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第七章 青い炎のドラゴン! レベッカ究極進化

第56話 見習い鍛冶師サイクロプス ゼゼリィ

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 なんと、岩だと思っていたのはサイクロプスの少女だった。
 
「ゴメンゴメン。元の大きさで入れる浴場って、ここくらいしかなくってさ。今から縮むね」

 ぴよよよーん、と、ゼゼリィは縮んだ。
 岩山のようだった身体が、わたしたち人間と同じサイズに。

「うーん。やっぱり窮屈だけど、しょうがないね」

「こちらこそ、ごめんなさい。わたしはキャル。サイクロプスに会いに来たの」

「クレアです」

 ヤトとリンタローも、あいさつをした。

「改めまして、オイラはゼゼリィ。見た目通り、サイクロプスだよ」

 おかっぱの前髪を、ゼゼリィはくいっと上げる。

 たしかに、単眼族だ。
 金属製の瞳が、目の部分でシャーっと動いている。
 それ以外は、普通の人間と変わらなかった。人間サイズともなると、ゼゼリィはリンタローより大きい。背が高いだけではなく、身体が大きかった。成人男性くらいかな。おっぱいも大きいが、大胸筋と形容したほうがいい。

「サイクロプスに、用事があるのかい?」
 
「実は、事情があって」

「お湯に浸かりながらでいいから、話を聞かせてくれる?」

 わたしは、事情を説明した。
 魔剣を持っていること、ドワーフからは「魔剣は打てない」と断られたこと、サイクロプスなら、魔剣を手入れできるかもと聞かされたことなど。

「うん。わかるよ。普通の鍛冶と魔剣・聖剣って、よほどの覚悟がないと打てないんだ。それこそ、専門の鍛冶師になるくらいじゃないと」

「そうなんだ」

「うん。剣の打ち方を覚えて、さらに鍛冶の常識をすべて忘れなきゃいけないくらいの」

 ヤバイ。そんな危険なことを、わたしはヘルムースさんに願いしようとしていたのか。

「あのさ、『プリンテス』ってサイクロプスさんを探しているんだけど」

「親方?」

 どうやら、ゼゼリィはプリンテスの弟子らしい。

「今の時間だと、親方は寝ちゃってるね。朝が早いんだ。だから、明日またおいで」

 ゼゼリィも、仕事が済んだから温泉で休んでいたという。

「では、こちらで休んでいますわ」

「そうした方がいいね。もう少し、お話を聞かせてくれるかな?」

 わたしたちは、温泉から出た。

 夕飯を食べながら、魔剣についての情報をゼゼリィに提供する。

「紹介が遅れたね。この子が、レベッカちゃん。わたしと契約している、魔剣だよ」

 髪留めを外して、ゼゼリィに見せた。
 
『レベッカだ。正式な名称は、【レーヴァテイン・レプリカ ECA 六四七二】だよ』

 自分の正体を隠そうともしないで、レベッカちゃんは名乗る。自分を強化してくれる相手に、素性を明かさないのは失礼と思ったのかな。

「ECA……ランクがE、学術用・実験用か。それでこの切れ味」

 軽く触れただけで、レベッカちゃんの実力がわかったみたい。
 
「レーヴァテインってのは、魔女イザボーラが持っていたよね? あれと同じ感じかな?」

「わかんない。魔女は倒したから」
 
「あの魔女を倒してくれたのかい!? ありがとう! キミたちは、我が国の英雄だよ!」

 魔女イザボーラを倒したことを話すと、ゼゼリィはわたしたちに料理をごちそうしてくれた。
 わたしもちゃんと情報が正しいと、ギルドカードまで提示した。

「ホントだ。討伐完了書類にも、そう書いてある。すごいなぁ。どうやって倒したんだい?」

「そんなに、厄介な相手だったの?」

「あいつの魔力自体が、うっとおしくてさ」
 
 瘴気をはらんだ魔力は、漂うだけで生態系を狂わせ、土をダメにするという。ダクフィのキユミ鉱山も、例外ではなかったらしい。
 
「キユミ鉱山には、デモンタイトっていう鉱石があってね。それが、魔剣の材料になるんだよ」

「魔剣の!」

「そう。素材自体は、ミスリル銀やグミスリル鉱石の方が硬いんだけどね」

 グミスリルも弾力が強い鉱石だが、魔剣の素材となると、まだ硬すぎるという。

「魔剣を作るなら、より粘り気の強い金属のほうがいいんだ。それこそ、魔物の骨やウロコといった素材のほうが、魔剣の素材として適している」

「生体金属じゃん。それって」

「そのとおり。魔剣の大半は生体金属なのさ。鉱石から作る武器とは、一線を画す」
 
 どおりで、ドワーフが嫌がるわけだ。
 生きている金属を扱うのなら、ドワーフの領域じゃない。

「魔剣を打てるとしたら、うちの親方か、錬金術に長けた魔術師じゃないと」

 クレアさんが、わたしをヒジでつつく。

「キャルさん、やはりあなたしか、魔剣を作れる方はいらっしゃらないですって」

「わたしには、ムリだよ。今のわたしでは、もうレベッカちゃんを強くすることはできない」

 技術的にも、レベル的にも、レベッカちゃんがわたしを上回ってしまった。
 強い素材を食べさせてあげるくらいなら、今でもできる。
 しかし、それは魔剣を鍛えたことにはならない。
 やはり打ってこそ、魔剣は強くなる。
 これからは、わたしが強くならなければ、これ以上レベッカちゃんを成長させられない。

 レベッカちゃんの強化には、プリンテス氏の協力が不可欠だ。
  
「じゃあ、親方の起きる時間になったら、呼んであげるね」

「ありがとう」
 
 その日はゆっくり休んで、旅の疲れを取ることにした。
 

 翌日、約束のとおり、ゼゼリィがわたしたちを呼びに来た。
 巨人姿のまま、窓からこちらを覗いている。

「親方が、話を聞きたいってさ」

 ゼゼリィの顔をした巨人が、わたしたちに手を差し伸べた。

「その手に乗れと?」

「うん。どうぞー」

 友だちの手に乗っていいものかどうか悩んだ。
 が、わたしも足が疲れたときは、仙狸のテンの上に乗るもんなーと。

「では、お言葉に甘えて」

 わたしたちは、ゼゼリィの手に乗せてもらった。

 プリンテス親方の小屋は、街から外れた川の側にある。

「ああ、ここでヤンスか。てっきり、ダンジョンかと思ったでヤンスよ」

「わたしも思ってた」

 通りかかった街で、天井だけが見えていた。
 あそこのダンジョンなら、さぞいい素材が見つかりそうだと、パーティ内で雑談をしていたほどだ。

「実際、冒険者が間違えて入ろうとしちゃう事態があったよ。看板を見て、『違った!』って引き返しちゃうけど」

 わっはっはー、と、ゼゼリィは豪快に笑う。
 
「親方! 連れてきたよ!」

「はいはーい! らっしゃいませー! プリンテスよ! プリンちゃんって呼んでね!」

 ゴスロリの少女が、小屋から出てきた。走るだけで、擬音が鳴り響く。
 目だけは、ゼゼリィと同じである。しかし、服装や振る舞いなどは、どう見てもメイドのそれだ。

 ゼゼリィの方が、ぶっちゃけ鍛冶屋っぽいくらいである。
 とても、槌を振るって武器を叩く姿が想像できない。

『なんだい、こいつは? マジでこんなのが、魔剣を打てる鍛冶屋だってのか?』

「そうよ。話は、ヘルムースから聞いているわ」

 ヘルムースさんの話なんて、一言もしていないのに。

「通信機能で、あっちからの伝言は聞いているの。魔女が結界を張って、今までは通じなかったんだけど」
 
 小屋を見せてもらうと、小さな電話機を見つけた。これで、ヘルムースさんと連絡を取り合っていたみたい。

「あっちから電話がかかってきたから、何事かって思ったわ。魔剣の持ち主が現れたから、相手をしてやってくれですって。マジ? って思っていたけど、あなたからビュックンビュックン伝わってくるわよ」

「わたしから?」

「髪留めを外していただける? それが、魔剣なんでしょ?」

「は、はい」

 そこまで、わかっているとは。
 まあ、武器をアクセサリに変形させて携帯するって、メジャーなスキルだし。

 言われるまま、わたしは髪留めを外した。そのまま、プリンテスに差し出す。

 レベッカちゃんは、元のサイズに戻った。
 
「普通ね。レーヴァテインっていうから、もっとゴツいのかと思っていたけど」

『圧縮しているだけさ。キャルが扱いやすいようにね』

「余裕なのね。もっと、本気を出していいのよ。化け物の姿を、取りなさい」

 ニイ、と、プリンテスが笑う。
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