ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
56 / 80
第七章 青い炎のドラゴン! レベッカ究極進化

第56話 見習い鍛冶師サイクロプス ゼゼリィ

しおりを挟む
 なんと、岩だと思っていたのはサイクロプスの少女だった。
 
「ゴメンゴメン。元の大きさで入れる浴場って、ここくらいしかなくってさ。今から縮むね」

 ぴよよよーん、と、ゼゼリィは縮んだ。
 岩山のようだった身体が、わたしたち人間と同じサイズに。

「うーん。やっぱり窮屈だけど、しょうがないね」

「こちらこそ、ごめんなさい。わたしはキャル。サイクロプスに会いに来たの」

「クレアです」

 ヤトとリンタローも、あいさつをした。

「改めまして、オイラはゼゼリィ。見た目通り、サイクロプスだよ」

 おかっぱの前髪を、ゼゼリィはくいっと上げる。

 たしかに、単眼族だ。
 金属製の瞳が、目の部分でシャーっと動いている。
 それ以外は、普通の人間と変わらなかった。人間サイズともなると、ゼゼリィはリンタローより大きい。背が高いだけではなく、身体が大きかった。成人男性くらいかな。おっぱいも大きいが、大胸筋と形容したほうがいい。

「サイクロプスに、用事があるのかい?」
 
「実は、事情があって」

「お湯に浸かりながらでいいから、話を聞かせてくれる?」

 わたしは、事情を説明した。
 魔剣を持っていること、ドワーフからは「魔剣は打てない」と断られたこと、サイクロプスなら、魔剣を手入れできるかもと聞かされたことなど。

「うん。わかるよ。普通の鍛冶と魔剣・聖剣って、よほどの覚悟がないと打てないんだ。それこそ、専門の鍛冶師になるくらいじゃないと」

「そうなんだ」

「うん。剣の打ち方を覚えて、さらに鍛冶の常識をすべて忘れなきゃいけないくらいの」

 ヤバイ。そんな危険なことを、わたしはヘルムースさんに願いしようとしていたのか。

「あのさ、『プリンテス』ってサイクロプスさんを探しているんだけど」

「親方?」

 どうやら、ゼゼリィはプリンテスの弟子らしい。

「今の時間だと、親方は寝ちゃってるね。朝が早いんだ。だから、明日またおいで」

 ゼゼリィも、仕事が済んだから温泉で休んでいたという。

「では、こちらで休んでいますわ」

「そうした方がいいね。もう少し、お話を聞かせてくれるかな?」

 わたしたちは、温泉から出た。

 夕飯を食べながら、魔剣についての情報をゼゼリィに提供する。

「紹介が遅れたね。この子が、レベッカちゃん。わたしと契約している、魔剣だよ」

 髪留めを外して、ゼゼリィに見せた。
 
『レベッカだ。正式な名称は、【レーヴァテイン・レプリカ ECA 六四七二】だよ』

 自分の正体を隠そうともしないで、レベッカちゃんは名乗る。自分を強化してくれる相手に、素性を明かさないのは失礼と思ったのかな。

「ECA……ランクがE、学術用・実験用か。それでこの切れ味」

 軽く触れただけで、レベッカちゃんの実力がわかったみたい。
 
「レーヴァテインってのは、魔女イザボーラが持っていたよね? あれと同じ感じかな?」

「わかんない。魔女は倒したから」
 
「あの魔女を倒してくれたのかい!? ありがとう! キミたちは、我が国の英雄だよ!」

 魔女イザボーラを倒したことを話すと、ゼゼリィはわたしたちに料理をごちそうしてくれた。
 わたしもちゃんと情報が正しいと、ギルドカードまで提示した。

「ホントだ。討伐完了書類にも、そう書いてある。すごいなぁ。どうやって倒したんだい?」

「そんなに、厄介な相手だったの?」

「あいつの魔力自体が、うっとおしくてさ」
 
 瘴気をはらんだ魔力は、漂うだけで生態系を狂わせ、土をダメにするという。ダクフィのキユミ鉱山も、例外ではなかったらしい。
 
「キユミ鉱山には、デモンタイトっていう鉱石があってね。それが、魔剣の材料になるんだよ」

「魔剣の!」

「そう。素材自体は、ミスリル銀やグミスリル鉱石の方が硬いんだけどね」

 グミスリルも弾力が強い鉱石だが、魔剣の素材となると、まだ硬すぎるという。

「魔剣を作るなら、より粘り気の強い金属のほうがいいんだ。それこそ、魔物の骨やウロコといった素材のほうが、魔剣の素材として適している」

「生体金属じゃん。それって」

「そのとおり。魔剣の大半は生体金属なのさ。鉱石から作る武器とは、一線を画す」
 
 どおりで、ドワーフが嫌がるわけだ。
 生きている金属を扱うのなら、ドワーフの領域じゃない。

「魔剣を打てるとしたら、うちの親方か、錬金術に長けた魔術師じゃないと」

 クレアさんが、わたしをヒジでつつく。

「キャルさん、やはりあなたしか、魔剣を作れる方はいらっしゃらないですって」

「わたしには、ムリだよ。今のわたしでは、もうレベッカちゃんを強くすることはできない」

 技術的にも、レベル的にも、レベッカちゃんがわたしを上回ってしまった。
 強い素材を食べさせてあげるくらいなら、今でもできる。
 しかし、それは魔剣を鍛えたことにはならない。
 やはり打ってこそ、魔剣は強くなる。
 これからは、わたしが強くならなければ、これ以上レベッカちゃんを成長させられない。

 レベッカちゃんの強化には、プリンテス氏の協力が不可欠だ。
  
「じゃあ、親方の起きる時間になったら、呼んであげるね」

「ありがとう」
 
 その日はゆっくり休んで、旅の疲れを取ることにした。
 

 翌日、約束のとおり、ゼゼリィがわたしたちを呼びに来た。
 巨人姿のまま、窓からこちらを覗いている。

「親方が、話を聞きたいってさ」

 ゼゼリィの顔をした巨人が、わたしたちに手を差し伸べた。

「その手に乗れと?」

「うん。どうぞー」

 友だちの手に乗っていいものかどうか悩んだ。
 が、わたしも足が疲れたときは、仙狸のテンの上に乗るもんなーと。

「では、お言葉に甘えて」

 わたしたちは、ゼゼリィの手に乗せてもらった。

 プリンテス親方の小屋は、街から外れた川の側にある。

「ああ、ここでヤンスか。てっきり、ダンジョンかと思ったでヤンスよ」

「わたしも思ってた」

 通りかかった街で、天井だけが見えていた。
 あそこのダンジョンなら、さぞいい素材が見つかりそうだと、パーティ内で雑談をしていたほどだ。

「実際、冒険者が間違えて入ろうとしちゃう事態があったよ。看板を見て、『違った!』って引き返しちゃうけど」

 わっはっはー、と、ゼゼリィは豪快に笑う。
 
「親方! 連れてきたよ!」

「はいはーい! らっしゃいませー! プリンテスよ! プリンちゃんって呼んでね!」

 ゴスロリの少女が、小屋から出てきた。走るだけで、擬音が鳴り響く。
 目だけは、ゼゼリィと同じである。しかし、服装や振る舞いなどは、どう見てもメイドのそれだ。

 ゼゼリィの方が、ぶっちゃけ鍛冶屋っぽいくらいである。
 とても、槌を振るって武器を叩く姿が想像できない。

『なんだい、こいつは? マジでこんなのが、魔剣を打てる鍛冶屋だってのか?』

「そうよ。話は、ヘルムースから聞いているわ」

 ヘルムースさんの話なんて、一言もしていないのに。

「通信機能で、あっちからの伝言は聞いているの。魔女が結界を張って、今までは通じなかったんだけど」
 
 小屋を見せてもらうと、小さな電話機を見つけた。これで、ヘルムースさんと連絡を取り合っていたみたい。

「あっちから電話がかかってきたから、何事かって思ったわ。魔剣の持ち主が現れたから、相手をしてやってくれですって。マジ? って思っていたけど、あなたからビュックンビュックン伝わってくるわよ」

「わたしから?」

「髪留めを外していただける? それが、魔剣なんでしょ?」

「は、はい」

 そこまで、わかっているとは。
 まあ、武器をアクセサリに変形させて携帯するって、メジャーなスキルだし。

 言われるまま、わたしは髪留めを外した。そのまま、プリンテスに差し出す。

 レベッカちゃんは、元のサイズに戻った。
 
「普通ね。レーヴァテインっていうから、もっとゴツいのかと思っていたけど」

『圧縮しているだけさ。キャルが扱いやすいようにね』

「余裕なのね。もっと、本気を出していいのよ。化け物の姿を、取りなさい」

 ニイ、と、プリンテスが笑う。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...