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第二章 姫に頼まれ、魔剣を作る

第13話 初接客

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「ただいま、戻りました」

 クレアさんが、帰ってくる。村人の騒ぎを聞きつけ、慌てて帰ってきたという。面目ない。

 まだギャラリーがいるよ……。

「ほらほらぁ。見せもんちゃうで。帰ってやー」

 フワルー先輩が、人払いをする。

「すいません。張り切りすぎちゃったみたいで」

「それは、お互い様や。ウチも楽しすぎて、ハッスルしすぎてもた」

 わははーと、さして気にしていないふうに先輩は笑う。

「こんな立派なおうち、維持費が大変でしょうに。お掃除も」

「いやいや。ゴーレムもおるから、掃除は心配せんでええさかいに。維持費なら、キャルちゃんのおかげで、十分に元が取れてるんよ。足らんかった分は、キャルちゃんに稼いでもらうよって」

 そこも見越して、大量に依頼を出していたのか。やるなあ、先輩は。

「では、お夕飯を作ってまいります」

「おおきに。ウチらは店の仕事するさかい。用事があったら、言うてや」

「はい」と返事をして、クレアさんは炊事場へ。

 わたしたちは、工房へ向かう。

「カウンターには、行かなくてもいいんですか?」

「ええねん。ほら」

 お店の番は、使い魔のウッドゴーレムたちが担当してくれるらしい。
 ゴーレムが、冒険者を相手にマジックアイテムを身振り手振りで売っている。わたしよりしっかりと、お客さんに応対していた。すごいな。

「簡単な受け渡しと、代金の支払いはできるねん。せやけど、中にはムズい注文してくる人もおるんよ。そんときは、ウチが担当するんや」

「ゴーレムでさえ働いているのに、わたしときたら」

 まだ、接客できるような神経は、持ち合わせていないよ。


 腰を痛めたというおばあちゃんが、尋ねてきた。

「行くわ。キャルちゃんは釜を見ておいてや」

「はい」

 先輩が応対に向かう。

 わたしは、薬草釜の方へ。コトコトと音を立てる釜を、混ぜ棒でかき回す。材料をスパルトイ軍団に刻んでもらった。
 何も教えなくても、ちゃんとこなしている。やはり、わたしのスキルや熟練度を、トレスしているみたい。

 先輩は、えらい話し込んでいる。

「オウルベアの肉や。これで、腰の筋肉をつけや。薄く切ってあるさかい、食べやすいはずやで」

 お肉の包みを持って、おばあちゃんはお礼を言って帰っていった。

「あんな感じやな」

 というかさっきの人は、単に雑談をしに来たみたい。
 お年寄りって、あんな感じだよね。

 コミュ力が求められる仕事は、先輩のほうが向いている。

「いらっしゃい。いつもありがとうな」

「こんばんは。店を新調したのか?」

 先輩の知り合いらしき中年男性が、店を尋ねてきた。数名のパーティを、引き連れている。他の男女のいでたちからして、冒険者か。

「みんな魔王城が出現したって、驚いていたぞ」

「ちょっと、増築の機会ができたよってに、店を改装したねん。今日は何を?」

「いつもの、ポーションを。それと、火山を攻略するんで、耐熱装備があると助かるんだが」

「炎耐性か。耐火ポーションは、前に売れてしもうたんよ」

 フワルー先輩が言うと、中年男性が「あちゃー」と額に手を置いた。

 わたしは「あの」と、パーティたちに声をかけた。

「キミは?」

「ええー、キャルといいます。こちらでお世話になっています」

「ああ、キミがさっき話に出ていた後輩か」

 中年男性の質問に、わたしはうなずく。

「せやねん。さっき言うてた後輩や。働きに来てくれてんよ」

「それは頼もしいな。それで、どうかしたか?」

「えっと、耐火装備ですよね? ファイアリザードの皮なら、余っているんですが」

 腰に取り付けたアイテムボックスから、わたしはファイアリザードの皮を取り出す。なめして、革の状態にしてある。

「ファイアリザードだって!?」と、中年男性が驚いた。

「レベル一二のバケモンだぜ。そんな怪物を、あの嬢ちゃんがやっつけたってのかよ?」

「信じられないわ。私の氷魔法でも、やつのブレスには通じないのに」

 冒険者たちが、わたしの話に興味を持ち出す。

「魔剣のおかげですよ。わたし、エクスカリオテの卒業生なんです」

「だからか。あそこから排出された魔法使いは、みんな優秀だもんな」

 リーダーの中年男性が、コクコクとうなずいた。

「あなた、フワルーちゃんと同じ平民よね? でもすごいわ。大したものね」

 冒険者たちからの称賛に、わたしは「ありがとうございます」と返す。

「剣士さんは片手剣持ちですから、革製のシールドを作成いたします。手持ちの防具をお借りしても」

「頼むよ。これなら、再利用してくれて構わない」

 リーダーの男性が不用品の丸い盾を、わたしに差し出した。

 錬成を施し、ファイアリザード製のシールドに変化させる。

「ありがとう。これで、ヒクイドリに対抗できる」

「ヒクイドリ?」

「この付近の火山をナワバリにしている、火属性のモンスターだ」

 街を襲っては来ないが、鉱山を荒らすやつを攻撃する厄介者だという。マグマをエサにするんだとか。 

『すっかり人気者だねえ、キャル』

「おだてないでよ。レベッカちゃん」

 ただレベッカちゃんは、ヒクイドリに興味津々の様子である。火属性だからだろうね。

「オレには、そうだな。この矢に毒を仕込めるか? 三〇本くらいほしい」

 レンジャーの男性が、矢の束をカウンターに置いた。

「はい、ただいま! 錬成!」

 わたしは錬成を行って、矢の先に毒を生成する。

「矢の内部を空洞にして、矢じりの先まで穴を通しています。突き刺さると、矢じりが引っ込んで毒が体内に流れ込むという構図です。ただし普通に武器として使うと、壊れやすいので注意してください」

 教頭先生から施してもらった「緊張をほぐす魔法」のおかげで、淀みなく商品の解説ができた。

「ありがとう。お嬢さん。これは少ないが、取っておけ」

 さっき採取したての、動物の角や爪を手に入れる。 

「お夕飯ができました」

「おおきに! キャルちゃん、看板裏返してきて。店閉めるで」

 今日の営業はこれで終わりとなった。

 本日の夕飯は、ゴハンと干物である。

「すごいですね。海がないのに、お魚が食べられるなんて」

 クレアさんはお上品に、ナイフとフォークでホッケの干物をいただいていた。

 一方わたしと先輩は、お箸で干物をつまんで豪快に貪っている。

「このトリカン村からちょっと西に行ったら、港町ファッパがあるねん」

 わたしが漬けた梅干しを一口で平らげて、先輩が語った。

 港町ファッパには、この一帯を治める領主が住んでいる。

「フワルー先輩が発酵技術を提供し、干物文化が浸透したんですよね」

「まあ、作ったんが干物女やねんけどな! アハハー!」

 笑えないジョークで、フワルー先輩が一人で笑う。

 食事を楽しんでいると、なにやらオルゴールが鳴り出した。
「オフロガ、ワキマシタ」と、ウッドゴーレムが呼びに来る。


「さて、疲れたやろ。オフロに入りや」

 フワルー先輩についていくと、外の岩場にたどり着いた。

 岩の煙突から、煙が立っている。

 空に向かって、湯気が立ち上っていた。

 先輩が岩石を組み立てて作っているのは、露天風呂か。一階を脱衣所にして、高い位置に露天風呂を設置している。

「今の家は、一人用の浴槽しかないねん。せやから、岩風呂を作ろう思ってな」

 以前に使っていた風呂場は、薪の置場にしたという。

「入ろっ」

 全員で服を脱ぎ、湯船へ。

 ああああ、生き返るぅ。

『いや。とんでもないね。キャルから疲れが取れるたびに、アタシ様の魔力も回復していくよ』

 レベッカちゃんも、気持ちよさそうだ。  

「前に村人用に、ごっつい大衆浴場を作ったんや。使い魔を放っとるから、ノゾキ対策もバッチリやで」

 もし不審者がいたら、ギルドが飼っている使い魔が知らせてくれるらしい。

 わたしたちのハダカなんぞ、せいぜい鳥しか見に来ないだろう。

「あんたら、魔剣を作るんやな。その前に、強さを見せてもらってええかな?」

「はい。お願いします」

 次の日、わたしたちは先輩にコーチを付けてもらう約束を交わす。
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