神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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BBQは、罪の味 ~王女邸宅の庭で、バーベキュー~

ホルモン焼きは、罪の味

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 焼き肉が、食べたいです。

 冬の間は、いやでも節制となりましたから。

 そういえば、ウル王女との約束がありましたね。いつか、ホルモンを食べようと。

 というわけで、前に入った焼肉屋さんにお呼ばれしました。

「ああ、おいしいですわ!」

 ウル王女が、シマチョウを焼いてパクついています。

「たしか、皮の部分が八割、脂の部分が二割でしたわね」
「はい。ちょうどいい焼き加減だと思います」

 実に、罪深うまい。コリッコリしてて舌触りはトロトロという、なんとも言えない不思議な食感です。噛めば噛むほど、脂が染み出てきました。

 トロトロの脂をライスにワンバンさせてからの……追いライス! ジューシーなタレの付いたシマチョウを、白いライスに乗せて一気にかきこみます。そこからの、また追いライスですよ。

 わたしは、これをやりに来たのです。もう、ライスが進んでしょうがない。

 白米とお肉が、口の中で融合してスパークしています。

「ハツも焼いてしまいますよ」
「どうぞどうぞ」

 レバーとハツを、王女が網に敷いていきました。さっきのシマチョウとは違った、独特の臭みがたまりません。シマチョウはモワッとした煙が目に染みました。ハツは、苦み走った煙が立ち込めます。これが実にいい。罪の香りがほんのり漂います。

 味も、罪深うまい。濃厚なシマチョウと違ってタンパクですが、それがいいのです。いぶし銀といいましょうか。これはこれで、ライスに合いますね。食感と味わいが、米と合わさって幸せを運んできました。

 牛の内臓を食べようとした人は、この罪深うまさを本能的に知っていたのでしょうか。肉がおいしいから、内臓だっておいしいに違いない。そう、勘を働かせたのでしょうか。

 どちらにしても、命を隅々までいただくという精神は、素敵ですね。決して、意地汚いなんて思いません。

「デザートを食べるお腹も、残しておきましょう」
「ですわね。以前と同じ二の轍は、踏みませんわ」

 我々は以前焼肉屋で、やらかしました。デザートが入らないほど、食べてしまうとは。

「でも、ビビンパは食べましょう」
「食べましょう食べましょう」

 わたしはビビンパ、ウル王女はビビン麺を頼みます。

「鉄板ですね。罪深《うま》い」

 もう予想通りの味ですが、これがいいのですよ。
 酸味のあるライスで、ボリューミーなのに口の中をリセットしてくれます。
 よって、また肉が進むのですよ。

「わたくしの麺と、シェアしましょう」
「はいどうぞ」

 王女と器を交換して、ビビン麺をひとくちいただきます。

「ううおおお。罪深うまい!」

 ビビン麺とは、面妖なネーミングだと思っていました。ビビンパのライスを、ご飯にしただけだろうと。ところがどっこい、この味わいですよ。参りました。いやあ、またデザートを食べ損ねるところでしたよ。

 口直しのシャーベットを頼んで、本日の宴は終了しました。いやあ、肉を食べるって、幸せになるんですね。

「でも、本当によろしいので?」

 紅茶味のシャーベットを口にしながら、ウル王女が切り出します。

「なにがです?」
「お金ですわ! あなたがごちそうするなんて、天変地異が起きるのではないかと」

 わたしって、どれだけ意地汚い女と思われているのですかね?

「なにか悩み事でも?」
「はあ」

 やはりわかってしまうのですね。持つべきものは、ツーカーな友人ですよ。

「たしかに、ホルモンを食べようと誘ったのはわたくしですわ。予約したのもわたくし。でも、お金の心配はいらないと言われたとき、なにか妙な予感がしましたわ」
「特に大した用事は、ありませんよ」
「大した用事がない人が、人を焼肉に呼んだりしません」
「焼肉は、わたしが食べたかっただけで」

 ウル王女が、ズッコケました。

「で、ご相談とは?」
「実は」

 わたしは、王女に耳打ちします。


「ハシオさんとモーリッツさんがうまくいくデートコースを、模索中でして」
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