神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第二章 完 秋季限定キノコピザは、罪の味 ~シスタークリス 最大の天敵現る?~

棺桶で来た

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「決着は明日」と言われまして、拍子抜けのまま当日は帰らせてもらいました。

 次の日です。待ちに待ったチートデイがやってきましたよ。

 とはいえ、侯爵と決着をつけられませんでした。
 一流ホテルのピザは、おあずけです。

 なのに、わたしは再び魔王よりホテルに招待されました。

「ごきげんよう。またホテルから、オールドマン卿の屋敷へ飛べと?」
「まあ、見てなって。さて来たよ」

 ドアホンが鳴ります。誰でしょう?

「で、出前ニャンです」

 現れたのは、ゴロンさんです。
 背負っているのは、大型のチルドボックスでした。
 何が入っているのでしょう?

 チルドボックスは、入れ子式になっていました。

 出てきたのは、なんと棺桶ではありませんか。

「ありがとうございます。ゴロン様。こちらで結構です」

 若い執事さんが、ゴロンさんに代金を支払いました。

「ぜえ、ぜえ。こちらこそ」

 ゴロンさんは、帰ろうとします。

「待ってください」

 わたしは、ゴロンさんを呼び止めました。

「よろしければ、あなたもお召し上がりになりますか?」
「いいんですか?」
「せっかくの機会ですし、それに一緒に食べたいです。いいですか、ローザ?」

 ローザこと、魔王ドローレスにお伝えします。

「一緒にいるだけです。彼女の分は、わたしがお支払いします」
「え、悪いですよシスターッ!」

 わたしが告げると、ゴロンさんが遠慮しました。

「いいよ。二人分くらいどうってことない。それに、こいつは金をもらうつもりもなさそうだ」

 魔王ドローレスが、棺桶を蹴り飛ばします。なんて罰当たりな……。

 ゴトゴト、と棺桶が動き出します。

「ひいいいい!」

 ゴロンさんだけでなく、ドレミーさんもわたしにしがみつきました。
 ドラゴンなのに、ちょっと情けないですね。

 棺桶が、パカッと開きました。

「出たああああ!」

 たしかに現れましたよ。
 オールドマン侯爵が、このホテルに来たのです。
 棺桶で。

「吾輩は朝日に弱いのでな。こうやって運んでもらったのである」
「人間というか、魔族を運んだのは初めてですよ」
「ふう。まことにご苦労だった。褒美として配達員の女よ、貴公の同席も許す。金の心配もいらぬ。吾輩の料理は、は基本タダである」

 一輪のバラの花を、侯爵はゴロンさんの天パ頭にスッと差しました。

「あ、ありがとう、ございます」
「礼を言うのはこちらだぞ、マドモアゼル。重い棺桶をフロントにも頼らずよく運んでくれた。実に快適な運びであった。さぞ日頃から、丁寧な仕事を心得ているのだろう」
「恐縮です」


 これは、気障キモい。


 実に、キザったらしいですね。
 こうやって女を口説くのでしょう。

 でも、ちょっと待ってください。吾輩の料理ですって?

「もしかして、あなたが」
「いかにも、吾輩が――」

 侯爵が語ろうとしたそのとき、ホテルのオーナーが飛んできました。

「先程、女性の悲鳴が聞こえましたが、なにごとで……おや! シェフ・ルドマンではありませんかな?」
「うむ。吾輩こそ闇の料理人、ルドマンである」

 威張り散らしながら、オールドマン卿が名乗りました。

「挨拶が遅れてすまぬ」 
「滅相もありません。いやはや、まさか伝説のOオー・ルドマン卿ご自身が、シェフとして当ホテルで腕をふるっていただけるとは」
「彼らは特別な客人だ。吾輩自らがもてなしたい。厨房をお借りできるかな?」
「もちろんですとも! 期間限定キノコピザと、土鍋グラタンパスタの食材も、ご用意できております!」

 え? まさか。

「このチラシに乗っているピザとグラタンパスタって、あなたが作るのですか?」
「作るも何も、吾輩の名が書いておろう?」

 わたしは、チラシをくまなく探ります。

「ホントですシスター! ここに!」

 ゴロンさんが、チラシに侯爵の名を見つけました。

『本日のおすすめ O・ルドマン特製キノコピザと大盛り土鍋グラタンパスタ 八キロ』

 八キロ!?
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