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第三章 炎VS氷! 魔剣同士の激突
第24話 氷特化の魔法使い
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なぜか知らないが、謎の冒険者と戦うことになった。
できれば、戦いたくないけど。
「船を守らないと」
「あれを護衛しているのは、ソレガシたちが手配した冒険者でヤンス。ランクの低い連中ばかりですが、信頼はできるでヤンス。お気遣いなく」
「それは、どうも」
「おたくらのことも、殺しはしないでヤンス。その剣をいただければいいでヤンスよ」
リンタローという緑色の天狗が、着物を豪快に脱ぐ。スレンダーな体を、スポーツ用のブラとショートパンツ姿が包んでいる。こちらも、緑色だ。
リンタローと言っていたが、この天狗は女性か。
着ていた装備は、鉄扇へと変わった。身体を覆い尽くせるほどに、範囲が広い。
クレアさんが、戦闘態勢に入る。
「おっと。ヤトと、こちらのお嬢さんとの、一対一でお願いするでヤンス」
リンタローが、クレアさんの進行方向を遮った。クレアさんの動きに反応できるとか、さすが天狗である。「天使に近い存在」と、言われるだけあるなあ。
「もっとも、あなたが手合わせしてくださるんなら、やぶさかでないでヤンス」
リンタローが、鉄扇で口元を抑える。
「好戦的すぎ。リンちゃんは、普通にしてて」
「はいでヤンスー」
リンタローという女性がふてくされた。
「ヤト・ザイゼン。そちらは?」
「キャラメ・ルージュ」
わたしは、レベッカちゃんを構える。
「それは、本当に【レーヴァテイン】?」
ヤトが、レベッカちゃんを指さす。
「どうして、レーヴァテインの名を?」
「ザラタンと戦っているときに、自分で名乗ってた」
ああーっ。そうでした。
「レーヴァテインを名乗る魔剣の目撃情報が、そこらじゅうで発生している」
ええ……。
いたるところで、レベッカちゃんの情報がダダ漏れだったみたい。
「レーヴァテインは伝説だと、『夜を斬り裂いた魔剣』とも、『七日間、大地を割った剣』書かれている。だが詳細が謎に包まれていて、誰も本物の刀身を見たことがない。この世界にある魔剣ではないというウワサもある。『マグマ説』もあったから火山地帯も漁ってみたけど、いたのはオークだけだった」
オタ独特の早口だな。魔剣のマニアなんだろうか?
とにかくこのヤトという少女は、「自分の興味のあることに関しては、やたらと饒舌になる」ってのはわかった。
なんか、親近感のわく子である。
「物語上の魔剣と思っていたけど、本物なら興味深い。ただ、これまで探してきた魔剣は、どれも紛い物ばかり。取り込んでも、たいして強くはならなかった」
「それは、本当に伝説のレーヴァテインなの?」
「一応は」
レプリカだしなあ。なんともいえない。
「なにか、歯切れが悪い」
ヤトが、首をかしげる。
ですよね、そういうリアクションになっちゃうよね。
「最強の魔剣かどうかは、取り込めばわかること」
この子、レベッカちゃんを自分の魔剣に食べさせる気だ。
どうしよう? レベッカちゃんと入れ替わるか? しかし、まだクールタイムが終わっていない。
変身は、クールタイムを要する。その時間は、わたしの体力に依存するのだ。
まだもう少し、時間がかかる。
「あなたが来ないなら、こちらから」
ヤトが、釣り竿を振り回す。
釣り針というより、死神の鎌のような。
「今日は、様子見! 【アイスジャベリン】!」
いつのまにか、わたしは氷のヤリに囲まれていた。
「うわっとっと!」
剣で、ジャベリンを弾き続ける。わたしはこれまでの戦いで、こういった動きもできるようになった。とはいえ、レベッカちゃんほどは強くない。
『気をつけな、キャル。まだ仕掛けがあるよ!』
「はいうひゃあああ!?」
言っているそばから、わたしは足を取られた。逆さ吊りにされる。
ジャベリンに注意をそらして、釣り糸を隠していたとは。相手の罠に、目が向いていなかったか。
「うおっと!」
氷でできた釣り針が、正面からわたしの首に切りかかった。殺すつもりはないって、言ってなかったっけ!? 殺意マシマシじゃん!
「こんにゃろ!」
逆さになりながらも、どうにか剣で弾き返す。
うう、冷たい。さっきの衝撃で、雪の結晶が手に。
鉱山にあった切り口と、同じ温度だ。
あの鉱山で戦っていたのは、このヤトなんだろう。
『脱出しなよ、キャル!』
「OK!」
わたしは剣で釣り糸を燃やし、脱出した。
釣り糸が、復活した。あの糸も氷でできているらしい。
『この子、氷特化の冒険者みたいだね?』
「専門のタイプって、めっちゃ強くなる代わりに、尖りすぎてあまり使い物にならないって教わったよ?」
今どき、特化型の魔法使いとは珍しい。応用が効くのか?
『たしか、氷も曲げたりできるんだったねぇ?』
「知っているの? 【水氷】を?」
『一応はね。そこまで純度の高い水氷は、見たことがないよ』
ヤトが、不思議そうな顔をした。
純粋な結晶であれば、氷も針金のように曲がる。おそらく氷に魔力を流し込んで、曲がるように調節しているのだろう。
氷を曲げることは、理論的には可能だ。
わたしも、授業で聞いたことはある。だけど、実際にやった人は見たことがない。
やれたとしても、何人もの魔導師が集まってようやく短い水氷ができる程度だという。
しかしヤトは、それを一人で作った。
それだけで、彼女の実力はうかがえる。
「わたしで、勝てると思う?」
『逆立ちしても、ムリだろうね』
ですよねー。
『アタシ様と入れ替われば、なんとかなりそうだどね』
まだ、クールタイムは切れない。あと数分持ちこたえられたら。
しかし、鎌のような釣り針の猛攻に、わたしは防戦一方である。
『あいつが【純魔】で、助かってるねえ。戦闘センスも微妙で、力も弱い』
【純魔】とは、【純粋な魔法使い】の略称だ。戦闘面では、ずっと後衛にいて魔法で飛び道具役か仲間の強化に専念する。
格闘において素人だから、わたしでもヤトの攻撃に対処できた。
もし、彼女が前衛職の戦闘技術を持っていたらと思うと。
「ヤトー。早く、決めるでヤンス」
こちらの実力差を知っているのか、リンタローがヤトを急かした。
マズイマズイ!
それにしても、なんでリンタローは汗びっしょりなんだろう? 何もしていないのに。熱いんだろうか?
「でも、なんか様子が変。ほんとにあれがレーヴァテインなら、使い手を操ってこちらが不利になる」
レベッカちゃんの仕組みを、わかってたんかい! っていうかヤトは、ザラタン戦を見ていたんだっけ。だったら、わたしがレベッカちゃんに取り込まれているのも知っているわけか。
『なるほどね』
「なにが? レベッカちゃん?」
『あいつが攻めあぐねている理由さ。魔剣だとわかった時点で、さっさとブン取ればいいじゃないか』
ホントだ。たしかに、弱いままのわたしから、早く魔剣を奪い取ればいい。
『やつは、東洋人だ。おおかた、【妖刀伝説】を叩き込まれているんだろうね』
「そっか! 妖刀が使い手の精神を奪って、一族皆殺しに!」
レベッカちゃんが本当にレーヴァテインなら、精神を乗っ取られるかも知れなかった。妖刀のように。
『なまじ妖刀伝説の恐ろしさを理解しているから、レーヴァテインの特性を恐れているのさ』
変にわたしが攻めあぐねているから、「なにか裏があるのかも」って考えているのか。
「でも、わたしが所持している段階で、その可能性は低くない?」
『だから、使い手にも秘密があるんじゃないかって考えているのさ』
そこまで頭が回る子……だろうな。ヤトは。
「仕掛けは済んだ」
「え? うわ、しまった!」
地面に張った氷で、足を滑らせる。
釣り針にばかり気を取られて、足元がおろそかになっていた。
ヤトが釣り針を、上空に飛ばす。そのままわたしの脳天めがけて、急降下させた。
だが……。
『反撃開始だよ』
ようやく、クールタイムが完了する。
できれば、戦いたくないけど。
「船を守らないと」
「あれを護衛しているのは、ソレガシたちが手配した冒険者でヤンス。ランクの低い連中ばかりですが、信頼はできるでヤンス。お気遣いなく」
「それは、どうも」
「おたくらのことも、殺しはしないでヤンス。その剣をいただければいいでヤンスよ」
リンタローという緑色の天狗が、着物を豪快に脱ぐ。スレンダーな体を、スポーツ用のブラとショートパンツ姿が包んでいる。こちらも、緑色だ。
リンタローと言っていたが、この天狗は女性か。
着ていた装備は、鉄扇へと変わった。身体を覆い尽くせるほどに、範囲が広い。
クレアさんが、戦闘態勢に入る。
「おっと。ヤトと、こちらのお嬢さんとの、一対一でお願いするでヤンス」
リンタローが、クレアさんの進行方向を遮った。クレアさんの動きに反応できるとか、さすが天狗である。「天使に近い存在」と、言われるだけあるなあ。
「もっとも、あなたが手合わせしてくださるんなら、やぶさかでないでヤンス」
リンタローが、鉄扇で口元を抑える。
「好戦的すぎ。リンちゃんは、普通にしてて」
「はいでヤンスー」
リンタローという女性がふてくされた。
「ヤト・ザイゼン。そちらは?」
「キャラメ・ルージュ」
わたしは、レベッカちゃんを構える。
「それは、本当に【レーヴァテイン】?」
ヤトが、レベッカちゃんを指さす。
「どうして、レーヴァテインの名を?」
「ザラタンと戦っているときに、自分で名乗ってた」
ああーっ。そうでした。
「レーヴァテインを名乗る魔剣の目撃情報が、そこらじゅうで発生している」
ええ……。
いたるところで、レベッカちゃんの情報がダダ漏れだったみたい。
「レーヴァテインは伝説だと、『夜を斬り裂いた魔剣』とも、『七日間、大地を割った剣』書かれている。だが詳細が謎に包まれていて、誰も本物の刀身を見たことがない。この世界にある魔剣ではないというウワサもある。『マグマ説』もあったから火山地帯も漁ってみたけど、いたのはオークだけだった」
オタ独特の早口だな。魔剣のマニアなんだろうか?
とにかくこのヤトという少女は、「自分の興味のあることに関しては、やたらと饒舌になる」ってのはわかった。
なんか、親近感のわく子である。
「物語上の魔剣と思っていたけど、本物なら興味深い。ただ、これまで探してきた魔剣は、どれも紛い物ばかり。取り込んでも、たいして強くはならなかった」
「それは、本当に伝説のレーヴァテインなの?」
「一応は」
レプリカだしなあ。なんともいえない。
「なにか、歯切れが悪い」
ヤトが、首をかしげる。
ですよね、そういうリアクションになっちゃうよね。
「最強の魔剣かどうかは、取り込めばわかること」
この子、レベッカちゃんを自分の魔剣に食べさせる気だ。
どうしよう? レベッカちゃんと入れ替わるか? しかし、まだクールタイムが終わっていない。
変身は、クールタイムを要する。その時間は、わたしの体力に依存するのだ。
まだもう少し、時間がかかる。
「あなたが来ないなら、こちらから」
ヤトが、釣り竿を振り回す。
釣り針というより、死神の鎌のような。
「今日は、様子見! 【アイスジャベリン】!」
いつのまにか、わたしは氷のヤリに囲まれていた。
「うわっとっと!」
剣で、ジャベリンを弾き続ける。わたしはこれまでの戦いで、こういった動きもできるようになった。とはいえ、レベッカちゃんほどは強くない。
『気をつけな、キャル。まだ仕掛けがあるよ!』
「はいうひゃあああ!?」
言っているそばから、わたしは足を取られた。逆さ吊りにされる。
ジャベリンに注意をそらして、釣り糸を隠していたとは。相手の罠に、目が向いていなかったか。
「うおっと!」
氷でできた釣り針が、正面からわたしの首に切りかかった。殺すつもりはないって、言ってなかったっけ!? 殺意マシマシじゃん!
「こんにゃろ!」
逆さになりながらも、どうにか剣で弾き返す。
うう、冷たい。さっきの衝撃で、雪の結晶が手に。
鉱山にあった切り口と、同じ温度だ。
あの鉱山で戦っていたのは、このヤトなんだろう。
『脱出しなよ、キャル!』
「OK!」
わたしは剣で釣り糸を燃やし、脱出した。
釣り糸が、復活した。あの糸も氷でできているらしい。
『この子、氷特化の冒険者みたいだね?』
「専門のタイプって、めっちゃ強くなる代わりに、尖りすぎてあまり使い物にならないって教わったよ?」
今どき、特化型の魔法使いとは珍しい。応用が効くのか?
『たしか、氷も曲げたりできるんだったねぇ?』
「知っているの? 【水氷】を?」
『一応はね。そこまで純度の高い水氷は、見たことがないよ』
ヤトが、不思議そうな顔をした。
純粋な結晶であれば、氷も針金のように曲がる。おそらく氷に魔力を流し込んで、曲がるように調節しているのだろう。
氷を曲げることは、理論的には可能だ。
わたしも、授業で聞いたことはある。だけど、実際にやった人は見たことがない。
やれたとしても、何人もの魔導師が集まってようやく短い水氷ができる程度だという。
しかしヤトは、それを一人で作った。
それだけで、彼女の実力はうかがえる。
「わたしで、勝てると思う?」
『逆立ちしても、ムリだろうね』
ですよねー。
『アタシ様と入れ替われば、なんとかなりそうだどね』
まだ、クールタイムは切れない。あと数分持ちこたえられたら。
しかし、鎌のような釣り針の猛攻に、わたしは防戦一方である。
『あいつが【純魔】で、助かってるねえ。戦闘センスも微妙で、力も弱い』
【純魔】とは、【純粋な魔法使い】の略称だ。戦闘面では、ずっと後衛にいて魔法で飛び道具役か仲間の強化に専念する。
格闘において素人だから、わたしでもヤトの攻撃に対処できた。
もし、彼女が前衛職の戦闘技術を持っていたらと思うと。
「ヤトー。早く、決めるでヤンス」
こちらの実力差を知っているのか、リンタローがヤトを急かした。
マズイマズイ!
それにしても、なんでリンタローは汗びっしょりなんだろう? 何もしていないのに。熱いんだろうか?
「でも、なんか様子が変。ほんとにあれがレーヴァテインなら、使い手を操ってこちらが不利になる」
レベッカちゃんの仕組みを、わかってたんかい! っていうかヤトは、ザラタン戦を見ていたんだっけ。だったら、わたしがレベッカちゃんに取り込まれているのも知っているわけか。
『なるほどね』
「なにが? レベッカちゃん?」
『あいつが攻めあぐねている理由さ。魔剣だとわかった時点で、さっさとブン取ればいいじゃないか』
ホントだ。たしかに、弱いままのわたしから、早く魔剣を奪い取ればいい。
『やつは、東洋人だ。おおかた、【妖刀伝説】を叩き込まれているんだろうね』
「そっか! 妖刀が使い手の精神を奪って、一族皆殺しに!」
レベッカちゃんが本当にレーヴァテインなら、精神を乗っ取られるかも知れなかった。妖刀のように。
『なまじ妖刀伝説の恐ろしさを理解しているから、レーヴァテインの特性を恐れているのさ』
変にわたしが攻めあぐねているから、「なにか裏があるのかも」って考えているのか。
「でも、わたしが所持している段階で、その可能性は低くない?」
『だから、使い手にも秘密があるんじゃないかって考えているのさ』
そこまで頭が回る子……だろうな。ヤトは。
「仕掛けは済んだ」
「え? うわ、しまった!」
地面に張った氷で、足を滑らせる。
釣り針にばかり気を取られて、足元がおろそかになっていた。
ヤトが釣り針を、上空に飛ばす。そのままわたしの脳天めがけて、急降下させた。
だが……。
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