神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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BBQは、罪の味 ~王女邸宅の庭で、バーベキュー~

BBQは罪の味

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 串に刺さったお肉と野菜が、いい感じに焼けていました。BBQは、お肉と野菜の同時摂取が醍醐味ですよね。

「うわああ。いただきます」

 串に刺さっている順に、食べていきます。まずは先端で特攻隊長、牛のモモですよ。

「おおおお、罪深うまい!」

 さっきまでぶつ切りキャベツばかり食べていましたから、こういった赤身肉が染み込んできます。
 脂分がそんなにありませんが、この部位に求められるのはむしろ弾力。ミシミシと噛み締めていくたびに、幸せになっていきます。「ああー肉を食べているなあ」と、アゴが大喜びしていますよ。

 ここで、ピーマンでおいかけます。おお、ジューシーッ! ちょうどいいカンジです。これ以上焼いていたら、水分が抜けているところでしたね。罪深うまい。

 中堅に控えいるのは、海鮮の王者ホタテです。はい、間違いなく罪深うまい。このホタテがピーマンの水分が抜けるのを防いでくれていたのですね。あなたは、立役者です。

 間にまたモモが来て、今度は玉ねぎをもしゃもしゃ。あっは。笑いが出るほど罪深うまい。野菜なのに甘いって、これは反則でしょう。

 ソーセージ、こちらも罪深うまい。かんだ瞬間、パキって鳴るのが、罪の音ですよね。

 最後はトマトです。このトマトがジュワってなっているのがたまりません。罪深うまい。

 こちらの串は、特大ネギマです。鳥のモモと、長ネギですか。

「いただきます」

 最初は別々に。

「あっふあっふ、罪深うまい!」

 鶏モモのジュージーさが、ナイスです。ネギの焼き加減も、水分を逃していません。

 同時に食べると、鶏肉とネギの水分が合わさって無敵に。

 子どもたちの分の網は、シスター・エンシェントが担当していました。

「いいですか。エルフは肉を食べないというのは、迷信です。私はハイエルフですが、ちゃんとお肉も食べます。すべて等しく命です」

 いかに野菜を食べることが大事かを、エンシェントは説いています。焼けた串を、子どもたちのお皿に乗せながら。お奉行様ではない辺りが、見事ですね。

「よく『お米や麦、野菜はお肉ではないから、罪悪感が薄れる』と聞きますが、間違った思考です。野菜にだって意思はございますから。知っていますか? お野菜は音楽を聞かせると味が変わるそうです」

 園児たちが「ほえー」と感心しました。

 このトマトは、どんな音楽を聴いてきたのでしょう。うん、罪深うまい。

「命をいただく行為としては、同じです。魚や貝類だってそうです」

 まったくですね。キャベツがあれば、わたしはお肉を無限に食べられます。ああ、罪深うまい。

「とはいえ、そこまで過剰に意識しては、食べたいものも食べられないでしょう。『この食材たちは、自分の血肉になってくれるのだ』という気持ちだけで、十分かと思われます。恵みに感謝し、よくかんで食べましょう」

 子どもたちも、真剣に聞いています。それだけ、エンシェントの言葉は重みがありました。


「くあー。どうだ、楽しんでるか?」

 ソナエさんが、赤い顔でやってきました。お酒とBBQの串で、すっかりできあがっています。

「あなたね、串刺しに夢中になって、ハシオさんのこと放っていたじゃないですか」
「つっても、あたしはハシオってのと面識ねえんだよ。あいさつするまで、どいつかわからなかった」

 そういえば、ウル王女のおつきであるカロリーネさんに、頭を下げていましたね。人違いとわかって、ソナエさんは引っ込んじゃったんですよね。 

「王女もあてになりませんし」
「まあ、無理だろうな」
 少し真顔になって、ソナエさんが言います。
「といいますと?」

 ソナエさんは、顔をクイッとするだけで、向こう側を示しました。

 ウル王女からずっと遠い場所に、シスター・エマが子どもたちを相手にしています。

 その隣には……。

「……あっ!」

 わたしは、ようやく思い出します。

 うかつでした。

 ウル王女と、シスター・フレンは、距離を取っていたことを忘れていたなんて。
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