神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第三部 湯けむりシスター 冬ごもり かに……つみ…… ~温泉でカニ三昧~

護衛依頼で汽車の旅

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 本日わたしは、汽車に揺られています。

「映画のロケ地に向かう女優さんを護衛せよ」とのこと。

 わたしはモンクの武装をして、女優さんを狙う輩がいないか目を光らせていました。

 我々が向かう先は、山奥の温泉宿です。

 一時間ほどすると、窓の景色が雪の山々へと変わっていきました。

「改めて、本作の主演を担当いたします、ポーリーヌです。今日は護衛の依頼を引き受けてくださり、ありがとうございます」

 わたしの向かいに座る女優さんが、静かな声で頭を下げます。 

「いえいえ。ウルリーカ王女の頼みとあれば」

 今回の依頼は、ウル王女から舞い込んできました。

 なんでも、今回の映画に出資したそうで。

 こちらのポーリーヌさんも、ウル王女がオーディションで選出したそうですよ。
 今回演じる映画の前に主演したアクション映画がヒットし、彼女の人気も少しずつ上っているらしいですね。

 自分は召使いの女性がいるから護衛の心配はないが、ポーリーヌさんは駆け出しです。
 一人にすると危険なので、誰かいないかというのでした。

「大変ではございませんでしょうか」
「わたしひとりではありませんし」

 依頼を受けた人物は、わたしだけではありません。

「悪い、ミカンをくれ。あと、焼酎の緑茶割り」 

 わたしの隣に座っているソナエさんが、ワゴンを呼びます。

 慣れた手付きで、販売員さんが湯呑に焼酎を入れました。
 続けて緑茶を入れて、木の棒で軽くステアします。

「ありがと。うー寒い」

 ソナエさんがミカンを買い、わたしたちに分けました。

「うん、罪深うまい」

 現地のミカンでしょうか。瑞々しいですね。

 ご自分もミカンを少し食べつつ、ソナエさんは焼酎緑茶割りの入った湯呑で手を温めます。

「あんたもいるかい? シスターやウルのお嬢と違って、いけるだろ? あったまるよ」
「いえ。撮影前ですので」

 ソナエさんがお酒を勧めましたが、ポーリーヌさんは真面目に断りました。

「そうかい。では遠慮なく」

 今のソナエさんは、冬用の作務衣姿です。
 席の脇には、ナギナタを立て掛けていました。

 わたしの周りで剣術使いなら、ミュラーさんです。

 しかし王女は、ポーリーヌさんの所属事務所から「男性を遠ざけてほしい」と言われてしまったとか。

 で、同じ剣使いのソナエさんが選ばれたのでした。

 しかし、朝からお酒ですかぁ。

「あなた、大丈夫なんですか? 仕事前にお酒なんて飲んで」
「景気づけだろ? ケチケチすんな」

 不機嫌そうに、ソナエさんは緑茶入り焼酎をすすりました。

「だいたい、こんな狭い場所でナギナタなんて」
「狭いからこそ、相手も油断する。どうせ振り回せねえよ、ってな」
「なるほど。酔っているのもフリだ、というのですね?」
「いや、酒を飲んでるのは素なんだけど?」
「……」

 よほどの自信家ですね。まあ、いざとなったらわたしの出番です。

「ところであんたさ。お嬢との付き合いは、長いのかい?」

 会話をしながら、ソナエさんは焼酎に息を吹きかけて冷ましていました。

「ウル王女には、無名の頃からお世話になっておりまして。私、王女のもとでバイトもしておりました」

 舞台に慣れるため、接客の仕事を選んだらしいですね。
 王女と会うまでは、ただの女優を夢見るフリーターだったそうです。
 が、王女に認められてスカウトされたらしく。

「お嬢を熱くさせた原因は、わかるかい?」
「いえ。心当たりはありません。ですが、端役時代から私を気に入ってくれていたらしく」

 王女は彼女のために、この汽車のチケットも買ってあげたそうで。

「いわゆる『推し活』というモノですね」
「推しが銀幕デビューしたら死にそうだな。あのお嬢」
「物騒ですね。そこまで弱い心臓には思えません」

 ただ、当の本人はどうしても外せない用事があるそうで。
 王女とは、現地集合となっています。

 急に、電車が停まりました。

「信号待ちだってよ。この間に駅弁買おうぜ」

 一旦、駅で降ります。
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