神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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年越しソバは、罪の味 ~年末年始 特別編~

巫女クリス

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 新年を迎えました。

「いらっしゃいませー。縁結びのチャームは、こちらのピンク色の絵馬です」

 わたしたちは巫女服に着替えさせられ、神社をお手伝いしています。
 髪も後ろに結んで、本格的ですよー。

「おみくじですか? 銅貨一枚、お収めくださいな」

 ウル王女がおみくじを売り、わたしはお守りなどを売っています。

「合格祈願のチャームは、こちらの黄色い絵馬ですね。銅貨五枚をお収めくださいませ」

 神社には、大勢の参拝者さんたちが集まっていました。

 焚き火にも、多数のホームレスさんが集まって、お酒を飲んでいます。

「すいませんソナエさん、マガタマってなんですか?」

 カウンターの奥にいるソナエさんに、わたしは声をかけました。
 厄除け祈願の準備をしています。

「ああ、一番左端に飾ってる、グニャってなった石だよ」
「これのことですか?」
「合ってるよ」
「ありがとうございます。半銀貨一枚お収めください」

 やけにアバウトな指示ですが、一発でわかりました。

「ああ、マガタマ、おいしそうでした」

 わたしの目の前には、りんごアメの露店が。

 夏祭りの倍はあるでしょうか。露店がズラリと並んでいました。どこからも、おいしそうな香りが漂ってきますね。

「クリスさん、よだれが」
「おっと」

 わたしは慌てて、袖で口を拭きます。
 ついつい、集中力が落ちてしまいました。

「しょうがありませんわね。もうお昼ですから、回りましょう」
「そうですね。お店を巡っていきましょうか」

 交代の時間となって、わたしたちはお昼をいただきます。

 小さい神社ですから、あっという間に回れました。

 買ったのは、お好み焼きと焼き肉の串です。
 お好み焼きを何十枚も焼く早業に、わたしは思わず見とれてしまいそうになりました。
 腕を引っ張られなかったら、このまま石像になっていたでしょう。

 ウル王女は、焼きそばやソーセージ、からあげを買いました。

 屋台内にあるイートインで、お昼をいただきます。

「うわあ、巫女服が汚れてしまいませんか?」

 よりにもよって、ソース系ばかり買ってしまいました。

「店主さんから、紙のエプロンをいただきましたわ」

 中央を丸く切ったポンチョタイプの紙に、頭を通します。
 これで、ソースが巫女服にかかる心配はありません。
 お貴族様もいらしていますから、そういう対策もなされているようです。

 では、心置きなくいただきましょうか。

 焼き肉の串が、強烈に罪深うまい。
 辛めのタレが、実に食欲をそそります。
 ライスがないのが口惜しいですが、炭水化物はお好み焼きで取りましょう。

 これも罪深い。こちらのソースは、甘いです。
 あれだけ熱せられていたのに、キャベツのシャキシャキ食感が残っていますね。すばらしいです。

「やはり、間違いなくおいしいですわ」

 ソーセージにたっぷりと辛子をきかせて、ウル王女も満足げですね。

 デザートは、フルーツ味のアメをいただきました。
 フルーツに水アメをコーティングして、冷やし固めたものです。

 これは、なんとも罪深い。

 酸味の強い果汁と甘ったるい水アメが口の中で混ざり合う、このバランス感覚が見事ですね。
 噛んだときの歯ざわりもナイスです。

「でも、食べすぎないようにしないと。あなたは、もう約束事など虚空に忘れ去っているかも知れませんが」
「心得ています」

 ソナエさんからは、『あまり食べるな』と釘を差されていたのでした。

「お餅まきの時間までに戻ってくれば、いいでしょう」

 わたしたちの仕事は、巫女だけではありません。
 なんでも、縁起物のおモチをついてほしいそうで。

「くんくん……おモチの香りがしてきましたわ!」

 そこでは、臼にモチ米が透過されました。

 杵を担いでいるのは、男衆ではありません。
 袖を肩までめくったスケバン巫女、ソナエさんです。

「戻りましょう。中央で、おモチの用意をしているようですから」

 ゴミを片付け、わたしたちはヤグラの下へ向かいました。
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