ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
47 / 80
第五章 魔術師のダンジョンと、伝説のガイコツ剣士

第47話 王子の過去

しおりを挟む
 グミスリル鋼の騎士は、全身が青黒い。
 ヨロイの表面を、怨念で固めているかのようだ。
 
 青黒い騎士の周りには、冒険者たちの死体が転がっている。
 ボスである騎士を、討伐しに来たのだろう。すべて、返り討ちにあったか。

「彼らの無念は、我が晴らす。キャル殿、手出し無用」

「うん。でも危なくなったら、こっちが勝手に動くね」

 いくら使い魔といっても、死なれたらたまったもんじゃない。

「魔女を倒すまでの、契約だろうからな」

「違うって。ずっといっしょに、旅をするつもりだよ」

 わたしがいうと、フルーレンツさんは一瞬固まった。

「永久的な、契約だとは。こういうのは、目的を果たすまでのものだと」

「いえいえ。剣術でも、参考になる点は多いからね。レベッカちゃんの助けになってよ」

「……御意っ」
  
 ボス騎士と、フルーレンツ王子が対峙する。

 両者、同時に動いた。

「ぐあ!」

 インパクトの瞬間、フルーレンツさんが弾かれる。
 
 相手はミノタウロスより、背が高くない。
 だが、あんな巨人より腕力が強かった。

 王子の一撃を、騎士は軽くいなす。

 まさに、魔剣に操られていたときの王子を思わせた。

「ならば!」

 王子が、戦法を変える。
 両手剣を直し、ショート―ソードでの切り合いにシフトした。
 円形盾で敵の攻撃を受け流し、懐に飛び込む。
 
「そこ!」

 どうにか王子は、敵の顔面に剣を突き刺す。

「むっ!?」

 すぐに、王子は相手から飛び退いた。
 
「こやつも、スケルトンか」
 
『だったら、炎が効くはずだよ! 喰らいな!』

 レベッカちゃんが、わたしと意識を交代する。

 炎をまとった魔剣を振るって、魔物に叩き込む。

『なんだってんだ!?』


「あれは、スケルトンではありませんわ」

 たしか、デーモンっていっていたっけ。こんなに強いんだ。

『じゃあ、【ライカーガス】ってわけかい』
 
 ライカーガスとは、「どこぞの国の王族」という意味である。
 アンデッドの姿をとっているが、正確には魔族だ。

「来るよ!」

 アンデッドになった冒険者が、わたしたちに襲いかかってきた。

雷霆蹴りトニトルス!」

 ジグザグ状に、雷光が轟く。

 アンデッド冒険者を、クレアさんが片っ端から破壊していた。

「ザコはこちらに任せて、キャルさんはボスをお願いします!」

「わかった! わたしが正面で相手をするから、フルーレンツさんは側面から!」

「うむ! この際、共闘する!」

 フルーレンツさんが、こちらの指示通りに側面から敵に切りかかる。
 
 サシの勝負にこだわっていたフルーレンツさんも、さすがに勝てないと思ったか。
 
 二対一になっても、相手の優勢は変わらない。
 こんなに、強いのかよ!

「さすがデーモン! やる!」

 フルーレンツさんにとっても、相手にとって不足なしと言ったところなのだろう。
 苦戦しつつも、高揚している。

「ドワ!」

 真正面から、騎士に斬りかかられた。

 おお。無事である。あってよかった、第三の腕。

「からの! 【ブレイズ】!」

 相手の剣を持つ手を抱え込み、一緒に火だるまに。

『炎属性は効かないだろうけど、ずっと燃え続けて焼け死なないってわけじゃないだろうよ!』

 ましてレベッカちゃんには、【原始の炎】がある。

 黙っていても、ダメージが通るはずだ。
 
『しぶといね!』

 いくら燃やしても、ライカーガスは倒れない。

「決定的な一撃が、足りないみたい」

『くそ! 面倒だねぇ!』

 レベッカちゃんは、一旦魔物から離れる。

「グミスリルに、相殺されているのかも」
 
『そんな効果が、あるようだね』

 グミスリル製の実力を、垣間見た。
 たしかに、この防御力は凄まじい。
【原始の炎】さえも、軽減するとは。
 
 本格的な防具の調節をされると、レベッカちゃんでも苦戦するようだ。

 かといって呪い焼きなんてしたら、せっかくのグミスリルさえ破壊してしまう。

 おそらくあのヨロイに、グミスリルは使い込まている。

 魔女なら、それくらいの悪行はするはず。

「特にこれといって弱点もなさそうだし、動力がグミスリルなのはわかってるんだけど」

……っ!

「わかった。脆いところを狙おう」

『秘策を、見つけたんだね?』

「うん! フルーレンツさん!」

 わたしは、フルーレンツさんに指示を送った。

「承知した!」

 フルーレンツさんとライカーガスが、切り合う。

 懐に飛び込めないほどの、激しい武器同士のぶつかり合いが続いた。

「今だよ、レベッカちゃん!」

『おう! おおおおお!』

 レベッカちゃんが、騎士を背中から切りかかった。
 ただ、相手の身体を斬るわけじゃない。

 狙うのは、ヨロイとヨロイを結ぶ、魔力の繋ぎ目だけ。

 さすがレベッカちゃん。慎重にスパッと、金色の装飾だけを剣先で切った。

 それだけで、あれほどの猛威を振るっていた騎士の体勢が崩れる。

「フルーレンツさん!」

 同じように、フルーレンツさんもショートソードをふるった。
 魔力同士の繋ぎ目を、スパスパと切り捨てる。

 二人の器用さがなければ、できない芸当だ。

 騎士ライカーガスが、戦闘不能になる。
 ヨロイをすっかり失った敵が、弱点の魔法石を露出した。

『トドメだよ!』

 ドスン、と、レベッカちゃんが剣を魔法石に突き立てる。

 どうにか、ボスを退治することができた。

『ところで、フルーレンツ。このヤロウは、知り合いかい?』

 レベッカちゃんが、ライカーガスのカブトを剥ぎ取る。

「むう。やはり、デーモンの顔にしか見えぬ。我が配下や、敵の部隊にも、このような者はいなかった気がする」

『そうかい』

 魔女イザボーラは、デーモンすらも操るのか。
 
  
                                      *

 
「そんなに調べても、資料なんて出てこないでヤンスよ」

 リンタローは、本の虫になったヤトに辟易する。

 二人は未だに、港町ファッパに腰を据えていた。
 魔女イザボーラについて、調べるためだ。 
 
 風魔法で一冊ずつ本のホコリを払い、そのまま魔法で本棚にしまう。
 その度にヤトが別の本を棚から出すものだから、片付けが終わらない。

 財団の書庫を片付けることを条件に、蔵書や資料類を借りているだけだと言うのに。

 こちらがいくら整理しても、ヤトが散らかしてしまう。

「まって。もうすぐ出てくる。あんたは、魔女について調べて」

 ヤトは、コーラッセンについて調べ物をしていた。

「魔女イザボーラの伝説なんて、ソレガシたち天狗イースト・エルフでさえ知ってるでヤンス。エルフ界隈で、知らないヤツはいないでヤンスよ」

 イザボーラは、エルフのハミ出し者だ。
 自分の力を過信し、自らを「魔王をも超える最強の魔女だ」といい出し、里を飛び出したのである。イザボーラの故郷が宗教色の強い、閉鎖的な地域だったのもあるだろうが。
 当時からイザボーラは、闇に魅入られた厄介オタクとして有名だったが、余計にタチが悪くなったようである。

 魔剣の流通ルートなどの情報から、リンタローはおそらくツヴァンツィガーを狙っているのがイザボーラだと気づく。
 ファッパの財団に聞いたところ、やはりイザボーラが各地で悪さをしていることがわかった。
 本当にイザボーラは、魔王に取って代わろうとしているに違いない。
 
 しかし、ヤトはもっと遡って、コーラッセンの情報を集めだしたのだ。

「どうしてイザボーラが、ツヴァンツィガーにこだわっているのか。どうしてあの王子を手下にしたのか、これでわかるかも」

 本のページを、ヤトが指さしている。

 勇者の特徴、剣術の内容などが、記されていた。
  いずれも、フルーレンツと共通するものばかり。
 となれば、なぜフルーレンツがあそこまで強かったか説明がつく。

「なるほど。フルーレンツ殿は、勇者の父親でヤンしたか」

 勇者の強さは、フルーレンツ・コーラッセンの血を引き継いでいたいからなのだろう。
 その血脈は、今も。

「たしかツヴァンツィガーには、小さい王女がいた。ツヴァンツィガーは代々、勇者の血族」

 だとしたら、狙われるのは……。
 
 リンタローとヤトは、資料庫を飛び出した。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...