となりの多喜子さん ー女子中学生が、隣に住む癒やし系主婦に餌付けされるだけー

椎名 富比路

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最終話 女子中学生は、今日も癒し系主婦に餌付けされる。

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「多喜子さん、野菜の焼け具合って、これでいい?」

「いいよー」

 あれから数日、葉那は多喜子さんとさらに打ち解けるようになった。
 相変わらず、料理を教わっている。
 敬語もやめた。


 あの電話の直後、多喜子さんは一度実家に帰った。
 今度こそ、交際を許してもらえるように。

 天川家の方が興信所に手を回し、例の元婚約者を調査していたという。
 多喜子さんの夫も、捜査に協力していたそうだ。
 結果、その男はあくどい商売に手を染めていたと判明した。

 つまり、多喜子さんの両親は、すっかり騙されていたのである。

 天川家の説得により、多喜子さんの実家は詐欺に遭わずに済んだ。

 多喜子さんが会いに行くと、まるで人が変わったかのようになっていたという。

 結果、両家とも円満に話が進んだらしい。

「よかった。連れ戻されたらどうしようかと思った」


「ダンナさんって、すごいね。見直しちゃった」

 
 正直に言うと、葉那は天川を信用していなかった。
 見た目で判断してはいけないと、反省している。

 
「そうなんです。頼もしいの。だから一緒になったんだぁ」

 また、おノロケが始まった。


「じゃあ、撮影しようか」

「はーい」

 あの後、少し相談して、葉那の方が料理を作る側になった。
 多喜子さんの副業である、コラム記事の主旨も変わっている。
 
 名付けて「女子中学生が、近所のお姉さんに料理を教わる」という企画になった。

「いただきまーす。うん、まだ硬い!」
 野菜炒めを一口食べて、葉那は感想を述べる。

「あちゃー。残念。味はいいのにね」
 指導側の多喜子さんも、肩を落とす。
 

 葉那は毎回、なにかしらミスをやらかす。狙っていないのに。
 だが、リアリティのある失敗談がウケて、毎週のように記事執筆に追われている。

「多喜子さん、無理してない?」
 葉那は、野菜炒めをミシミシとかみしめた。

「ううん。料理を作っている方が気楽だよー」


「ごめんね。毎回微妙な味になって」
「大丈夫、味の調えはお姉さんに任せてー」
 
 さらに炒め直し、多喜子さんのレクチャーで味を立て直す。

「うん、おいしい!」

 多喜子さんの指導により、野菜炒めが生まれ変わった。シャキシャキ感がありつつ、程よく柔らかい。

「よかったねー、葉那ちゃん」

「はーあ、いつになったら多喜子さんのレベルになるんだろ?」
 ため息をつく葉那を、多喜子さんは後ろから抱きしめてきた。

「今は焦らなくていいよー。気がついたら、作れるようになるから」

 不思議だ。

 多喜子さんから言われると、本当にその通りになる気がする。

「次は何にしよっか?」
 
 
「じゃあさ、私、クマの手煮込み作ってあげよっか?」

「やめてよぉ。トラウマがまだ残ってるんだから」

「トラウマを乗り越えるという企画で」

「えーっ」
 
 プリプリと怒る多喜子さんもかわいい。

 やはり、多喜子さんは少し抜けている感じがいいと思う。

 変に気を張っている多喜子さんは、見ていて辛くなる。
 
 自分が多喜子さんの手を貸せたら。
 
(終)
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