149 / 285
第三部 湯けむりシスター 冬ごもり かに……つみ…… ~温泉でカニ三昧~
護衛依頼で汽車の旅
しおりを挟む
本日わたしは、汽車に揺られています。
「映画のロケ地に向かう女優さんを護衛せよ」とのこと。
わたしはモンクの武装をして、女優さんを狙う輩がいないか目を光らせていました。
我々が向かう先は、山奥の温泉宿です。
一時間ほどすると、窓の景色が雪の山々へと変わっていきました。
「改めて、本作の主演を担当いたします、ポーリーヌです。今日は護衛の依頼を引き受けてくださり、ありがとうございます」
わたしの向かいに座る女優さんが、静かな声で頭を下げます。
「いえいえ。ウルリーカ王女の頼みとあれば」
今回の依頼は、ウル王女から舞い込んできました。
なんでも、今回の映画に出資したそうで。
こちらのポーリーヌさんも、ウル王女がオーディションで選出したそうですよ。
今回演じる映画の前に主演したアクション映画がヒットし、彼女の人気も少しずつ上っているらしいですね。
自分は召使いの女性がいるから護衛の心配はないが、ポーリーヌさんは駆け出しです。
一人にすると危険なので、誰かいないかというのでした。
「大変ではございませんでしょうか」
「わたしひとりではありませんし」
依頼を受けた人物は、わたしだけではありません。
「悪い、ミカンをくれ。あと、焼酎の緑茶割り」
わたしの隣に座っているソナエさんが、ワゴンを呼びます。
慣れた手付きで、販売員さんが湯呑に焼酎を入れました。
続けて緑茶を入れて、木の棒で軽くステアします。
「ありがと。うー寒い」
ソナエさんがミカンを買い、わたしたちに分けました。
「うん、罪深い」
現地のミカンでしょうか。瑞々しいですね。
ご自分もミカンを少し食べつつ、ソナエさんは焼酎緑茶割りの入った湯呑で手を温めます。
「あんたもいるかい? シスターやウルのお嬢と違って、いけるだろ? あったまるよ」
「いえ。撮影前ですので」
ソナエさんがお酒を勧めましたが、ポーリーヌさんは真面目に断りました。
「そうかい。では遠慮なく」
今のソナエさんは、冬用の作務衣姿です。
席の脇には、ナギナタを立て掛けていました。
わたしの周りで剣術使いなら、ミュラーさんです。
しかし王女は、ポーリーヌさんの所属事務所から「男性を遠ざけてほしい」と言われてしまったとか。
で、同じ剣使いのソナエさんが選ばれたのでした。
しかし、朝からお酒ですかぁ。
「あなた、大丈夫なんですか? 仕事前にお酒なんて飲んで」
「景気づけだろ? ケチケチすんな」
不機嫌そうに、ソナエさんは緑茶入り焼酎をすすりました。
「だいたい、こんな狭い場所でナギナタなんて」
「狭いからこそ、相手も油断する。どうせ振り回せねえよ、ってな」
「なるほど。酔っているのもフリだ、というのですね?」
「いや、酒を飲んでるのは素なんだけど?」
「……」
よほどの自信家ですね。まあ、いざとなったらわたしの出番です。
「ところであんたさ。お嬢との付き合いは、長いのかい?」
会話をしながら、ソナエさんは焼酎に息を吹きかけて冷ましていました。
「ウル王女には、無名の頃からお世話になっておりまして。私、王女のもとでバイトもしておりました」
舞台に慣れるため、接客の仕事を選んだらしいですね。
王女と会うまでは、ただの女優を夢見るフリーターだったそうです。
が、王女に認められてスカウトされたらしく。
「お嬢を熱くさせた原因は、わかるかい?」
「いえ。心当たりはありません。ですが、端役時代から私を気に入ってくれていたらしく」
王女は彼女のために、この汽車のチケットも買ってあげたそうで。
「いわゆる『推し活』というモノですね」
「推しが銀幕デビューしたら死にそうだな。あのお嬢」
「物騒ですね。そこまで弱い心臓には思えません」
ただ、当の本人はどうしても外せない用事があるそうで。
王女とは、現地集合となっています。
急に、電車が停まりました。
「信号待ちだってよ。この間に駅弁買おうぜ」
一旦、駅で降ります。
「映画のロケ地に向かう女優さんを護衛せよ」とのこと。
わたしはモンクの武装をして、女優さんを狙う輩がいないか目を光らせていました。
我々が向かう先は、山奥の温泉宿です。
一時間ほどすると、窓の景色が雪の山々へと変わっていきました。
「改めて、本作の主演を担当いたします、ポーリーヌです。今日は護衛の依頼を引き受けてくださり、ありがとうございます」
わたしの向かいに座る女優さんが、静かな声で頭を下げます。
「いえいえ。ウルリーカ王女の頼みとあれば」
今回の依頼は、ウル王女から舞い込んできました。
なんでも、今回の映画に出資したそうで。
こちらのポーリーヌさんも、ウル王女がオーディションで選出したそうですよ。
今回演じる映画の前に主演したアクション映画がヒットし、彼女の人気も少しずつ上っているらしいですね。
自分は召使いの女性がいるから護衛の心配はないが、ポーリーヌさんは駆け出しです。
一人にすると危険なので、誰かいないかというのでした。
「大変ではございませんでしょうか」
「わたしひとりではありませんし」
依頼を受けた人物は、わたしだけではありません。
「悪い、ミカンをくれ。あと、焼酎の緑茶割り」
わたしの隣に座っているソナエさんが、ワゴンを呼びます。
慣れた手付きで、販売員さんが湯呑に焼酎を入れました。
続けて緑茶を入れて、木の棒で軽くステアします。
「ありがと。うー寒い」
ソナエさんがミカンを買い、わたしたちに分けました。
「うん、罪深い」
現地のミカンでしょうか。瑞々しいですね。
ご自分もミカンを少し食べつつ、ソナエさんは焼酎緑茶割りの入った湯呑で手を温めます。
「あんたもいるかい? シスターやウルのお嬢と違って、いけるだろ? あったまるよ」
「いえ。撮影前ですので」
ソナエさんがお酒を勧めましたが、ポーリーヌさんは真面目に断りました。
「そうかい。では遠慮なく」
今のソナエさんは、冬用の作務衣姿です。
席の脇には、ナギナタを立て掛けていました。
わたしの周りで剣術使いなら、ミュラーさんです。
しかし王女は、ポーリーヌさんの所属事務所から「男性を遠ざけてほしい」と言われてしまったとか。
で、同じ剣使いのソナエさんが選ばれたのでした。
しかし、朝からお酒ですかぁ。
「あなた、大丈夫なんですか? 仕事前にお酒なんて飲んで」
「景気づけだろ? ケチケチすんな」
不機嫌そうに、ソナエさんは緑茶入り焼酎をすすりました。
「だいたい、こんな狭い場所でナギナタなんて」
「狭いからこそ、相手も油断する。どうせ振り回せねえよ、ってな」
「なるほど。酔っているのもフリだ、というのですね?」
「いや、酒を飲んでるのは素なんだけど?」
「……」
よほどの自信家ですね。まあ、いざとなったらわたしの出番です。
「ところであんたさ。お嬢との付き合いは、長いのかい?」
会話をしながら、ソナエさんは焼酎に息を吹きかけて冷ましていました。
「ウル王女には、無名の頃からお世話になっておりまして。私、王女のもとでバイトもしておりました」
舞台に慣れるため、接客の仕事を選んだらしいですね。
王女と会うまでは、ただの女優を夢見るフリーターだったそうです。
が、王女に認められてスカウトされたらしく。
「お嬢を熱くさせた原因は、わかるかい?」
「いえ。心当たりはありません。ですが、端役時代から私を気に入ってくれていたらしく」
王女は彼女のために、この汽車のチケットも買ってあげたそうで。
「いわゆる『推し活』というモノですね」
「推しが銀幕デビューしたら死にそうだな。あのお嬢」
「物騒ですね。そこまで弱い心臓には思えません」
ただ、当の本人はどうしても外せない用事があるそうで。
王女とは、現地集合となっています。
急に、電車が停まりました。
「信号待ちだってよ。この間に駅弁買おうぜ」
一旦、駅で降ります。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説

夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜
帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。
売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。
「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」
周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。
彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。
しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。
「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」
そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。
「エル、リゼを助けてあげて頂戴」
リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。
『愛して尽して、失って。ゼロから始めるしあわせ探し』から改題しました。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貴方のために
豆狸
ファンタジー
悔やんでいても仕方がありません。新米商人に失敗はつきものです。
後はどれだけ損をせずに、不良債権を切り捨てられるかなのです。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる