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第三章 炎VS氷! 魔剣同士の激突

第26話 魔剣作成のヒント

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 わたしたちは、シューくんの工房へ通された。

「キャルさん、クレアさん。ここが、ボクのラボです」

 見たこともない武器や装備品が、たくさんある。

 腕に取り付けるタイプのクロスボウ、街の城壁から撃ち出す大砲、マジックシールドなど。

「こちらは、なんですの? 柄しかありません。試作品ですの?」

 クレアさんが、柄しかない剣を掴む。刀身がなく、取り付ける刃は、どこにも用意されていない。練習用かな?

「それは、最新型の魔法剣です。一度、魔力を流し込んでみてください」

 シューくんの指示通り、クレアさんが剣の柄に魔力を流し込んだ。

 柄から、刃が出てきた。

「魔力そのものを、刃にするんですよ」

 ヨロイを着たカカシを、シューくんが用意する。

「これを斬ってみてください」

 ためしにクレアさんが、ヨロイを着たカカシに斬りかかった。

 きれいな袈裟斬りが、決まる。

 ヨロイが斜めにカット、されない。

「まだ、試作品なのです。十分な強度が、得られなくて」

「刀身がないと、落ち着きませんわ」

 わたしも、触らせてもらう。

 やっぱりわたしが試しても、ヨロイは切れない。

『熱の制御が、足りないのさ。そのせいで、質量の割に火力が出ない』

 レベッカちゃんが、脳内に直接語りかけてきた。

 わたしが代弁して、シューくんに教える。

「なるほど。勉強になります。よくわかりましたね?」

「れれ、錬金術師だからねっ」

「よほど高度な学習を、受けていらしたんですね。そうお見受けしますっ」

 シューくんは、盛大に勘違いしてくれた。

 でもこの剣は、魔剣のいいヒントになりそう。

「これは、なに?」

 わたしは、飛び出しナイフを見つけた。テーブルに、無造作に置かれている。あまり大事にされている感じではない。

「それは、ウチの商品ですね。その試作品です」

「どんな用途が?」

「こうやるんですよ」

 ナイフの柄を、シューくんが指でつまむ。

 缶切りが、出てきた。

「こちらは栓抜き、こちらはワインのオープナーですね」

 他にも、色んな用途に使えそうな金属製品が出てくる。ノコギリ、爪切りとヤスリ、ハサミ、千枚通し、ウロコ落とし、包丁など。

「レンチやドライバーまで、ありますわ。今まで見たツールの中で、一番面白いですわ」

「ありがとうございます。でも、用途を足しすぎて、携帯用のツールとしては失格だと、父に言われまして」

 結局商品にできたのは、せいぜい七つ道具つきだったらしい。

「あのさ、クレアさん。わたし、決めたよ。絶対、これだと思う」

「キャルさん、どうなさったの?」

「魔剣のヒントが、掴めたかも知れない」


 
 続いて、完成したばかりのフワルー先輩のお店に。

「先輩、連れてきましたよー」

「あかんてキャル、待って! あと五分だけ待って!」

 シューくんが来るというので、先輩はやたらドタバタとしていた。女子かよ。女子だけど。

 いやあ、珍しいものを見たよ。恋する乙女って、こうなっちゃうんだねえ。

「はあ、はあ。お待たせやで。どうぞ」

 先輩のお店は、街の隅っこに建てさせてもらっていた。景観を損ねないように、縮小したという。

「ウッドゴーレムを、間引きしたんですね?」

「せやねん。あまりにも多すぎたさかい、別の用途として活用してるねん。シューくんと相談してん」

 フワルー先輩が、街の壁を指差す。

「あれは?」

 この間までなかった弩が、セッティングされている。

「バリスタや。自動でモンスターを追尾して、狙撃するねん」

 これがあれば、魔物が壁をよじ登って襲ってくることもない。

 魔物たちは、また街を襲いに来るだろう。その準備は、しすぎなくらいでちょうどいいはずだ。

「シューくんから、ウッドゴーレムの活用法について、アドバイスを受けたんや。おおきにやで」

「い、いえ! お役に立てたなら、なによりです」

 フワルー先輩から感謝されて、シューくんが照れている。

 これは、二人とも意識している感じ?

「工房はどうやった? ウチも見てみたかったけど」

「道具は、一通り見せていただきました」

 参考になりそうなものはすべて、シューくんからもらってきた。

「ありがとう、シューくん。本当に全部を、錬成に使っても大丈夫?」

「家に飾っておいても、コレクションにしかなりません」

 作ろうと思えば、設計図はすべて保管してあるという。

「キャル、シューくんの発明品やけど、正直な感想は?」

「ええっと」

 言いづらい。かなりマイナスな感想が出るから。

「遠慮しないでください、キャルさん。我々は商人、ボクだって発明家である以前に、商人です。ヘタな製品を提供して、お客様に損害を与えるわけにはいきません」

 シューくんも、覚悟を決めていたようだ。

 ならば。

「これらは控えめに言って、さすがに学術用ばかりでした」

 実用性を求める商人さんが相手では、まるでお話にならないものばかりだ。

「ですが錬金術師の観点から見れば、興味深いものばかりで」

 わたしや先輩のような錬金術師なら、これらの製品を商品レベルまで改造できそうだ。

「ええ見立てや」

「忖度のないご意見を、ありがとうございます。キャルさん?」

 フワルー先輩からだけでなく、シューくんからも合格をもらえたっぽい。



 わたしとクレアさんは、またトレーニング用の魔力制御ジャージに着替えた。戦闘訓練用のジャージである。これでわたしも、錬金しながら熟練度を底上げできるだろう。

「では、開発をいたします。先に、防具を作らせてください。【錬成】!」

 倒したザラタンの甲羅で、アームガードを錬成した。

 うん。想像通りに軽い。生体素材だから、もっとベタベタしているかなと思った。けど、つけ心地は全然気持ち悪くない。

「こちらは、シューくんに。マナボードの補強素材にして」

「はい」

 余った甲羅は、シューくんに活用してもらう。

『はあ、しゃべれないってのは、窮屈だねえ』 

 シューくんが去ったので、レベッカちゃんがようやく話し出す。

「お嬢ちゃんの魔剣を作る、っていう話やったな?」

「その前に、キャルさん。ワタクシの戦闘力は、どうでしょうか? これまでの戦闘で、ワタクシに受けた感想をお聞かせください」

 クレアさんが、わたしに懇願してくる。

 どう言えばいいのか。

「クレアさんなんですが」

「はい。忌憚なき感想を、お聞かせください」

 自分で言うには、はばかられた。

『まったく、じれったいねえ。そら』

 レベッカちゃんが、わたしの許可なく、勝手に人格を交代した。

 前髪だけ、オレンジ色に変わった。

『うーん。アンタだけど、控えめに言ってゴリラだね』

「ゴリラ!」

『道具を渡してもぶっ壊しちまうあたり、相当やんちゃなゴリラだよ』 

「まあ! やんちゃゴリラ!」

 さすがにフワルー先輩も、「言い過ぎちゃうか?」と言葉を遮ってきた。

 どうしてこの人は、【騎士ナイト】職なんて選んだんだろう? 【豪傑アデプト】じゃん。素手武術職の最高位じゃん、と。

「い、いかがでしょう?」

 怒られても仕方ないことを、言ってしまった。

 これじゃあ、嫌われちゃうよ。

「あははは! ゴリラですのね!」

 お腹を抱えて、クレアさんが大笑いをする。

「言い得て妙ですわ。ゴリラさんと比較してもらえるなんて、ワタクシは光栄と考えております」

 なぜか、クレアさんはわたしの、というかレベッカちゃんの意見を、好意的に捉えてくれた。

「怒って、いないんですか?」

「どうして、怒る必要がございますの? ゴリラ。実によろしいではありませんか。ワタクシは、人の領域では測れないと、キャルさんは判断なさったんでしょ?」

「まあ。そうですね。そんなクレアさんだからこそ、魔剣作りには難航しました」

 正直に、感想を述べる。

「クレアちゃんの魔剣は、どないなるつもりなん?」

「はい、先輩。それなんですが――」

 わたしは、フワルー先輩にだけ耳打ちする。今クレアさんに聞かせると、変な期待をさせてしまうからだ。

「それは、ええな。おもろいわ。あんたらしい発想やと思うで」

「ありがとうございます。さっそく取り掛かります」
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