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最終章 お隣さんから……

第45話 ご両親と対面

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 すっかり毒気の抜けた俺にも、メニューがきた。

 ここは高級中華料理屋で、三人は豪華な料理を囲んでいる。

 フカヒレなんて、はじめて食べた。回転寿司屋で食べるのより、柔らかいな。

「おお、キミが林田はやしだくんかいなーっ!」

 関西弁で、寿々花すずかさんのおじさんから話しかけられる。

 目の鋭さ以外は、ほんわかした男性だった。ひょうひょうと世界を相手にするような、凄みと恐ろしさを兼ね備えている。

 彼こそ、日本の不動産王なのだ。加苅かがりグループの、トップである。

「は、はい」

 寿々花さんは両親と仲が悪いと聞いていたので、俺はどんな堅物なのかと心配していた。

 その結果がこれである。

「会社が大変なことになったと、お聞きしましたが」
「前から、経営は怪しかってんよ」

 そう語る社長の隣で、寿々花さんも苦笑いを浮かべていた。

 案外、経営が悪化していたから、家族仲も悪くなっていたのかも。

「いやあ人間な、なんでもかんでも失うと、身軽になってええこっちゃ。潮時やってんやろうな」

 加苅社長はこうなることを見越して、社員の転職先をあっせんしていたらしい。それこそ、新入社員や掃除屋さんに至るまで。

「会社はどうなるんです?」
「イトコが継ぎます」

 寿々花さんには、四〇代の兄的存在がいるという。

「ワシも引退や。弟の息子に後を継がせて、外資とうまいことやってもらおうやって話しとってん」

 なんでも、外資との合併を提案したのがイトコさんだったとか。

 それだけやばい状態だったとは。

「今日は仲直りの日やねん。酒もやってってや」

 なんと、加苅社長にビールをお酌をしてもらった。

「あ、はい。おめでたいですね。いただきます」

 うまい。長旅でビールが体にしみる。昨日も飲んでないし。

「転職の話やけどな。あのー。キミんとこの会社に、最近女の子来たやろ? いっかつい感じの。パンツスーツのバリキャリや」

 そういえば。

寺山てらやまさんですか?」
「せやっ。せやせや。寺山 佳代子かよこちゃん! めっちゃええ仕事しよるやろ?」
「はい。めっちゃ助かりました」

 俺は、加苅社長の言葉が写ってしまった。

 彼女がプロジェクトリーダーをしてくれたおかげで、ジャンガリアンビバレッジは夏休暇を手に入れたと言っていい。

「なんであんな人が、リストラされたんだろうと思っていました」
「せやろ?」

 厳密に言うと、ッドハンティングだとか。

「あの子は加苅におったら使い倒される。そない思ってな、ジャンガリアンさんにお世話してもらおう思ってん。本人は『え、リストラですか?』ってぼやいとったけど」

 あの手腕は、加苅グループで培われたのか。

「その代わり、娘の調査も頼んでてん。あんた、娘と旅行行っとったんやて?」
「え? どうしてそれを?」
「寺山ちゃんから聞いたで。隣に部屋取らせて、見張ってもろうてた」

 なんと周到な。

「てっきり寺山さんは、カレシと過ごしていたもんだと」
「過ごしとったよ。そいつもあんたと娘の仲を調査しとったスパイや。あんたんとこのアパートに税理士おるやろ? あいつや」

 そんな身近にいたのか。

 あの人は、見た目こそ地味な感じではある。しかし、寺山さんとのデートでは別人のようになるという。

「これが証拠写真な」

 加苅社長が、写真を見せてくる。

 パラソルでかき氷を食っている俺たちをバックに、海の家でカップルしている写真だ。

 海の家で地味に過ごしていたときに、隠し撮りしたらしい。 

「いやあ、ほんまは娘にくっついてくる虫をよけさすつもりで忍び込ませてたんや」

 下着ドロ事件が発生したときに、まっさきに動くつもりだったそうだ。

「それがあんたの活躍したって聞いてな。俄然興味が湧いてきたんや」

 で、ずっと観察されていたという。

 俺たちってそんな前からマークされていたのか。

 つまり寿々花さんは、いつでも連れ戻される可能性はあったのだ。
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