ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路

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第四章 魔剣 VS 妖刀

第31話 海底神殿のダンジョン

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 わたしとクレアさんは、海底神殿に続く道を進んでいた。

 財団の人には、入口付近で残ってもらっている。
 ここから先は、何があるかわからない。
 船を失っている上に、帰れる保証もなし。財団からの救援を、彼らには待ってもらうことに。冒険者が救援を呼びに向かったから、大丈夫だろう。

「ダンジョンなんて、久しぶりだね」

 わたしはファイアーボールを、松明代わりに浮かばせる。

 洞窟は、仙狸のテンちゃんに乗ったままでも移動できるほどの広さだ。

『といっても、長いだけだね。ポンコツのキャルでも、スタスタと前進できるよ』

 レベッカちゃんのいうとおり、モンスターはほとんどいない。

 ヤトとリンタローが、倒してくれたようである。

 といっても、ほとんど一本道だ。あのアハギンたちが、道を塞いでいた程度だったらしい。

 スパルトイ軍団がナメクジ型の魔物を叩き潰し、ゴーレムがサンゴ型ゴーレムと相撲を取る。

 仙狸のテンちゃんに至っては、クモをムシャムシャ食べていた。

 召喚獣だけで、全然対処できる。

「キャルさん。道が、二手に分かれていますわ」

 クレアさんが、足を止めた。

「左の方に、氷属性魔法の冷気を感じますわ。ヤトさんたちは、あちらに向かったようですわね」

 二つの入口の前には、木の枝が落ちている。おそらく、リンタローあたりが適当に選んだのだろう。

「じゃあ、わたしたちは右に行きましょう」

 仮に間違っていたとしても、ヤトたちが神殿のボスを倒してくれるはずだ。

 うまくいけば、ボスを挟み撃ちにできる。

「下って言っているようですわ」

 片方は上りで、片方は下りのようだ。

「上から攻めるか、下から攻めるか、ですかね?」

「焦っても、しょうがないんですわよね」

 あの二人も、枝が倒れた方角で道を選んでいるのだ。使命感もあるだろうが、案外いい加減なのかもしれない。

「ボスがどのような魔物なのか、ですわね。正体がわかりませんが、ヤトさんたちなら平気でしょう」

 水の混じった下り坂を、突き進む。

「壁の色が、変わってきましたわ」

 たしかに道が、どんどん明るくなってきた。

 わたしは手を握って、浮かんでいるファイアーボールの照明を消す。

 岩を侵食するかのように、青緑色のレンガが積み重なっている。このレンガに付いているのは、ヒカリゴケだ。これだけあれば、明かりはいらないだろう。

 岩山くらい大きなイソギンチャクのような怪物が、海底神殿の前を塞いでいた。

「触手に続いて、また触手のようですねわ」

「デカいですね」

 ヤツは、ここの門番ぽい。

 大型イソギンチャクを率いているのは、貝殻ビキニを着たセクシーな魔法使いだ。

「フワルー先輩?」

「いえ、あんなに真っ平らではありませんわ」

「えへへ。そうでしたね」

 たしかに、頭がアンモナイトの形だもんね。触手が髪の毛になっているし。

 貝殻のビキニといえば、先輩って刷り込まれちゃっていたよ。

 ビキニ魔法使いは、キンキラの杖を持っている。ただの杖のようだが、よく見ると先端が鍵の形をしている。この神殿の鍵は、アイツが持っているのか。

「我が名はスキュラ。セイレーンを倒した程度で、いい気になるでない。ここはカリュブディス様の神殿。見逃してやるから、立ち去りなさい」

 貝殻ビキニの魔女スキュラが、杖を掲げた。イソギンチャクが、爬虫類の頭をしたマッスルな男たちを吐き出す。

「あれは、リザードマン?」

 リザードマン族なら、冒険者の中にもいたよな。冒険者が、敵対した?

『ナーガ族だよ! リザードマンの中で、蛇神に魂を売ったヤツらさ!』

 サハギンより、戦闘向けの種族らしい。

『あの魔法使いは、アタシ様にやらせなよ』

 レベッカちゃんが、戦いたがっている。

「わかりました。わたくしはクラーケンで、散々暴れましたので。トートさん、八番を」

 クレアさんが、トートに指示を送る。

 トートが魔剣から取り出したのは、二刀流のサイだ。

 ナーガ族か。武器は矛と、サハギン共と変わらない。しかし、スパルトイ軍団やゴーレムが束になっても、軽くいなしている。

「それ!」

 わたしは横薙ぎで、魔物の胴を払おうとした。

 しかし、ナーガは矛で剣を止める。

「炎の剣が、通らない」

『矛を、水の膜で覆っているのさ!』

 レベッカちゃんのいうとおり、戦闘力はサハギンよりは上のようだ。群れで襲ってくるサハギンよりは、個体数が少ない。そこが狙い目か。

「だったら、【原始の炎】を」

 ちょっとだけ全力で、戦ってみることにした。

 レベッカちゃんに黒い炎をまとわせて、水の膜を無視して攻撃する。

 矛もろとも、ナーガを切り捨てた。

 しかし、ここで属性無視攻撃を仕掛けても、魔力ムダ遣いだ。属性貫通がちゃんと通るならば、よし。あとは、普通の火炎属性攻撃で叩く。

 もう一体のナーガに、レベッカちゃんで打ち込み続ける。

 こちらが大振りなこともあって、なかなか攻撃が当たらない。

 だが、そこが狙い目だ。

「いいの? 火属性をずっと防御し続けて。そしたら」

 矛から溢れている膜の勢いが、徐々に弱まってきた。

「こちらの火炎は、無限だ。そっちは魔力で、ずーっと水を張り続けなきゃいけない」

 水の膜が失われた矛は、とうとうレベッカちゃんの一撃で溶ける。

「道を開けなさい!」

 ナーガを袈裟斬りに仕留めて、レベッカちゃんと身体を交代した。

『さあ、魔法使い。攻撃開始といこうじゃないか』

「バカを言うな。いったいどれだけのナーガが、カリュブディス様のためにその身を捧げたと思っているのか」

『アタシ様の後ろを、見てみなよ』

 クレアさんが、ナーガをすべて殲滅している。トートに、サイを収納させていた。

『バカ野郎は、あんたの方だったね?』

「愚かな。愚鈍な魔剣ごときに、このスキュラが遅れを取るものか」

 鍵型の杖を振り回して、スキュラがイソギンチャクに指揮を送る。

 無数の触手が伸びて、レベッカちゃんに襲いかかってきた。

『切って捨ててもいいけど、ここは新技のお披露目と行こうかね。【ヒートウェイブ】!』

 レベッカちゃんが、魔剣の先を地面に突き刺した。彼女を中心に、炎の衝撃波が駆け抜ける。

 衝撃波によって、無限とも思えた触手が炎を上げてしなびていく。

『もういっちょ、ヒートウェイブ!』

 今度は、イソギンチャクの密集する山に、剣を突き刺す。

『――からの【誘爆】!』

 炎の衝撃波と誘爆によって、イソギンチャク自体も干からびていった。

『あとはあんただけだよ。貝殻ビキニ!』

「ちい!」

 レベッカちゃんのヒートウェイブを、スキュラは杖で弾く。氷魔法で障壁を張ったか。
 これは、ナーガ族のようにはいかない。魔力が高すぎる。

『クソが。原始の炎を舐めるんじゃないよ』

「待って。考えがある」

 わたしは、レベッカちゃんに障壁を壊す方法を教えた。

『いいねえ』と、レベッカちゃんは左腕の手甲を曲げ伸ばしする。

『やっておくれ』

 魔剣を短く圧縮し、手甲に差し込む。

「錬成!」

 ザラタンの甲羅でできた手甲が、炎に包まれた。

 レベッカちゃんが、スキュラに炎の拳を叩き込む。

 またスキュラが、氷の障壁を作って防ごうとした。

 その氷ごと、レベッカちゃんは拳で突き破る。

 火炎をまとった左拳が、スキュラのドテッ腹にめり込んだ。

 スキュラは炎に包まれて、ドロップアイテムと鍵を残してチリになる。

『原始の炎に、こんな使い方があったとはねえっ!』 

 また手甲から魔剣を引き抜き、レベッカちゃんはわたしに身体を返した。

「鍵をゲットですわ」

 門の穴に、クレアさんが鍵を差し込む。

「おお。海底神殿というから、てっきり内部も水だと思っていましたが」

 内部に、海水が入り込んでいない。

『そのキーを使って中に入らないと、神殿内が水浸しになる仕組みなんだろうね』

 謎仕様によって、わたしたちは神殿に入れたようだ。

 まあ魔剣レベッカちゃんを拾ったダンジョンも、人によってランダム化するダンジョンだったし。
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