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第三章 炎VS氷! 魔剣同士の激突

第20話 セイレーンと少年

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 わたしたちは、行商人さんの先導で、ファッパへの旅を続けている。

 さすがに、スパルトイたちばかりに戦闘をさせていては、わたしの熟練度やレベルが上がらない。
 熟練度が上がれば、魔剣作りの参考にもなる。

「てやーっ!」

 オウルベア一体を、一人で相手にした。剣を肩に当てたが、相手に傷がつかない。

「うわっとっとっと!」

 慌てて、飛び退いた。

 レベッカちゃんの力がないと、こんな敵にさえ苦戦する。レベルが上った程度では、油断してダメージを負ってしまいそうだ。

「ひゃあ、強い」

『強いもんか。あんたのレベルで倒せない敵じゃない。踏み込みが浅いんだ。まだ足に、怯えが出ているんだよ』

 レベッカちゃんのスパルタ教育に焚き付けられ、再度わたしは飛びかかった。今度は、首へ的確に剣を滑り込ませる。

 ドスン、とオウルベアの首が落ちた。モンスターが、黒いガラス片に砕ける。残ったのは、オウルベアの肉と爪だけ。

「はふう。ひとまず、夕飯確保」

『やれば、できるじゃないか』

「えへへぇ。そうだ。クレアさんの魔剣の具合は」

 わたしは、クレアさんの方に視線を移す。

 心配しなくても、我らが姫様は魔物をあっさりと蹴散らしていた。

 魔剣の力というより、クレアさん自身が強すぎる。数値化もできない。

「どうですか? 魔剣のほどは?」

 一応、わたしは斧タイプの魔剣も試してもらった。腕力が必要な武器を扱ってもらい、太刀筋や力の入り具合をチェックしようと考えたのである。

「すばらしい、魔剣ですわ。硬いトレントも、一撃で葬り去りましたし。薪を割るように縦にドン! と仕留めたときは、爽快な気分でしたわ」

 クレアさんが、ブンブンと魔剣を振り回す。

「まあ、あなたが作る魔剣は、どれも切れ味バツグンなのです。それでいて、頑丈という」

「ありがとうございます」

 前に作ったレイピアは、明らかに脆すぎた。
 なので今回は、斧で試し切りをしてもらったのだ。

「でも、まだまだですね」
「たしかに、まだ伸びしろがありますわ」

 やはり、クレアさんはスピード重視の剣が扱いやすそうである。

「槍も試してみます?」

「お願いします」

 クレアさんに、槍タイプの魔剣を渡す。

 群がるオーク軍団を、クレアさんは槍でぶっ刺していく。狭い森の中なのに、どうしてこうもブンブンと。

「せい!」

 オークを槍で突き、木の幹に押さえつけた。そのまま幹を踏み台にして、槍を引き剥がす。別の木の上にいたオークの弓兵に、槍を投げつけた。まったくスキがない。

 どんな目をしてるのよって感じに、クレアさんはオークの集団を殲滅する。

 うん、知ってた。何を持たせても、達人級だね。

 かといって東洋の【カタナ】を作るなんて、わたしには知識がないし。
 それっぽいものは、おそらく作れる。だがわたしが作ったら、形だけをマネた鉄の塊が出来上がるだろう。

 魔剣づくりは、まだまだ探求が必要である。


 
――夕刻。



 比較的静かな森を見つけ、キャンプにした。

 スパルトイ軍団に、警備を任せる。

 通称【魔王城】ことウッドゴーレム軍団なら、家に姿を変えることもできる。だが、「森に城が建った」なんて、変なウワサが立ってもいけない。おとなしくテントを張る。

「いやあ、キャルさん。助かります」

 同行している行商人さんが、キャンプの火に薪をくべた。

「そういえば、元のお店はどうなるんです?」

 最初は「フワルー先輩のウッドゴーレムが、店番をするのかな?」と思っていた。しかし、ゴーレムは旅に同行している。 

「あちらは、ウチの伯母夫婦が、引き継いでくれています」

 行商人さんの家は商人一家で、家族全員がなんらかの商売をしているそう。

「伯母も行商をしていたんですが、足を悪くしまして。ちょうどいいからと、店番を引き受けていました」

「そうなんですね。おっと、できました」

 自慢のひしおを使ったキノコ鍋を、振る舞った。

「おいしいですわ。醤の独特な風味があって、キノコに合いますわね」

「ホンマ、キャルは料理に関しては間違いないで」

 クレアさんやフワルー先輩からも、絶賛される。 

「トリカンの名産は小麦なのに、パスタじゃなくておうどんなんですね?」

 村を出て気がついたが、よく考えると、店に出ていた麺類がうどんだった。

「パンやパスタは、他の街にもありますから。ライ麦でジンを作ったりしますね」

 トリカン村で作ったうどんは、ファッパの労働者層で大人気だという。パスタは商人向けの食材で、あちらではややお高いらしい。取り寄せ先も、トリカン村とは違うという。

 わたしはお酒を飲まない。ジンがあるなんて、知らなかったな。飲まなくても、料理や錬成の材料として使ったら、面白かったかも。

「ファッパには、あとどれくらいで着きそうですの?」

「二日もあれば」

 モンスターの数が減ってきていますから、かなり早めには着くのではないか、とのこと。

「お知り合いの、商人さまというのは?」

「私の取引先なんですが、元々彼女は農民だったそうです」

 地元で自立して店を開いたが、商家の方に見初められ、引っ越したそうだ。
 ファッパで商家の男性と結婚して、ファッパの街で割と大きな店を任せてもらえたそう。
 夫婦仲もいいと、手紙には書かれていた。

「その女性をめとった方は、いわゆる、【ジェントリ】層ですね」

 元々財産のある貴族とは違って、商売で成功して貴族階級になった人を、ジェントリという。

 エクスカリオテの魔法学校でも、ジェントリ層の子どもたちが多数在校している。魔法はもう、貴族だけのものではない。

「二人は幼なじみだったそうで。貧乏時代に、絶対成功してその女性を迎えに行く、という一心で、成功なさったそうです」

「ロマンチックやね」

 フワルー先輩が、うっとりした口調になった。口にいっぱい醤をつけて、ロマンチックとは程遠い食べ方だが。

「今は引退して、息子さん夫婦が引き継いでいます……」

 商人さんは、少々言葉を濁す。

「どうしたんです?」

「ここだけの話に、しておいてくださいね。実は私、お孫さんが苦手でしてねえ」

 頭をかきながら、商人さんが口ごもった。

「イヤな人なんですか?」

「いい人ですよ。商売も上手で、人当たりもいい。寄付までしています。ですが、ややお調子者っていうんですかね? テンションが高くて」

 わたしとは、正反対な、陽キャなんだろうな。

「会えばわかりますが、かなり圧が強い方なので、大変かと」
 

――翌朝。

 で、もうすぐファッパに到着といったところで、アクシデントが。

 眼の前で、馬車が魔物に襲われていた。

 三叉の鉾を持った半魚人が、馬車の幌をつついている。

 彼らの中心にいるのは、パイレーツ姿の巨乳お姉さんだ。「♬~ゥアァアァアァ~」と、言葉になっていない会話を交わす。

 これは、歌? 

「サハギンです! 先導しているのは、セイレーンですよ!」

 セイレーンって岸にいるんじゃないの!? なんでこんなところで、野盗なんてしているんだろう?
 これじゃあ海賊じゃなくて、山賊だよ!

「しつこいヤツラだなあ!」

 メガネを掛けた金髪の少年が、馬車から飛び降りる。前転をして、体勢を立て直した。

「おのれ! ボクの開発した商売道具! 壊せるものなら、壊してみろぉ!」

 少年が、デカい大砲を持ち出す。

 しかし、筒に穴がない。なにを打ち出すんだろう?

「いくぞ。【デスボイスガン】だ! ヴオオオオオオオオ!」

 なんと少年は、筒の後ろから大声を出した。小柄な少年からは程遠い、おっさんのイビキみたいな声が。

 その勢いで、サハギンたちが失神する。

「引け引け~♪」と、セイレーンが魚の下半身になって崖へと猛ダッシュした。そのまま、海へダイブする。

 わたしたちが手を出すまでもなく、危機は去った。

 しかし……。

「フワルー先輩?」

 先輩が、少年を見てボーッとしている。心なしか、頬が朱に染まっているかのような。


……あれ、フワルー先輩どうした?
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