ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
2 / 80
第一章 影打ちの魔剣に魅入られた少女

第2話 レプリカ魔剣、レベルアップ

しおりを挟む
 習ったわけじゃないのに、わたしは魔剣をクルクルと回し、構え直していた。

[フランベ・ルージュが、レベルアップしました。ステータスを割り振ってください]

 なんか、魔物を倒してわたしのレベルが上がったっぽい。

 こっちはステータス振りなんて、やっているヒマがないよ。

 スライムのときもそうだったけど、ゴブリンを一匹倒しただけでレベルがアップするなんて。わたしって、どんだけ魔物との戦いを避けていたか、っての。

『次が来るぞ、キャル』

「わかった!」

 続けざまに、襲ってきたゴブリンをスパスパーっと切り捨てる。

「はっ! てやあ!」

 近づいてくるゴブリンを、ダッシュ切りで斬り捨てていく。盾もなにも持っていないのに、真正面からだ。

 ゴブリンに側面から、棍棒で殴られそうになった。

 瞬時にわたしの手は、魔剣を逆手に持ち替える。敵の棍棒を、柄頭で弾き飛ばした。同時に、ゴブリンの首をはねる。

 悲鳴を上げる前に、モンスターは黒い灰と化す。

「これ、わたしがやっているの?」

 グレートソードほどのサイズがある剣を、わたしは片手で操っていた。初心者なら、両手で持つくらいの重さと分厚さなのに。わたしがやったら、自分の手を切断してしまうね。

『そうだ。お前の脳に作用して、使い方を叩き込んだ。あとは、お前の体力次第ってところだな』

 それだと、すぐに息切れしそうなんだけど?

『案ずるなって。アタシ様には身体強化魔法がセットされていている。体力増強バフもかかっている。あとは戦闘で経験を積み、体力を上げていけばいいのさ』

 それまでは、レベッカちゃん自身の戦闘技術に任せるか。気が遠くなりそうだけど。

 それ以降、何度もレベルアップの通知が来た。しかし、すべてスルー。そんなステータスポイントの割り振りをする余裕なんてない。

「どんくさそうなムチムチ女だと思ったら、予想外に強いギャ!」

 背後から、ゴブリンに斬られそうになった。

 わたしはバク転し、剣を持ったゴブリンの背後に回り込む。背中から剣を突き刺して、魔物を打倒した。

 前転をやっても、わたしはコケちゃうのに。

「ウギャー!」

 魔物が武器を落とし、灰になっていく。

『集団で襲ってくるヤツらの戦略、歩幅、間合いの取り方もちゃんと学ぶんだ。まともな戦闘経験がなければ、錬金でいい魔剣も作れないぞ』

「わかったよ!」

 レベッカちゃんの指導は、スパルタ気味だ。しかし、的確である。

 わざと攻撃を受け止めて、ゴブリンの腕力を確かめた。

 ゴブリンの力や動きは、初心者の冒険者とあまり遜色がない。
 
 それでも、力がないわたしからすれば脅威だ。

 レベッカちゃんの身体強化魔法がかかっていなかったら、腕が折れていたかも。

 レベッカちゃんの力に頼らなくて済むように、ちゃんと鍛えていかないとね。

「あ、逃げていった」

 ゴブリンたちが、一目散に散っていく。

『今の集団じゃ勝てないと思って、援軍を呼んだんだろう』

「ヤバイんじゃない?」

『いや。今のうちに、どういったビルドにしていくか考えよう』

 また、戦うのか。

 しかしこの戦いは、魔剣を持った者の宿命だ。どうせ戦わないと、このダンジョンからは脱出できない。
 
 甘んじてその宿命、受けようじゃないか。

「はああああ」

 剣を置いて、一息つく。

 ゴブリンが、ポーションをドロップしていた。

 ポーションを、グイッと飲み干す。スタミナが、ある程度回復したのを感じた。

「さて、どうしようかねえ」

 わたしがどれだけ強くなろうと、戦闘力はレベッカちゃん頼みだ。自分は、頑丈な身体にしておくか。

 武器の強化にも興味があるが、まずは自分が強くならないと。

「体力が上がったからかな? アイテムボックスの容量が、上がったね」

 これで、結構な量の荷物を持てるように。

『しかしあんたは、錬金術師を目指すんだろ? 知恵にも多少振っておいたほうがいいか?』

「ダンジョンを出たら、考えるよ。しばらくは、学術書に頼ろうかな。死んだおばあちゃんの書籍もあるし」

 当分は、虎の子の知恵袋に頼るとする。

 わたしって、人に頼りっぱなしだな。早く、一人前にならないと。

 なので、スキルは戦闘系ではなく、錬成の方に。

『援軍のお出ましだよ』

「何度来たって、同じなんだから!」

 わたしが言うのも、なんだけど。

『自信を持ちな。レベル五程度なら、並のゴブリンともタメだ』

 レベッカちゃんの言うとおり、わたしでも対応できる。

 しかし、そうも言っていられない個体が。赤い肌を持つゴブリンが、剣と盾を装備して現れる。

「ゴブリンチーフだ」

 通常のゴブリンを束ねる、ボス敵の存在らしい。

「何が来ても、やってやる!」


 わたしは、剣を振り下ろした。

 しかし、鉄製の盾に阻まれる。

 こちらがいくら攻撃しても、ジャストで受け流された。うーん、動作がきめ細かい。

『完全にタンクタイプだな。防御一辺倒だ。自分は攻撃を受けて、手下に攻撃させるタイプのようだね』

 相手は攻撃に慣れていないのか、わたしに向けての攻撃しても、スカばかり。とはいえ、こちらの攻撃も止められる。

『初期スキルを使う。【エンチャント:火炎属性】!』

 レベッカちゃんが、炎を帯びる。

『キャルッ! そのまま、ゴブリンを斬ってみな』

「うん! やあ!」

 ゴブリンに向けて、突き攻撃を仕掛けた。

 またゴブリンチーフが、盾を構える。

 その盾ごと、レベッカちゃんはゴブリンを貫いた。

 盾だけを置いて、ゴブリンチーフが灰になっていく。

「ふううううう」

 どうにか、ゴブリンの群れを撃退し終えた。

 どこからともなく、チープな音源のファンファーレが。

[魔剣【レベッカ】のレベルが上がりました]

 レベッカちゃんのステータスを見ると、二に上がっていた。

『ゴブリンチーフを倒した程度で、二も上がれば上等か』

 新しいスキルがないか、見せてもらう。

「なにもないね」

『【身体強化】が、上がるくらいだな。アンタが強くなるなら、いい』

「もっとレベッカちゃんを強化したいかな、わたしは」

 わたしは自力で、レベルが【六】になっている。

 とりあえず、体力に振っておこうかな。本当は魔法系に振って、レベッカちゃんの加工に全力を注ぎたいけど。
 わたし自身が強くならないと、魔剣にも影響が出ちゃうもんね。

 他のアイテムを漁る。ほとんどが角や爪程度で、たいしたアイテムは落ちていない。

「剣と棍棒くらいだね」

 換金するにしても、銅貨数枚程度にしかならないだろう。

『こいつも吸おう。魔力の足しにする』

 魔剣は他の装備品を吸収することで、パワーを上げられるそうだ。

「すごいね。アイテムを吸収して、自分の力にするなんて」

『たいして能力アップにはならんが、ないよりはマシだ』

 少しでも、強度や切れ味を上げていく。

『さらに敵だ。左方向に、ホーンラビット』

 巻き貝型の角を生やしたウサギが、こちらに向かって飛んできた。

「おおぅい!」

 かわいい見た目に騙されそうになったわたしは、我に返る。

 ラビットはゴブリンの爪や骨を、ガリッといただいていた。魔力の残滓を、取り込んでいるのだろう。

 そうだ。ここはダンジョン。
 敵はわたしを、ただのエサとしか思っていない。
 ましてわたしは、強力な魔剣を所持している。

 レプリカと自称するが、レベッカちゃんは高い魔力を秘めているのだ。

 魔物にとって、魔剣はごちそうに違いなかった。

「レベッカちゃんは、食べさせないよ! 取れるもんなら、取ってみろ!」

 自主的に剣を構え、ラビットを迎え撃つ。

 再びラビットが、驚異的な瞬発力でこちらに突撃してきた。

「にょわう!」

 できるだけ自力で、剣を振るう。

 だが、あっさりとかわされた。

 剣を踏み台にされるなんて。

『アタシ様を足蹴にするなんてね。覚悟はできているみたいだ』

 再びレベッカちゃんの人格が、わたしの人格を上書きする。

 再度突撃してきたラビットを、力で叩き潰した。斬るのではなく、殴打でラビットを倒す。

『逆に食ってやろう』

 ラビットの角をゲットし、レベッカちゃんの素材に。

 お肉は、わたしの胃袋に収めることに。潰したから、柔らかいお肉になっているはず。

 ナイフを使ってウサギの血を抜き、肉をさばく。骨付きで焼くと、おいしいんだよね。

『器用だな』

「母型の家系が、料理人なんだよね」

 肉や野菜の下ごしらえは、任せてもらいましょ。

 といっても、焚き火できる場所がない。火起こしの薪もないよね。ダンジョンでは。

『こういうときこそ、アタシ様よぉ』

 レベッカちゃんの刀身の上に乗せて、ラビットの肉を焼く。

 剣をバーベキューの鉄板に使うなんて、わたしくらいじゃない?

 けれど、まずはベジファースト。カットとうもろこしをパクリと。コーンは野菜じゃねえ? うるさいんです。

 いよいよ、メインだ。ホーンラビットの命を、滴る脂とともに口へ放り込む。

「やっぱり味気ない」

 ガマンしていたけど、やっぱ塩コショウだけだと物足りない。味が微妙だな。
 田舎でおいしいものを食べてきたから、こういったサバイバルメシにも、ちょっとこだわりを持ちたいわけよ。レディーとしては。

 そんなときは、これ! 田舎のばあちゃん直伝のぉ、みかんジャム!

『なんだい、それは?』

「ウチの田舎で採れたみかんを、ジャムにしたんだよ。甘酸っぱくておいしい、だけじゃないよ」

 保存も効くし、調味料にもなる!

「これを、こんがり焼いたウサギ肉にチョボっと」

 で、さらにこれ! ドン!

『なんだい、それは?』 

ひしお!」

 ばあちゃんから漬け方を教わった、発酵調味料なり!

『味が、想像できないね』

「いわば、食べるおしょうゆだね」

『しょうゆ……ガルムか。把握したよ。ウチの開発者も、ガルムは使っていたからね』 

 オレンジのジャムと食べるおしょうゆを、お肉の上で混ぜて、付け焼きすれば……できあがりっと!

「おおう、ウサギさんが見違えるほど、うまくなった!」

 これは、ライスが欲しくなる味だなあ。携帯おこげせんべいは、道中のおやつで食べてしまった。長すぎるダンジョンが悪いんだいっ。

『アタシ様に、頼ろうとしなかったな?』

 二枚目の肉を焼きながら、レベッカちゃんが私に聞いてきた。

「死んだおばあちゃんからの、指導なんだ。『道具に頼るだけのヤツは、上達しない』って」

 いい道具を選ぶのは、その道のプロを目指すかも知れない。だが集めているだけの人は、コンプ癖があるだけ。腕前が上達したいわけじゃない、と。

「道具に頼らず創意工夫をして、ちょっとくらいは自分の頭で考えなさい、ってさ」

 最初は意味がわからなかったよ。全部教わればいいじゃん、ってね。

 でも、今はよくわかる。

 レベッカちゃんにばかり、頼り切ってちゃダメだよね。

「クラスに、とんでもない人がいてさ」

『どんなヤツだい?』

「卒業前に、学校に刺さっている聖剣を抜くってイベントがあるんだけど」

『とんでもない勇者探しだね?』

「だよね。でもさ、今年始めて抜けたんだよね。しかも、女子が」

 しかし、その聖剣を見事抜いた人物がいた。ウチのクラス代表だ。

「でも、ヤバかったのはその後なんだよね」

『ソイツが、どうしたんだい?』



「聖剣をへし折ったんだよ。『必要ない』って言って」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...