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第二章 完 秋季限定キノコピザは、罪の味 ~シスタークリス 最大の天敵現る?~

マシュマロのチョコフォンデュは、罪の味

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「いやはや。失礼した。コホン。先代クレイマー辺境伯は、男だったのでな、甘味は所望しなかったのだ。肉と米はたらふく求めた。酒もやらん男だった」

 オールドマン侯爵がワインを飲みながら、語ります。

 ウチは先代の頃から、下戸一家ですからね。

「さっそく用意しよう。チョコフォンデュでよろしいかな?」
「ぜひ!」

 溶けたチョコに何かをつけて食べるとか、なんという背徳感激増しな料理なのでしょう! これをデザートとしていただけるとは。

「おまたせした。チョコフォンデュである」
「わああ」

 わたしは、ため息が漏れます。

 これが、チョコフォンデュですか。
 香ばしさが、遠くからでも漂ってきますね。すばらしいです。

「では、いただきますね」

 マシュマロを、溶けたチョコレートにくぐらせました。
 コレを口の中へ。

 ああもう罪深うまい。

 しっとり甘いマシュマロに、ノンシュガーのチョコが合いますね。
 あえて苦味を利かせたなんて、さすがです。

 マシュマロにチョコを付けて食べるだけなのに、どうしてこうも罪を感じるのでしょう。
 なんたるぜいたくな食べ方ですか。

 他のみなさんも、マシュマロを串に刺して食べています。

「クッキーが最高ですわ」
「塩味のスナックが、酒に合うぞ」

 王女はクッキーを、国王やカレーラス子爵はバター味のスナックをチョコにひたしていました。
 お酒もスパークリング系から、ウイスキーに代わっていますね。

「ホントですね。これも罪深うまい」

 ほろ苦い風味が、なんとも大人な味です。
 お酒を飲む方なら、こちらの方がお好きかも。

「ウル王女、わたしは今、どの富裕層よりも楽しく過ごせていますよ」
「ですわね。シンプルな料理ですのに、こんなにもあったかい気持ちになるなんて」

 みんな、チョコフォンデュが気に入ったようです。

「アタシ甘いの苦手だけど、これはイケルわ」
「あたしもよ。こういうデザートなら最高」

 子爵とヘルトさんの師弟コンビも、満足げですね。 

「先代は、こういうことはなさらなかったので?」
「クレイマーは、孤独を愛する男だった。一人飯が性に合っていたらしい。こういった賑わいは苦手だったように思う」

 これを食べなかったなんて、先代はもったいないことをしましたね。
 子孫であるわたしが、じっくり堪能させていただきましょう。

 わたしは美食家ではありません。全部いっぱいが好きですね。
 好きな人たちに囲まれて、好きな料理をいただく。
 これは、最高のぜいたくですよ。

 身も心も、お腹も満たされていました。

「いやあ、悔しいね。どれもこれもうまい。ルーク・オールドマン」

 二枚目のキノコピザを平らげて、魔王ドローレスはつぶやきます。
 苦々しい顔ながら、食べる勢いは止まりません。

「料理の腕だけは、負けぬよ。ドローレス・フィッシュバーン」

 二人の魔王が、誰からも聞こえないように小声で語り合います。

「あの、すいません。僕のせいでこんなことに。あなたの侍女にもならず」

 ドレミーさんが、侯爵に頭を下げました。
 思いの外、大ごとになって、責任を感じたのでしょう。

「構わぬ。おかげでドローレスと接触する機会を得た。たまには敵対者と語り合うのもいいものだ。そうは思わぬか、ドローレス?」

 侯爵がワインを飲みながら、楽しげにドローレスへ語りかけました。

「いいや。あたしはあんたの顔は見たくないね」

 きっぱりした態度で、ドローレスは言い放ちます。

「けど、デリバリーでいいなら食ってあげるよ。ちょうどいいお嬢ちゃんもいることだしさ」

 ドローレスが、侯爵を挑発しました。ゴロンさんのことでしょう。

「では、再び棺桶に入って、貴公の屋敷へお邪魔しよう」
「いや来んな」

 そう言いますが、ドローレス。

 あなたがもっている三枚目のピザはなんですか?

 わたしもいただきますね。
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