神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第二章 完 秋季限定キノコピザは、罪の味 ~シスタークリス 最大の天敵現る?~

パワーワード「魔王からの呼び出し」

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「労働者のみなさーん、おはようございまーす。今日のゴハンは、豚汁ですよー」

 ご機嫌いかがですか?
 シスター・クリスです。豚汁のおいしい季節がやってきました。

 日雇い労働者さんたちの活力とするため、丹精込めた豚汁ですよ。
 これがおいしいのなんのって。

 まあ、作り方を教えてくれたのはソナエさんなんですけど。
「寒い日には、やはり豚汁だろ」と、快く教えてくれました。

「ケンカしなくても大丈夫ですよー。たくさん作ってありますからねー。順番ですよー」

 おにぎりと豚汁を、ホームレスさんに分けていきます。

「シスター・クリス。お話が」

 わたしが配給をしていると、シスター・エンシェントから呼び出されました。

 何事でしょう?
 もうすぐチートデイですから、節制はしていましたよ?
 多少ですが。

「魔王から呼び出しです」

 なんです、そのパワーワード?


 エンシェントと共に、朝食をいただきます。
 もちろん、献立は豚汁とおにぎりですよ。

 うん、罪深うまい。

 さっきまで寒空の下にいたので、熱が全身に染み渡ります。
 柔らかくなった根野菜と豚肉との調和がすばらしい。
 塩むすびと口の中で融合して、格別な味わいになっていますね。

 シスター・エンシェントは、黙々と食事を口へ運びます。
 味わっているんですかねぇ?
 オフになる晩酌とは違いますから、やはり朝はエネルギー補給を優先しているのでしょう。

「ヴァンパイア討伐?」

 塩むすびで口の中をいっぱいにさせながら、わたしはエンシェントに聞き返しました。

「そうです。あなたの天敵のような相手ですね」
「ええ。血液だけ摂取する毎日なんて、まっぴらですよ」

 他のお料理が楽しめないのですよね?
 最悪な人生ですよ。
 絶対にお断りです。

 しかし、これはまた大掛かりな依頼です。
 冒険者として、魔王はわたしを雇いたいのだとか。

「あなたなら、そういうと思っていました」
「悪さをしているから、わたしが懲らしめてこいと?」

 ヴァンパイアと言うからには、女性を襲って眷属にしたりするのでしょうね。

「それが……依頼内容が、的を射ません。詳しくは、魔王ドローレスから直接、話を聞いてください」

 エンシェントにしては、歯切れが悪いですねぇ。

「お気をつけて。そのヴァンパイアは、いわゆる【真祖】だそうでして」

 真祖とは、生まれながらのヴァンパイアということになります。
 つまり、ドローレスと同じ魔族というわけですね。

「わかりました。ただちに参ります。山奥でいいんでしたよね?」
「いいえ。彼女はこの辺りに、ホテルを取っています。場所はこちらです。お急ぎなさい」
 
 
 馬車に揺られて、魔王ドローレスのいるらしきホテルへ。

 そこそこの格式ですよ。

 部屋番号も六六六番とは、狙っていますね。

 なんだかもう、ギャング映画で襲撃される場所ですよ。ここは。

「失礼します」
「やあ。これはこれは、シスター・クリス」

 バスローブ姿の魔王ドローレスが、純白のソファに足を組んでいました。シスター・ローザの頃では考えられません。

「ルームサービスでも取るか?」

 ドローレスが、指を鳴らします。

 燕尾服の少女が、フロントに電話で問い合わせました。
 男装していますが、女性ですね。


 数分後、ルームサービスが届きます。

 少女がワゴンを受け取り、ドローレスの元へ。
 よく働いて、偉いですね。

「それにしても、あなたにこんな舎弟がいらしたとは」

 てっきり、部下は取らないと思っていましたから。

「舎弟って言っても、無理やり押し付けられたからね。どこぞのシスターに」
「と、いいますと?」
「自分でやっておいて忘れたってのか? あんたも薄情なやつだな」

 待ってください。情報が追いつきません。
 わたし、なにかやらかしましたっけ?

「あ、そういえば」

 心当たりはありました。

「ようやく思い出したようだね」
「はい」

 このような姿をされていたので、わかりませんでしたが。

「では、あなたは」


「そうです。僕は、先日あなたに殴りかかったドラゴンです」
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