45 / 47
最終章 お隣さんから……
第45話 ご両親と対面
しおりを挟む
すっかり毒気の抜けた俺にも、メニューがきた。
ここは高級中華料理屋で、三人は豪華な料理を囲んでいる。
フカヒレなんて、はじめて食べた。回転寿司屋で食べるのより、柔らかいな。
「おお、キミが林田くんかいなーっ!」
関西弁で、寿々花さんのおじさんから話しかけられる。
目の鋭さ以外は、ほんわかした男性だった。ひょうひょうと世界を相手にするような、凄みと恐ろしさを兼ね備えている。
彼こそ、日本の不動産王なのだ。加苅グループの、トップである。
「は、はい」
寿々花さんは両親と仲が悪いと聞いていたので、俺はどんな堅物なのかと心配していた。
その結果がこれである。
「会社が大変なことになったと、お聞きしましたが」
「前から、経営は怪しかってんよ」
そう語る社長の隣で、寿々花さんも苦笑いを浮かべていた。
案外、経営が悪化していたから、家族仲も悪くなっていたのかも。
「いやあ人間な、なんでもかんでも失うと、身軽になってええこっちゃ。潮時やってんやろうな」
加苅社長はこうなることを見越して、社員の転職先をあっせんしていたらしい。それこそ、新入社員や掃除屋さんに至るまで。
「会社はどうなるんです?」
「イトコが継ぎます」
寿々花さんには、四〇代の兄的存在がいるという。
「ワシも引退や。弟の息子に後を継がせて、外資とうまいことやってもらおうやって話しとってん」
なんでも、外資との合併を提案したのがイトコさんだったとか。
それだけやばい状態だったとは。
「今日は仲直りの日やねん。酒もやってってや」
なんと、加苅社長にビールをお酌をしてもらった。
「あ、はい。おめでたいですね。いただきます」
うまい。長旅でビールが体にしみる。昨日も飲んでないし。
「転職の話やけどな。あのー。キミんとこの会社に、最近女の子来たやろ? いっかつい感じの。パンツスーツのバリキャリや」
そういえば。
「寺山さんですか?」
「せやっ。せやせや。寺山 佳代子ちゃん! めっちゃええ仕事しよるやろ?」
「はい。めっちゃ助かりました」
俺は、加苅社長の言葉が写ってしまった。
彼女がプロジェクトリーダーをしてくれたおかげで、ジャンガリアンビバレッジは夏休暇を手に入れたと言っていい。
「なんであんな人が、リストラされたんだろうと思っていました」
「せやろ?」
厳密に言うと、ッドハンティングだとか。
「あの子は加苅におったら使い倒される。そない思ってな、ジャンガリアンさんにお世話してもらおう思ってん。本人は『え、リストラですか?』ってぼやいとったけど」
あの手腕は、加苅グループで培われたのか。
「その代わり、娘の調査も頼んでてん。あんた、娘と旅行行っとったんやて?」
「え? どうしてそれを?」
「寺山ちゃんから聞いたで。隣に部屋取らせて、見張ってもろうてた」
なんと周到な。
「てっきり寺山さんは、カレシと過ごしていたもんだと」
「過ごしとったよ。そいつもあんたと娘の仲を調査しとったスパイや。あんたんとこのアパートに税理士おるやろ? あいつや」
そんな身近にいたのか。
あの人は、見た目こそ地味な感じではある。しかし、寺山さんとのデートでは別人のようになるという。
「これが証拠写真な」
加苅社長が、写真を見せてくる。
パラソルでかき氷を食っている俺たちをバックに、海の家でカップルしている写真だ。
海の家で地味に過ごしていたときに、隠し撮りしたらしい。
「いやあ、ほんまは娘にくっついてくる虫をよけさすつもりで忍び込ませてたんや」
下着ドロ事件が発生したときに、まっさきに動くつもりだったそうだ。
「それがあんたの活躍したって聞いてな。俄然興味が湧いてきたんや」
で、ずっと観察されていたという。
俺たちってそんな前からマークされていたのか。
つまり寿々花さんは、いつでも連れ戻される可能性はあったのだ。
ここは高級中華料理屋で、三人は豪華な料理を囲んでいる。
フカヒレなんて、はじめて食べた。回転寿司屋で食べるのより、柔らかいな。
「おお、キミが林田くんかいなーっ!」
関西弁で、寿々花さんのおじさんから話しかけられる。
目の鋭さ以外は、ほんわかした男性だった。ひょうひょうと世界を相手にするような、凄みと恐ろしさを兼ね備えている。
彼こそ、日本の不動産王なのだ。加苅グループの、トップである。
「は、はい」
寿々花さんは両親と仲が悪いと聞いていたので、俺はどんな堅物なのかと心配していた。
その結果がこれである。
「会社が大変なことになったと、お聞きしましたが」
「前から、経営は怪しかってんよ」
そう語る社長の隣で、寿々花さんも苦笑いを浮かべていた。
案外、経営が悪化していたから、家族仲も悪くなっていたのかも。
「いやあ人間な、なんでもかんでも失うと、身軽になってええこっちゃ。潮時やってんやろうな」
加苅社長はこうなることを見越して、社員の転職先をあっせんしていたらしい。それこそ、新入社員や掃除屋さんに至るまで。
「会社はどうなるんです?」
「イトコが継ぎます」
寿々花さんには、四〇代の兄的存在がいるという。
「ワシも引退や。弟の息子に後を継がせて、外資とうまいことやってもらおうやって話しとってん」
なんでも、外資との合併を提案したのがイトコさんだったとか。
それだけやばい状態だったとは。
「今日は仲直りの日やねん。酒もやってってや」
なんと、加苅社長にビールをお酌をしてもらった。
「あ、はい。おめでたいですね。いただきます」
うまい。長旅でビールが体にしみる。昨日も飲んでないし。
「転職の話やけどな。あのー。キミんとこの会社に、最近女の子来たやろ? いっかつい感じの。パンツスーツのバリキャリや」
そういえば。
「寺山さんですか?」
「せやっ。せやせや。寺山 佳代子ちゃん! めっちゃええ仕事しよるやろ?」
「はい。めっちゃ助かりました」
俺は、加苅社長の言葉が写ってしまった。
彼女がプロジェクトリーダーをしてくれたおかげで、ジャンガリアンビバレッジは夏休暇を手に入れたと言っていい。
「なんであんな人が、リストラされたんだろうと思っていました」
「せやろ?」
厳密に言うと、ッドハンティングだとか。
「あの子は加苅におったら使い倒される。そない思ってな、ジャンガリアンさんにお世話してもらおう思ってん。本人は『え、リストラですか?』ってぼやいとったけど」
あの手腕は、加苅グループで培われたのか。
「その代わり、娘の調査も頼んでてん。あんた、娘と旅行行っとったんやて?」
「え? どうしてそれを?」
「寺山ちゃんから聞いたで。隣に部屋取らせて、見張ってもろうてた」
なんと周到な。
「てっきり寺山さんは、カレシと過ごしていたもんだと」
「過ごしとったよ。そいつもあんたと娘の仲を調査しとったスパイや。あんたんとこのアパートに税理士おるやろ? あいつや」
そんな身近にいたのか。
あの人は、見た目こそ地味な感じではある。しかし、寺山さんとのデートでは別人のようになるという。
「これが証拠写真な」
加苅社長が、写真を見せてくる。
パラソルでかき氷を食っている俺たちをバックに、海の家でカップルしている写真だ。
海の家で地味に過ごしていたときに、隠し撮りしたらしい。
「いやあ、ほんまは娘にくっついてくる虫をよけさすつもりで忍び込ませてたんや」
下着ドロ事件が発生したときに、まっさきに動くつもりだったそうだ。
「それがあんたの活躍したって聞いてな。俄然興味が湧いてきたんや」
で、ずっと観察されていたという。
俺たちってそんな前からマークされていたのか。
つまり寿々花さんは、いつでも連れ戻される可能性はあったのだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
なぜか女体化してしまった旧友が、俺に助けを求めてやまない
ニッチ
恋愛
○らすじ:漫画家志望でうだつの上がらない旧友が、社会人の主人公と飲んで帰ったあくる日、ある出来事をきっかけとして、身体が突然――。 解説:エロは後半がメインです(しかもソフト)。寝取りとか寝取られとかは一切、ナイです。山なし海なし堕ちなしの世界ではありますが、よければご覧くださいませ。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる