神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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天ぷらの盛り合わせは、罪の味 ~高級料亭の天ぷら盛り合わせと、かき揚げソバ~

乱入してくるとは、とんでもない人ですね

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「いやあ、シスター・クリス。今日は存分に食ってくれ!」

 ガハハと笑いながら、ディートマル・ヘンネフェルト国王はキンキンに冷えたエールを煽ります。

「え、ええ」

 引きつった顔で、わたしは相槌をうちました。

「ああ、お酒がありませんね。お酌を」
「いいんだよ。今日はアンタがゲストなんだ。俺なんて手酌で構わんのさ」

 わたしがエールの瓶を持つと、国王は手をヒラヒラさせてわたしから瓶を取ります。自分でお酒を継ぎ始めました。

「お父様、あまり飲むと身体に毒ですわ」

 ウル王女が、父である王をいたわります。

「今日はうれしい酒だ。日頃から世話になっているシスターにお礼ができるからな。多少は飲みすぎても構わんだろう」
「介抱する身にもなってくださいまし」

 国王の豪胆ぶりに、ウル王女が呆れ果てました。

 わたしの前には、天ぷらの盛り合わせが。

 エビ、シソの他に、秋ナス、れんこん、かぼちゃなどのお野菜が。

 いやあ、かき揚げがおいしいと言われて釣られたのが、運の尽きでした。

 まさか、こんな事態になるとは。

 
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 わたしはただ、朝の日課であるジョギングをしているだけでした。

「よお、シスターちゃん」

 突然、その人は現れたのです。
 まさか、ディートマル国王がわたしのランニングコースに乱入するとは。

「乱入してくるとは、とんでもない人ですね」
「まあ、そういうなよ。今の俺は、ただのおっさんだ。国王も何もねえよ」

 ランニング姿のマッチョ男を、誰も国王だなんて思う人はいません。

「あんたとは一度、まともに話しておきたかったんだよ」
「そうだったんですか」

 スピードを上げて、わたしは王をわざと引き離そうとします。

 しかし、王はぴったりとついてきました。
 速度を上げていないのに。

 五〇歳は越えているでしょうに、すごい体力ですね。

「だって、ウルリーカとは結構話すそうじゃねえか」
「王女は学友だったためです」

 同学年のため、王女とはまだ絡みやすいです。
 が、いざ国王が相手となるとさすがに緊張しますね。

「まあ、生徒と保護者ではどうしても距離が出ちまうわな。それで、日頃世話になっているあんたと、会食の席を設けたい」
「……わたしはあなたに、恩を売った覚えはございません」

 首を振って、わたしはお断りのいを表明したつもりでした。

「フレデリカのこともある。あんたには感謝してもしきれない」

 まあ、彼女を騙した男性をコテンパンにしたのは、他ならぬわたしですからね。

「フレン……フレデリカ様への恩を感じているなら、エマと会食してください。フレンのお世話は、主に彼女の担当ですよ」
「ああ、エマちゃんなあ! あの子いいよな。熱心にフレデリカの世話をしてくれている。いずれ、あのシスターにもお礼を言いたい。しかし、まずはあんただ」

 国王はエマより、わたしに興味があるようです。

 妾を探しているわけでは、ありませんね。

「どうして」
「エマちゃんは、どうもガードが硬い。異性相手だと特に。その点、あんたはメシでカンタンに釣れる。ウルリーカからも、あんたは食い物目当てなら悪堕ちもすると」

 ハロウィンでも、ウル王女から言われましたね。

 まったく。

 この父娘は、わたしをなんだと思っているのでしょう?

 たしかにポテチ一袋を独占するために、わたしは魔王に魂を売り渡しましたけどね。

「それに俺は、あんたがただジョギングをしているわけじゃないって知っている」
「なんの証拠が……」

 国王が足を止めます。

 たどり着いたのは、わたしがひいきにしているパン屋さんでした。

 ここの揚げパンが、わたしにとってマイブームなのです。

「あんたの狙いは、こいつだろ?」

 なんと、国王はこちらの好物をしっかりと認識しておりました。

「これは、参りましたね」
「話は、コーヒーでも飲みながらでどうだ?」

 パン屋さんを親指で差しながら、国王が入店を促します。
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