神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
269 / 285
マシマシは、罪の呪文

呪文カフェに人だかり

しおりを挟む
 翌日、オカシオ伯爵のカフェが、とんでもないことに。人だかりができています。


「トマトケチャップのおパスタ! オニオンマシマシで!」

「わたしもそのおパスタよ! こちらはチーズマシマシ、カラメで!」

 なにやら、フラッペだかなんだかではなく、珍妙な呪文が増えていました。ラーメン屋じゃないんですからね。

「いやあ。クリスちゃん、大変だよぉ」

「どうなさったので?」

 店の前で列を整理しているオカシオ伯爵に、事情を聞きました。

「いやね、トマトパスタをうまそうに食べているお嬢様がいたっていうので、流行っちゃったんだよ」

 まあ、そんなご婦人が。

「さぞ、おいしそうに召し上がっていたんですね?」

「そりゃあもう、ズルズル! って。とんでもない勢いで食べていたらしいよ」

 ウル王女が、咳払いをなさいます。

「わたくし、そのような方にお一人だけ、心当たりがございますのですけれど」

 偶然ですね。わたしもですよ。

「とにかく、呪文も覚えてきましたことですし、まいりましょうよ。シスタークリス」

「そうですね」

 お店のカウンターで、ウル王女が先に注文をします。

「キャラメル・フラペチーノ・ウィズ・チョコレートソースを、ショートで。あと、トマトパスタをいただきますわ」

「かしこまりました。お連れの方は?」

「同じものを」

 これでいいんですよ。「同じものを」は、世界共通の呪文です。

「パスタはお時間がかかりますので、少々お待ちください」

「いつでも、お待ちしていましてよ」

 席を確保し、悠々と品が来るのを待つとしますか。

「それにしても」

 みなさん、やたら「ズゾゾ!」と音を立てていらっしゃいますねぇ。

「やはりパスタは、音を立てないとおいしくありませんよ」

「そう思ってらっしゃるのは、あなただけでしてよ」

 話をしていると、ようやくコーヒーとパスタが来ました。

 さっそくフラペチーノを……。

 ほほーう。罪深うまいっ。

「フラペチーノって、こういう味がするんですね」

 もっとシャキシャキしたものを想像していましたが、なるほど。ちゃんとドリンクです。ノドで溶けちゃうからでしょう。ふむふむ。
 このソースがほろ苦くて、コーヒーの味を邪魔しません。コーヒーにチョコって思っていましたが、このアクセントは素晴らしい。

 これは、パスタもはかどるというもの。

 この期に及んで、ウル王女がスプーンとフォークでお上品に食べようとしていました。

「ウル王女、ここはTPOをわきまえましょう」

「ですわね。あなたを見習って、豪快にまいりましょう」

 うんっ! 罪深うまい! ズゾゾ!

(マシマシ編 完) 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...