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罪人に、罪の味を ~刑務所内で、お菓子とコーラ~

シスター・クリス 刑務所慰問

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 久々に、重めの依頼が来ました。

 刑務所を慰問していただきたい、とのことで。しかも、男性の刑務所ですよ。

 このような大きい仕事は、シスターエンシェントなどの大物が担当します。トラブルを自力で抑え込める人がふさわしいですからね。

 しかし、今回はわたしが担当することになりました。
 別に、地位が高くなったわけではないのですが?

「ごきげんよう、シスター・クリス」
「ああ。あなたの護衛ですか」

 どうも慰問の主役は、ウル王女だったようですね。

「映画の楽しさを知ってもらい、二度と罪を犯さない人材を育てることですわ」

 娯楽を覚えたら、犯罪へ向く意識が薄れると考えているのでしょう。

「犯罪そのものを楽しい」と思っている人間が相手なら、手におえません。が、やむをえず手を染めた人には効果的かも知れませんね。

 広場に集まっていたのは、ゴロツキという言葉が似合いそうな、いかにもな集団ばかりです。

 わたしたちを見るなり、「ヒューッ!」と口笛を鳴らしました。

「気をつけ!」

 刑務官さんが、ホイッスルで囚人たちを整列させます。

「本日、貴様らの慰問にいらしてくださった、ウルリーカ王女殿下と、護衛にしてシスターの、クレイマー様である。全員、礼!」

 囚人たち一同が、「よろしくおねがいします!」と頭を下げました。

「ウルリーカ殿下は、貴様らのために映画を一本用意してくださった! 心して鑑賞するように! 王女殿下、お心遣い感謝いたします」
「いいえ。映画によって人々に活力と癒やしを与え、犯罪の愚かさに気づいていただくことこそ、我々貴族の義務と思っております」

 かなりありがたい言葉です。

 しかし、囚人たちは退屈そうですね。

「そんなことよりさぁ」

 チャラ男が、わたしのすぐ隣に寄ってきました。

「ボクちゃんと遊ぼうよぉ。お嬢ちゃん?」
「こらキサマ! おとなしくせんか!」

 刑務官が怒鳴ります。

 ですが、チャラい囚人は意に介しません。

 さすがの刑務官も、彼を止められずにいます。

 かなりの手練なのでしょう。

「黙ってろや。これからボクちゃんはこのコといいことするんだからさぁ」

 そうやって、この男性は色んな女性を弄んできたのでしょう。ルックスだけは、一人前です。

 わたしも、刑務官を手で制しました。

「ほらあ、このコだってやる気満々じゃねえかよぉ! ささ子猫ちゃん? ボクちゃんと一緒に遊――」
「ホアタ!」

 数秒後、彼のチャラい顔は地面に埋まりました。首から先が、ケイレンを起こしています。

「どなたか、この男を片付けてくださいませんか?」

 刑務官に向けて、わたしは冷たく言い放ちました。

 白目をむいた男性が、刑務官さんの手によって掘り起こされます。

「や、やろうふざけやがって!」

 囚人たちが、声を荒らげました。やる気ですね。

「テメエ、ここがどういう場所かわかっているのか!?」
「存じ上げております。ここにいる方たちは、刑務官さんですら手を焼くという問題児ばかりだと聞きました。それで伺ったのですが、大したことはありませんね」

 一時期は、エンシェントの恐ろしさに沈静化していたと聞きました。しかし、エンシェントという猛毒が過ぎ去ったと思い込み、再度増長しているのでしょう。

「エンシェントがわたしを呼んだ理由が、ようやくわかりました。この程度のザコの集まりは、わたしひとりで十分ですね」
「テメエ、俺たちを舐めやがって! やろうども、やっちまえ!」

 怒り狂った囚人が、一斉に襲いかかってきました。よせばいいのに。

「よさねえか!」

 しかし、たった一人の囚人によって、暴徒と化した囚人の群れが収まりました。

 すさまじい、カリスマです。

「ああ、あなたは」

 暴動を収めたのは、かつて海鮮丼のお店を襲い、わたしが倒した海賊のキャプテンでした。
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