神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
249 / 285
秋編 ネクロマンサーと、罪なハロウィン

懐かしの、罪の味

しおりを挟む
 わたしは、路地裏にある大衆食堂へ、ジターニャさんたちを案内しました。


「ああっ。ここは!」

「ゴロンさんとここへ入るのは、懐かしいですね」

 そうです。わたしとゴロンさんを結びつけた、塩焼きそばの美味しいお店です。

「こんな店を知っていたとはねえ」

 店から漂う香りのせいか、ソナエさんもお腹がなりました。さっきまであれだけピザを食べていたのに、です。

「ちょっと、これとアンデッドとどういう関係があるのよ?」

「入ればわかります」

 ガラガラと、引き戸を開けました。

「いらっしゃいませ。ああ、シスター」

「その節はどうも」

 わたしは、大将に一礼をします。

「アンデッド!? 店長が、アンデッドだわ!」

 はい。お店を切り盛りしているのは、アンデッドなのです。

「そうおっしゃるあなたは、ヤムキン家の方で?」

「あたしたちを知っているの?」

「胸のペンダントの由来を知らないアンデッドなんて、いませんぜ。お嬢さんは、名のしれたネクロマンサーの方でしょう?」

 そうでした。この人はかつて、ネクロマンサーによって雑用をさせられていたんでしたね。ネクロマンサーに詳しいわけです。

「あ、コイツはウチの雇われネクロマンサーだった男だわ」

 レジ打ちのガイコツの顔を見ただけで、ジターニャさんは素性がわかってしまいました。さすがですね。

「ではあなた、ヤムキン家にはあまりいい印象を持っていないでしょうね」

「いえいえ。お目にかかれて光栄です。ささ、おかけになってください。何か作りましょう」

 わたしたちは、テーブル席に案内されました。

 ひとまず、塩焼きそばとチャーハンを大皿で。

 ああ、この味です! 罪深うまい!

 懐かしい上に、まったく味が変わっていません。これです。これを食べに来たんですよ、わたしは。

 米はパラッパラなのに、具材がしっとりしていて味が染みています。

 塩焼きそばの方も、野菜のシャキシャキと麺のモチモチのダブルパンチで。

「うん。うん」

 ゴロンさんは、黙々と食べています。会話なんてできないくらい、おいしいんですよ。

「最っ高じゃねえか!」

「実にお見事ですわ!」

 他の二人も、安心して食べ始めました。

「お前さんも食えって」

「では、いただきます」

 みんながおいしそうに食べている姿に、ガマンできなくなったのでしょう。ジターニャさんが、チャーハンをレンゲですくいます。

 よかった。ちゃんと食べてくれましたね。

「うーん! おいっしいわ! なんなの? これが、アンデッドの出す料理なの?」

 口を抑えながら、ジターニャさんはモグモグとチャーハンを咀嚼します。気がつけば、塩焼きそばもモリモリとすすりました。お腹が空いていたんでしょうね。ガリガリでしたもの。

「いやあ、すばらしい料理だったわ。でもシスター、ここにはゴハンを食べに来たわけじゃないでしょ?」

「はい。あなたに、このお店のスポンサーになっていただこうと」

「え?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...