神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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年越しソバは、罪の味 ~年末年始 特別編~

お雑煮は、罪の味

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「おモチ撒きとは?」

 ヤグラの上に登って、巫女さんたちがモチを観衆に向けて投げるのだとか。

「さっきついた作ったおモチを撒くのですか?」
「違う違う。あんたらのは、神様に食べもらう」

 わたしたちがついたモチを、巫女さんたちが一部だけ神様に献上しました。

 残りはギャラリーのため、長机に乗せて切り分けます。アンコやきな粉をまぶして、ちびっこたちに分けられています。

 投げる用のおモチは、ヤグラの上にあるんだとか。

「あんたらがモチ撒きをしている間に、雑煮を作っておくからよ。楽しみにしててくれ」

 わかりました。お雑煮のためにがんばりましょう。

 ヤグラのてっぺんに到達しました。箱詰めにされたおモチがありますね。手で拾い上げます。

「おや? このおモチ、えらく硬いですね?」

 さっき杵でついたモチは、柔らかかったのに。

「長期保存したからな。それに、中身に番号札が入っているんだ。後は、見ていたらわかるよ。じゃあ行くぞ」

 ソナエさんが、モチを巻き始めました。

 ヤグラの下に、人が集まってきます。すごい数ですね。

 まず、わたしたちが札を入れたモチをまきます。拾った人が、番号を巫女さんに教えますと、景品がもらえるそうです。

 ああ、欲深いですねぇ。こんな小さなモチを求めて、すごい人の群れです。人の欲望は、計り知れません。わたしも人のことは言えませんが。

 ここまで足元に人が集まってくると、お砂糖に群がるアリのようですね。実に欲深い。

「モチ撒きが終わりましたわ」

 おモチがなくなると、みんなさっとヤグラから離れていきました。現金な人たちですねぇ。

 しかも景品って、バケツとかジョウロなどの日用品じゃないですか。

「あんなものを欲しがるなんて」
「でも王女、見てください」

 子どもたちは、自分たちが使わないアイテムをホームレスさんにあげています。ホームレスさんも感謝し、子どもたちにおこづかいをあげました。アメも買えないほどの金額ですが、子どもたちは喜んでいますね。

 もらったアイテムはホームレスさんが金属として、よそへ売るのでしょう。

 こうして、お金が循環しているのかも知れませんね。

「じゃあ、雑煮にするか」

 雑煮を作っている、巫女さんたちのもとへ向かいました。

 巫女さんたちが、大鍋をかき混ぜています。大きいお鍋ですね。ホームレスさんに与える分の、三倍はあるでしょうか。かき回している道具も、温泉の湯もみをする板ですよ。

 白みそが入って、できあがりました。

「いくつほしい?」

 ソナエさんが、雑煮に入れてほしいモチの量を聞いてきました。

「三つくださいな」
「わたしは、五つほど」

 欲深いわたしたちに、ソナエさんは呆れています。

 たっぷり動いたのですから、いいですよね?

「これがお雑煮ですか。いただきましょう」

 白いおみそ汁の中に、丸く切った人参と大根、おモチが入っています。突きたてプヨプヨで、おいしそうなおモチですね。

「ふーふー。はふはふ……ん!」

……罪深うまい。

 伸びます。めちゃくちゃ伸びますよ。
 ピザのチーズとは、違った伸びですね。
 もっと弾力のある伸びです。
 組織を砕いてできた粘り気を、さらに熱して溶かすと。
 そうすると、こんな食感になるのでしょうね。

おいしいですわね。噛むといい具合に跳ね返してきて」
「口の中でさらにモチつきが始まります」

 ぺったん、ぺったんと、モチつきを繰り返します。
 噛みしめていて、全然飽きませんよ。

 おみそ汁も、優しい味ですね。
 ミソとおダシだけなのに、ここまで味わい深いとは。
 根野菜が口の中でほころび、おモチに包まれていきます。

 お雑煮とは、いったいどれだけの食感を味わえるというのでしょう?

「ごちそうさまでした。ありがとうございます、ソナエさん」
「まだ、『ぜんざい』が残ってるぜ」
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