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第四章 魔剣 VS 妖刀

第36話 活路

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「うわーっ!」

 リンタローが、こちらにぶっ飛ばされてきた。

 妖刀を鉄扇で防いだだけで、突き飛ばされるとは。

 わたしは、リンタローをキャッチする。

『キャルが、釣り竿型妖刀をよこしな、だってさ』

 レベッカちゃんは仙狸のテンちゃんを介して、リンタローに語りかけた。魔剣が言葉を話すってことは、内緒だ。まだ召喚獣が口をきくって方が、説得力がある。

「わかったでヤンス!」

 再度リンタローが、鉄扇を広げてヤトに立ち向かっていった。

「スパルトイ、ゴーレム! わたしを囲んで!」

 盾を装備した魔物たちに、取り囲んでもらう。

 手持ちの素材を錬成しまくる。どうにか、釣り竿妖刀を受け取る前に、強力な素材を開発していく。

「準備OK! いつでもいいよ!」

「承知でヤンス」

 ヤトに作戦を見破られないように、リンタローはあえて足元に注意を払わない。回し蹴りを浴びせ、そのスキに鉄扇で風魔法を起こす。

 竜巻が起きた。

 その勢いで、こちらに釣り竿が飛んでくる。

『うまいね!』

「お見事」

 だが、リンタローのキックは外れ、撃墜されてしまった。

 ヤトはまた、ブリッジだけで蹴りを回避したのだ。どんだけ、身体が柔らかいのか。

 鉄扇による打撃も、ヤトは妖刀で弾き返す。

「いいでヤンス。殺意高めの攻撃は、久々でヤンスから! でも、もっと違う形で戦いたかったでヤンス!」

 強い相手は大歓迎って感じの、リンタローの口調。しかし、イントネーションはどこか物悲しさが。

 二人の間に、よほどの信頼関係が合ったのが、戦闘の中で見て取れる。

 おそらく、妖刀の洗脳は完璧じゃない。殺そうと思えば、いつでもわたしたちを殺せる場面はあった。その状況は、一度や二度ではない。少なくとも、腕や足は吹っ飛んでいたはずだ。

 しかし、ヤトは妖刀にこだわらない。リンタローやレベッカちゃんの攻撃を、徒手空拳で押し戻していた。舐めプかなと思っていたが、攻めきれないのだとわかる。

 ヤトも、戦っているのだ。その表情から、苦悩がうかがえるから。リンタローの動きを読みつつ、かといってトドメは刺さない。刺せないんだ。

「どうしたでヤンスか? あなたはそんなヤワな攻撃をしてくるような魔法使いでは、なかったはずでヤンスよ」

 リンタローに挑発されて、ヤトの攻撃が激しくなる。より深く踏み込むようになり、リンタローを徐々に追い詰めていく。

「そこ!」

 初めて、リンタローの突きがヤトを捉えた。みぞおちに、リンタローの拳がヒットする。

「くっ! ぬかったでヤンス」

 ヤトの妖刀が、リンタローの脇腹をすり抜けていた。

 そこまで肉薄しなければ、リンタローでさえヤトに一太刀を浴びせられない。

 リンタローがヒザをつく。


「伏せてくださいまし!」


 もう危ういと思っていた矢先、稲妻を帯びたヒザ蹴りが、ヤトに飛んできた。


雷霆蹴りトニトルス!」


 妖刀で蹴りを防いだのに、ヤトが一回転する。そのまま、壁まで吹っ飛んだ。

 こんな恐ろしい蹴りを打ち込んでくる相手は、一人しかいない。

「クレア氏! 魔王カリュブディスを倒したでヤンスか!?」

「相手は、完全体ではありませんでしたからね。完全復活していれば、危険でしたでしょうけど」

 不完全な復活とはいえ、一人で魔王を倒すとは。

「リンタローさん、おケガは?」

 クレアさんが、リンタローの横に並ぶ。

「多少は、やられたでヤンス。ツバをつけておけば、治るでヤンスよ」

 リンタローが脇腹に、治癒魔法を施す。

「キャルさんが突破口を開くまで、足止めをすればいいのですね?」

「瞬間的な状況確認、恐れ入るでヤンスよ」

 クレアさんが飛び蹴りを繰り出し、リンタロが鉄扇で竜巻を起こした。

 雷撃を込めた渾身の飛び蹴りを、ヤトがかわす。

「甘いでヤンス!」

「トニトルス!」

 キックを避けられたクレアさんが、竜巻で舞い戻ってきた。今度は竜巻を段差代わりにして、オーバーヘッドキックを繰り出す。

 起き上がったヤトの首筋に、蹴りがめり込んだ。

 苦悶の表情を浮かべながら、ヤトが剣を逆手に持ち替える。

 追撃してきたリンタローの首を、妖刀で撫でようとした。

 リンタローは、かろうじてすり抜ける。だが追撃の前蹴りを太ももに受けて、転倒した。

 反対の手で、釣り竿を取ろうとしたのだろう。ヤトは地面に手を伸ばす。

 しかし釣り竿は、わたしの手の中にあった。

 クレアさんが、五番の棍棒を掴んで、ヤトに振り下ろす。

『魔剣を破壊する魔剣』として開発した棍棒を、妖刀はいとも簡単に弾き飛ばした。

「オーソドックスな戦法で、参ります。一番を!」

 トートに武器交換を頼み、クレアさんはショートソードを装備する。

「やあ!」

 妖刀と、魔剣が打ち合う。

 リンタローも両手持ちの鉄扇で、クレアさんをサポートした。

 二人がヤトと戦っている間に、こちらは素材を錬成。

『キャル。ヤロウ、とんでもないよ。あの二人を相手に、互角以上に戦ってやがる』

「待ってて、二人とも」

 妖刀から、ヤトが氷の刃を飛ばしてきた。立て続けに、二発も。衝撃波まで、使うのか。

『キャル!』

「打ち返して、レベッカちゃん!」

『よっしゃ。【ウェーブ・スラッシュ】! おらああ!』

 こちらも二発、衝撃波を放った。

 ヤトの衝撃波を、無事に打ち消す。

 だが今度は、リンタローとクレアさんが吹っ飛んできた。

 スパルトイとゴーレムを駆使して、二人をキャッチする。

 この二人をもってしても、ヤトを止められないか。

「不甲斐ないでヤンス!」

「強いですわね。不完全体ながらも魔王を倒して、レベルは上がったはずですのに」

 わたしは、二人の前に立つ。

「キャルさん!?」

「みんなありがとう。魔剣の錬成は、できあがったよ。クレアさんたちは休んでてください」

「一人で戦うおつもりですか?」

「うん。どうにか、目を覚まさせる方法は、思いつきましたから」

 だが、これを外すと、もうヤトを殺すしかなくなる。

 一か八かの賭けだ。

「二人は、わたしが失敗したときに、ヤトを倒してもらう」

 どうにか、ヤトにダメージだけは負わせるつもりである。レベッカちゃんの戦闘力頼みになるが、そちらの方は安心だろう。

「クレアさん、これを。これが切り札です」

 わたしは、クレアさんに耳打ちをした。これで、ヤトが目覚めるはずだと。

『さあ妖刀ヤロウ! 決着をつけようじゃないか!』

 レベッカちゃんと、人格を入れ替える。

 本格的な切り合いが、始まった。

 わたしの身体を使い、レベッカちゃんが片手で魔剣を振り回す。

 妖刀を逆手に持ち、ヤトは重い一発に耐える。

『そらそら、どうした!』

「くっ!」

 情け容赦がなくなったレベッカちゃんの剛剣に、ヤトはついていけていない。やはり剣術は、使い手の肉体に依存するようだ。

 ヤトは本質的に、魔法使いである。今までの戦闘も、魔力依存による肉体強化だったのだろう。

 一方でわたしは、身体能力にステータスポイントを振ってきた。

 フィジカルの差が、ここにきて生まれている。

『どらあ!』

 魔剣の一撃で、レベッカちゃんがヤトを押し出す。

 レベッカちゃんが、突きの構えに。

 狙うは、妖刀だ。この突きによる【原始の炎】によって、妖刀を破壊すれば……。

 ヤトも、同じ構えになる。身体のしなりを活かし、突きを繰り出してきた。

「折れた剣の方が、相手を取り込む!」

『OKだっ! やってやるよ!』

 魔剣と妖刀の切っ先が、ぶつかり合う。

 弾かれたのは、レベッカちゃんの方だった。

 剣の衝突によって、ではない。妖刀が刀の先端に、氷結魔法を込めたのである。


 妖刀が、日和ったのだ。


 魔剣も、無事である。

「こ、こいつは、レーヴァテインじゃない。何者だ!?」

「アタシ様かい? アタシ様はね、もうレーヴァテインじゃないよ。【魔剣 レベッカ】として、独自に進化したんだ! 違うベクトルで、強くなっていくんだよ!」
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