上 下
138 / 281
第二章 完 秋季限定キノコピザは、罪の味 ~シスタークリス 最大の天敵現る?~

官僚とマフィアの親玉のケンカ

しおりを挟む
「よくわかってるじゃないか」と、魔王は、フンと鼻を鳴らします。

「ドローレスの言いたいことは、だいたいわかりますよ」
「……どこでわかった?」
「ドラゴンを手なづけられる人間なんて、ココ数年では聞いたことがありません」

 信頼関係があるなら、隷属魔法など唱えないでしょう。

 かといって、命令を下すなんて、相手がよほど弱っているか、同じ野心を掲げているかくらいしか。

「ならば、ドラゴンよりもっと強い存在が仕掛けたと思うのが道理」
「正解だ。さすが、我が弟子一号だな」
「わたしの師は、エンシェント一人だけです」

 それでも魔王は、得意げに手を叩きました。すぐ、我に返ります。

「あんたに倒してもらいたいのは、ルーク・オールドマン侯爵ってヤロウだ。魔族内での地位は、あたしと同じ魔王だよ」

 魔王ドローレス・フィッシュバーンは、忌々しげに魔王の名を告げました。

 そのヴァンパイアは、ドラゴンの娘をさらって誘惑しようとしたそうです。
 硬いウロコに覆われ、噛むことはできませんでした。
 よって、従属化の術式で拘束したと。

「が、逃げられたわけ」

 馬車を襲っていたのは、魚でパワーを蓄えようとしていたようですね。

「あそこのお魚、おいしいですからね」
「ああ、いえ。実は僕、サクラエビが好物でして」

 ドレミーさんは、恥ずかしげに告げます。

 通っていたサクラエビの香りにつられて、術式が解けて脱走したのだとか。

「もし、サクラエビを積んだ馬車が付近を通っていなかったら、僕は今頃ヴァンパイアの慰みものにされていたでしょう」

 ドレミーさんが、身震いします。

「サクラエビって、そんなに香りが強い食べ物でしたっけ?」
「僕は一〇キロ先のサクラエビさえ、嗅ぎ分けられます」

 犬ですか、このドラゴンは。

「で、ドレミーさんを操っていたヴァンパイアをやっつけてほしいと」 
「ペットの飼い主が、あたしに因縁を付けてきやがったのさ。なに人のコレクションをかっさらってるのさ、ってね」

 どうも、魔王はその真祖を相手にしたくないそうで。

「で、相手が出してきた条件が、ケンカして勝つこと」

 恨みっこなしの、ガチンコ勝負を要求してきました。 

「あなたが嫌がる相手って。相当お強いので?」
「強さは、どうってことないよ。人間でも倒せるレベルだ。ドラゴンさえ御せないくらいだからね。あんたに断られたら、エンシェントにでも頼もうと思ってた」
「では、なぜわたしが選ばれたので?」

 真祖級ヴァンパイアが相手なら、エンシェントでしょう。
 魔王ドローレスでさえ、抑え込めるのですから。

「いやあ、あんたに借りを返してもらおうかと」
「ああ、そうでした」

 わたしは彼女に、ドラゴンを押し付けたんでした。

「マジレスするとな、立場的にお互い手出しが難しいんだよ」

 かたや、魔族の中でも貴族的な存在だとか。

 対して魔王ドローレスは、ほぼ実力のみで現在の地位にいます。

 同じ魔王でも、立場が違うとのこと。

 人間に例えると、お二人は「官僚とマフィアの親玉」の関係ですね。 
 手を出すとお互いに不利が生じてしまいます。

「シスターのあんたとは、相性が最悪だからね」

 我々シスターなどの聖職者は、『対ヴァンパイア兵器』とも呼ばれていましたから。

「それだけじゃない。カタブツなことでも、あいつとは話したくない。まさに、考えが古い男なんだ。オールドマンとは、よく言ったもんだ」

 話を聞く限り、めんどくさそうな方ですね。

「引き受けてくれるかい?」
「もちろん。明日はチートデイですからね。ちょうどいい運動になります」

 わたしが言うと、魔王は口笛を吹きます。

「あたしを気に食わないあんたのことだから、てっきりモーニングをタダ食いして帰るかもって、覚悟していたよ」
「さすがに、それは非常識です」
「そうだ。もう一つ頼みがあった」
「何か?」
「コイツも連れて行ってくれ」

 なんと、ドレミーさんを連れて行ってくれとのことです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...