ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
43 / 80
第五章 魔術師のダンジョンと、伝説のガイコツ剣士

第43話 王都へ

しおりを挟む
 ガイコツ剣士の正体は、今はなき王国の王子さまだった。

「廃王子でしたか。キャルさん。どうもこの方は、ワタクシの家計でご存知の方がいるかもしれませんわね?」

 クレアさんが、わたしの隣にしゃがみ込む。剣士の顔を、覗き込んだ。

「その強力な魔力、どこかの姫君とお見受けする。あなたは?」

「ワタクシは、クレア・ル・モアンドヴィルと申します」

「モアンドヴィル……あの小国に、かような子孫が生まれようとは」

「今、モアンドヴィルはアルセントア大陸を総括する、大国ですわ」

「なんと」
 
 フルーレンツ王子が生きていた頃のモアンドヴィルは、コーラッセン王国の三分の一にも満たなかったらしい。

「そこまでの大国に、成長なさるとは。よほどの苦労があったとお見受けする」

「勇者一行だったという功績が、あったからですわ」
 
「おお、勇者とな! 伝説は、本物であったか!」

「と、申しましても、コーラッセン王国があった当時は、まだ勇者が誕生していませんですわね」

 当時の歴史を、クレアさんがフルーレンツ王子に伝える。

「うむ。我が息子が存命なら、勇者と同じ年頃だったろう」

「かもしれませんわね。して王子、どうして暴れ回っていたのです?」

「おお。そうであった。皆には、すまぬことをした」
 
  フルーレンツ王子が、ドワーフのヘルムースさんに詫びた。

「実はのう、殿下は我々が護衛していた馬車を、突然襲撃してきたのじゃ」

 その馬車は今、無事に王都へ向かったという。
 
「本当に、申し訳なく。馬車に乗っていた姫君が、我が妹によく似ていたのだ」

 妹さんは戦火を逃れ、近くの小国に嫁いだそうだ。
 その妹さんと、馬車に乗っていた王女が似ているという。
 
「そうなんですね。ひょっとして、子孫とか?」

「うむ。おそらくは」

 王都に事情を聞けるだろうか。

「ワタクシのツテを、お使いくださいませ。今のあなたは、魔剣の影響を受けておりません。きちんと話し合えば、わかっていただけるかと」

「ワシも、事情を説明しますわい」

 クレアさんとヘルムースさんが言うと、王子は「ありがとう」と告げた。

「だが、ただのモンスターである。王城に入れてすらもらえまい」

「だとしたら、わたしと契約しますか?」

 正式に契約したモンスターとしてなら、王都に入っても危険視されないはずだ。
 
「ふむ。それはいい案だ。よろしい。我を倒したのは、そなただ。そなたと契約しようではないか」

 わたしは契約の魔法で、王子を自分の配下とした。

「うむ。これで我は、そなたの契約モンスターである。よろしく頼む」

 スパルトイ軍団は、王子が率いてくれるという。
 これで、レベッカちゃんのスキルスロットに空きができた。
 別のスキルを、装着可能に。

 続いて、王子はヤトの方へ。

「巫女殿。もし再び我が正気を失ったときは」

「うん。今度こそ、とどめを刺す」

 ヤトが、王子と約束した。

「物騒でヤンスが、仕方ないでヤンスね」

 リンタローは呆れていたが、王子の覚悟を評価する。


「では、王都ツヴァンツィガーへ案内しようぞ」

 ドワーフさんに連れられて、ツヴァンツィガーの街へ向かった。

 だが、ヤトたちは一旦、ファッパに戻るという。
 
「二人は行かないの?」

「ツヴァンツィガーの街の位置は、知っている。ファッパのギルドに報告した後で、追いつく」

 報告だけなら、ギルドカードでもできる。
 が、財団にコーラッセンを調査してもらったほうがいいかもとのこと。

 ヤトたちの足なら、すぐに追いつけるそうだ。

「そうだね。フワルー先輩も心配しているみたいだから、お願い。じゃあ、ヘルムートさん。馬車をお願いします」

「うむ」

 廃墟となったコーラッセン王国を、ツヴァンツィガー騎士団の馬車で進む。

「大陸の半分を総括していた我が国が、見るも無惨に」

「どうして、滅びちゃったんですか?」

「魔王の襲撃だ」

 コーラッセン王国は、魔王との戦いでもっとも被害を受けた国だという。

「国家が、魔王の領地に近い場所にあってな。真っ先に狙われた」

 当時最強と呼ばれたコーラッセンといえど、魔物の物量には敵わなかった。

「今や、その領地も消滅しております。残すは、雪山のダンジョンのみ」

「じゃが、あなたは、その雪山のある方角からおいでなすった」

 ドワーフのヘルムートさんによると、敵の本拠地があったポイントから、フルーレンツ王子が現れたという。

「怪しいですわ。もう少し調べたほうが良さそうですわね」

 破壊の跡が痛々しいエリアを抜けた。

 さらに、大型のボートで川を渡る。

 そうやって、数日ほど進んだ。

「見えてまいりましたぞ。あれこそ、ツヴァンツィガー王国じゃ」

 川の先に、豪華な城が見えてきた。

 ファッパの港町もすごかったが、こちらはもっと大きい。

 川を伝って、水門をくぐる。

「滝の上に、都市がありますのね?」

 すごい作りだなぁ。
 
「刀剣の種類が、豊富だなあ」

 王都は、ドワーフと人間が共存する都市みたいだ。
 いたるところに鍛冶屋や武器・防具屋が見られる。
 あと、強いお酒の匂いも。

「ああ、リンタローが来なくて正解かも」
『だろうね。酒の味につられて、酒場から戻ってこないかもしれないよ』

 馬車のメンツが、ゲラゲラと笑う。

「ワシは先程まで斧を振るっておったが、もうじき引退するんじゃ。鍛冶業を営もうと思うておる」

 ヘルムースさんの斧も、自前だそうだ。
 店舗も買って、今は奥さんが留守を預かっているという。

「あの。武器の鍛え方を教えていただけますか?」
 
「うむ。よかろう」

 よし。これで、レベッカちゃんをさらに強くできるぞ。

「フルーレンツ王子よ。あなたにふさわしい剣を打って差し上げましょうぞ」

 ヘルムースさんが力こぶを見せた。

「ありがたい。よろしく頼むぞ、ヘルムースよ」

 ローブの下から、フルーレンツ王子がお礼を言う。
 
「お安い御用です」

 ただし、店によるのは、王都で用事を済ませてからになる。

 王城の前に、辿り着いた。

 案の定、門番さんたちに止められる。

「騎士団長の、ヘルムースである。国王様と姫君に、お目通りをお願いしたく」

「それは結構です、ヘルムース殿。しかし、部外者を城の中へ入れるには」

 門番さんも、困っていた。

「お待ちを」

「あなたは?」 
 
「クレア・ル・モアンドヴィルと申します。これを王様か、位の高い方にお見せくださること、お願いできますか?」

 小さいペンダントを、クレアさんは外す。
 門番さんに、ペンダントを渡そうとした。

 しかし、門番さんは受け取らない。
 
「そう、申されましても」 
 
「お待ちなさい!」


 通りかかった貴族風のおねえさんが、スタスタとこちらにやってきた。「失礼」と、クレアさんのペンダントを凝視する。

「もももももも申し訳ございません! これ! モアンドヴィル家の姫君ですよ! 早く通しなさいまし!」

「は。失礼しました。グーラノラ様。みなさん、お通りください」

 門番さんが、道を開けた。

 グーラノラ様と呼ばれたおねえさんは、クレアさんにしきりにペコペコ頭を下げている。

「もうしわけありません、クレア様。あとで叱っておきますので」

「いえ。構いませんよ。入らせていただくだけで、結構ですから」

「お気遣い、感謝いたします。して、どのようなご用件で?」

「少々、お話をうかがいたく。コーラッセン王国のことなど」

 ピタ、と、グーラノラさんが立ち止まった。

「ああ、あちらの王国ですか」

 神妙な面持ちで、グーラノラさんがクレアさんと正面から向き合う。

「実は……あたしもよくわかんないんですよねー」
 
 さんざん思わせぶって、この対応かいっ。

「ですが、ちゃんと調べますよー。それまで、お待ちを」
 
 わたしたちが、廊下に出たときだった。

「……我が妹だ」

 一枚の絵の前に、フルーレンツさんが立ち止まる。静かに、わたしに耳打ちをしてきた。

「こちらの方は、どなたですの?」

 事情を察したクレアさんが、グーラノラさんに問いかける。

「この絵の方は、王都ツヴァンツィガーの第一王女、クリームヒルト様です」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...