌でもわかっているだろう。手札を晒しながらトランプをするようなものだ。
「あと個人的には、お前は打者としてだけ使いたい」
「二刀流は気に食わないか?」
「選手生命を縮めたくないんだ」
投手と打者の二刀流プレイヤーは、ケガとの戦いになる。せっかくプロ入りしたのに、ケガでシーズンまるまる不意にした選手だっているんだ。長期離脱も、視野に入れなければいけない。
「お前、プロでもやっていきたいだろ? どちらかに絞った方がいい。で、投手はペシェで行く。お前はどちらかというとバッター向きだ。あんな奇想天外な打ち方、初めて見たぜ」
「そうか。ならいいが」
渋々だが、ムロンはわかってくれたようだ。
「それと、これはオレの考えなんだが、魔王の召喚するマントヒヒ、一塁手な。彼を、左外野に持っていきたい」
話題が自分に移り、魔王がハッとなる。
「それが余の弱点とな?」
「あんたは、視野を広く取りすぎてる」
ベンチを見ていたが、三塁と一塁を交互にせわしなく視線を動かしていた。
「どうして、あんな不器用なマネを?」
「内野のダイヤモンド状に、魔方陣を展開しているからぞ」
普段使っている魔方陣を、魔王がオレに見せてくれる。地面に描かれた方陣は、たしかにひし形をしている。
「なるほど。ひし形に魔方陣を描いているから、内野に限定していたのか」
「余は野球にもさして詳しくないから、仕事ができぬ。せめてマネージャー以外の仕事をと思って、内野全体をカバーできればと」
魔王だから、本人は司令塔のつもりなんだろう。
「そんなに肩ひじを張る必要はない」
このチームでもっとも全体を把握する必要があるのは、現場のオランジェだ。
「左サイドは魔王、全部アンタに任せる。あんたは自分の仕事をしてくれ」
外野に持っていけば視線は上下移動だけでいい。全体を見回す必要性はなくなり、負担は軽減されるはずだ。
「心得た。余の与えた異能に、間違いはなかったぞよ」
「異能?」
「選手の特技を見極める能力ぞ」
たしかに。オレはここに来てから、選手の特技やコンディションなどがわかってきた気がする。それは妹のゲームに出てくるような【チート】とは言わないまでも、ある程度選手には有効に働いているようだ。
「では、わたくしがチェンジアップを得意というのは?」
ペシェが、オレに聞いてきた。
「オレの異能が、言わせたのかもな」
「チェンジアップを投げられると確信した根拠は、あなたご自身にはございますの? それとも、カンですの?」
「確信は、ある。お前は器用なんじゃない。器用すぎるんだ。器用貧乏ってやつだ」
初手のカーブを見て、この子は変な技術を覚えすぎていると考えた。
「絶対に打たれない球」を追求して、あの球は生まれたんだろう。
そんな理不尽がいつまでも通用するほど、野球は甘くない。いつか対策される。オレが打ったように。
「だったらチェンジアップを教えて、その器用さを最大限活かす方向に決めた」
ストレートで放たれるスローボールなんて、相手にすると厄介極まりない。それだけで、武器になる。
「見事な分析なり」
「それほどでもねえよ。あんたがくれた異能のおかげだ」
「その代わり、サインを出すと変な介錯をされてしまうというデメリットが」
「やっぱり!」
なんか怪しいとは思っていたんだよな。
「脳に直接情報を行き渡らせるには、キツイ刺激が必要でな。それと、スキンシップは大事かと思ってのう」
「いくらなんでも過剰だっ! なんとかならないか?」
「どうにもならん。指示はちゃんと通っているので、ガマンせい」
「これじゃあオレ、嫌われてしまうんじゃないか?」
「そうでもなかろう。ほれ」
他のメンバーを見ると、うっとりしている。
「我々の懸念材料は他にもあろう」
「チームメンバーの補充だよな。明日から、そっちに奔走する」
自前のグローブを手にムロンは、オランジェをキャッチャー側に座らせる。
「見ていろ! 私はペシェや勇者より優れている!」
ムロンが、渾身のストレートを放つ。ペシェとは違う、豪速球が武器のようだ。
「うん。悪くない」
「カーブも見てみるか? なんなら、シンカーも投げられるぞ」
「いや、いい」
オレが言うと、ムロンは青ざめた。
「私が優秀ではないからか?」
「いや。お前は優秀だよ。先発だけではなく、抑えの投手としても悪くない。だが、少なくともスリーズ戦では使わない」
オランジェは、オレの話を聞きながらうなずいている。
ペシェも、納得したようだ。
だが、肝心の本人はわかっていない。
「どうしてだ!? 私はいつでもマウンドに立つ準備があるのに!」
「相手チームに対策されてるからだ」
そこまで言って、ようやくムロンも押し黙る。
ムロンは、相手側のピッチャーだった。チームメイトの球種など、肌でもわかっているだろう。手札を晒しながらトランプをするようなものだ。
「あと個人的には、お前は打者としてだけ使いたい」
「二刀流は気に食わないか?」
「選手生命を縮めたくないんだ」
投手と打者の二刀流プレイヤーは、ケガとの戦いになる。せっかくプロ入りしたのに、ケガでシーズンまるまる不意にした選手だっているんだ。長期離脱も、視野に入れなければいけない。
「お前、プロでもやっていきたいだろ? どちらかに絞った方がいい。で、投手はペシェで行く。お前はどちらかというとバッター向きだ。あんな奇想天外な打ち方、初めて見たぜ」
「そうか。ならいいが」
渋々だが、ムロンはわかってくれたようだ。
「それと、これはオレの考えなんだが、魔王の召喚するマントヒヒ、一塁手な。彼を、左外野に持っていきたい」
話題が自分に移り、魔王がハッとなる。
「それが余の弱点とな?」
「あんたは、視野を広く取りすぎてる」
ベンチを見ていたが、三塁と一塁を交互にせわしなく視線を動かしていた。
「どうして、あんな不器用なマネを?」
「内野のダイヤモンド状に、魔方陣を展開しているからぞ」
普段使っている魔方陣を、魔王がオレに見せてくれる。地面に描かれた方陣は、たしかにひし形をしている。
「なるほど。ひし形に魔方陣を描いているから、内野に限定していたのか」
「余は野球にもさして詳しくないから、仕事ができぬ。せめてマネージャー以外の仕事をと思って、内野全体をカバーできればと」
魔王だから、本人は司令塔のつもりなんだろう。
「そんなに肩ひじを張る必要はない」
このチームでもっとも全体を把握する必要があるのは、現場のオランジェだ。
「左サイドは魔王、全部アンタに任せる。あんたは自分の仕事をしてくれ」
外野に持っていけば視線は上下移動だけでいい。全体を見回す必要性はなくなり、負担は軽減されるはずだ。
「心得た。余の与えた異能に、間違いはなかったぞよ」
「異能?」
「選手の特技を見極める能力ぞ」
たしかに。オレはここに来てから、選手の特技やコンディションなどがわかってきた気がする。それは妹のゲームに出てくるような【チート】とは言わないまでも、ある程度選手には有効に働いているようだ。
「では、わたくしがチェンジアップを得意というのは?」
ペシェが、オレに聞いてきた。
「オレの異能が、言わせたのかもな」
「チェンジアップを投げられると確信した根拠は、あなたご自身にはございますの? それとも、カンですの?」
「確信は、ある。お前は器用なんじゃない。器用すぎるんだ。器用貧乏ってやつだ」
初手のカーブを見て、この子は変な技術を覚えすぎていると考えた。
「絶対に打たれない球」を追求して、あの球は生まれたんだろう。
そんな理不尽がいつまでも通用するほど、野球は甘くない。いつか対策される。オレが打ったように。
「だったらチェンジアップを教えて、その器用さを最大限活かす方向に決めた」
ストレートで放たれるスローボールなんて、相手にすると厄介極まりない。それだけで、武器になる。
「見事な分析なり」
「それほどでもねえよ。あんたがくれた異能のおかげだ」
「その代わり、サインを出すと変な介錯をされてしまうというデメリットが」
「やっぱり!」
なんか怪しいとは思っていたんだよな。
「脳に直接情報を行き渡らせるには、キツイ刺激が必要でな。それと、スキンシップは大事かと思ってのう」
「いくらなんでも過剰だっ! なんとかならないか?」
「どうにもならん。指示はちゃんと通っているので、ガマンせい」
「これじゃあオレ、嫌われてしまうんじゃないか?」
「そうでもなかろう。ほれ」
他のメンバーを見ると、うっとりしている。
「我々の懸念材料は他にもあろう」
「チームメンバーの補充だよな。明日から、そっちに奔走する」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる