神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第二章 完 秋季限定キノコピザは、罪の味 ~シスタークリス 最大の天敵現る?~

官僚とマフィアの親玉のケンカ

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「よくわかってるじゃないか」と、魔王は、フンと鼻を鳴らします。

「ドローレスの言いたいことは、だいたいわかりますよ」
「……どこでわかった?」
「ドラゴンを手なづけられる人間なんて、ココ数年では聞いたことがありません」

 信頼関係があるなら、隷属魔法など唱えないでしょう。

 かといって、命令を下すなんて、相手がよほど弱っているか、同じ野心を掲げているかくらいしか。

「ならば、ドラゴンよりもっと強い存在が仕掛けたと思うのが道理」
「正解だ。さすが、我が弟子一号だな」
「わたしの師は、エンシェント一人だけです」

 それでも魔王は、得意げに手を叩きました。すぐ、我に返ります。

「あんたに倒してもらいたいのは、ルーク・オールドマン侯爵ってヤロウだ。魔族内での地位は、あたしと同じ魔王だよ」

 魔王ドローレス・フィッシュバーンは、忌々しげに魔王の名を告げました。

 そのヴァンパイアは、ドラゴンの娘をさらって誘惑しようとしたそうです。
 硬いウロコに覆われ、噛むことはできませんでした。
 よって、従属化の術式で拘束したと。

「が、逃げられたわけ」

 馬車を襲っていたのは、魚でパワーを蓄えようとしていたようですね。

「あそこのお魚、おいしいですからね」
「ああ、いえ。実は僕、サクラエビが好物でして」

 ドレミーさんは、恥ずかしげに告げます。

 通っていたサクラエビの香りにつられて、術式が解けて脱走したのだとか。

「もし、サクラエビを積んだ馬車が付近を通っていなかったら、僕は今頃ヴァンパイアの慰みものにされていたでしょう」

 ドレミーさんが、身震いします。

「サクラエビって、そんなに香りが強い食べ物でしたっけ?」
「僕は一〇キロ先のサクラエビさえ、嗅ぎ分けられます」

 犬ですか、このドラゴンは。

「で、ドレミーさんを操っていたヴァンパイアをやっつけてほしいと」 
「ペットの飼い主が、あたしに因縁を付けてきやがったのさ。なに人のコレクションをかっさらってるのさ、ってね」

 どうも、魔王はその真祖を相手にしたくないそうで。

「で、相手が出してきた条件が、ケンカして勝つこと」

 恨みっこなしの、ガチンコ勝負を要求してきました。 

「あなたが嫌がる相手って。相当お強いので?」
「強さは、どうってことないよ。人間でも倒せるレベルだ。ドラゴンさえ御せないくらいだからね。あんたに断られたら、エンシェントにでも頼もうと思ってた」
「では、なぜわたしが選ばれたので?」

 真祖級ヴァンパイアが相手なら、エンシェントでしょう。
 魔王ドローレスでさえ、抑え込めるのですから。

「いやあ、あんたに借りを返してもらおうかと」
「ああ、そうでした」

 わたしは彼女に、ドラゴンを押し付けたんでした。

「マジレスするとな、立場的にお互い手出しが難しいんだよ」

 かたや、魔族の中でも貴族的な存在だとか。

 対して魔王ドローレスは、ほぼ実力のみで現在の地位にいます。

 同じ魔王でも、立場が違うとのこと。

 人間に例えると、お二人は「官僚とマフィアの親玉」の関係ですね。 
 手を出すとお互いに不利が生じてしまいます。

「シスターのあんたとは、相性が最悪だからね」

 我々シスターなどの聖職者は、『対ヴァンパイア兵器』とも呼ばれていましたから。

「それだけじゃない。カタブツなことでも、あいつとは話したくない。まさに、考えが古い男なんだ。オールドマンとは、よく言ったもんだ」

 話を聞く限り、めんどくさそうな方ですね。

「引き受けてくれるかい?」
「もちろん。明日はチートデイですからね。ちょうどいい運動になります」

 わたしが言うと、魔王は口笛を吹きます。

「あたしを気に食わないあんたのことだから、てっきりモーニングをタダ食いして帰るかもって、覚悟していたよ」
「さすがに、それは非常識です」
「そうだ。もう一つ頼みがあった」
「何か?」
「コイツも連れて行ってくれ」

 なんと、ドレミーさんを連れて行ってくれとのことです。
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