神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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麻婆豆腐は、罪の味 ~街の大衆食堂の麻婆豆腐と、屋台の肉まん~

トロトロの杏仁豆腐は、大罪の味!

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「杏仁豆腐とは?」
「おそらくポピュラーなのは、白い寒天だよな?」

 ああ、フルーツみつ豆の缶などに入っている、白い寒天ですか。
 サッパリしていて、箸休めに丁度いいです。
 ただ、あれをメインと言われると、ふむふむ。

「ここの杏仁豆腐、最高なの! 全員いいわよね?」

 さっきまで控えめだったラナさんが、急に食い気味に語り始めました。
 これは、そうとう期待できそうですね。

「はい。ぜひ」

 そこまでおいしいのでしたら、ぜひ。

 何事もチャレンジです。ここは、一度試してみましょうか。

「わたしも、杏仁豆腐と聞くと、その寒天をイメージしていたわ」
「だが、ここの杏仁豆腐は、間違いなくうまい。たまんねえ甘さなんだよ」

 ラナさんもミュラーさんも、楽しみにしていました。

「わたちもだいすき。ここのあんにんどうふ、サイコー」

 ホリーさんまで。

 子どもがトリコになるくらいですから、期待ができそうですね。

「おまちどう。杏仁豆腐ヨ」

 しばらくすると、真っ白いムースのような物体がズラリと並びました。

「では、いただいても?」
「どうぞ!」

 ラナさんたちにも行き渡り、わたしはスプーンを差し込みます。

 舌触りはいいですね。お味は……んーっ!

 これは、罪深うまい! 

 トロットロです!
 缶に入っているのはやや堅いイメージがありましたが、この食感は確かにお豆腐です。
 なのに、この甘さとは。

「いかが?」
「いやあ、完全にムースですね。おいしい……」

 サッパリしたムースといいますか。
 甘いのにしつこくないとか、どういった料理なのでしょう? 

 参りました。これは。

 お豆腐は、まだこんなポテンシャルを秘めていたのですね。

 たまりません。大人さえハマってしまうわけです。
 お豆腐というだけあって、罪悪感の薄さがハンパではありませんね。
 もう一皿いただきたいくらいです。値段もお手頃という。

「まいど、出前ニャンですっ!」

 おお、誰かと思えばゴロンさんではありませんか。

「ああ、シスター・クリスさん! ご無沙汰です!」
「今日はどういったご注文で?」
「杏仁豆腐を大量にほしい、と言われました!」

 なるほど。デリバリーしてでもいただきたいと。わかります。

「どちらまでヨ?」

 店主が、杏仁豆腐を二〇人前も用意しながら尋ねました。

「それが……」

 ゴロンさんが、言いづらそうに語ります。

「なに? 隣のお店が、カ!?」

 お隣のお店からオーダーとか、どんだけ人気商品なのでしょう?

「おい、たしか隣の店って……」
「ディートマル・ヘンネフェルト国王が、会食中だったはずよね?」

 わお。

「そうなんですよ。マンゴープリンを楽しんでいたそうなんですが、どうしてもここの杏仁豆腐が食べたいって聞かなかったそうです。息子さんとは、味が違うらしくて」

 チルドの魔法がかかったカバンに杏仁豆腐を詰めて、ゴロンさんは出前へと向かいました。

 おとなしく、息子さんの作ったデザートを食べていればいいのに。

「今からデザートタイムか。こいつぁ、退散したほうがよさそうだ」

 あの方のお酒は、絡んできますからね。

「そうね。はい、ホリー。せーの。ごちそうさまでした」

 ラナさんと一緒に、ホリーさんも祈りを捧げます。

「ごちそうさまでした。今日はありがとうございます。みなさん」
「いえいえ。今度、ウチにもいらして。料理を作って待っていますから」
「ぜひとも伺います」

 ミュラーさん一家と別れて、教会へと帰る途中でした。

「あ、肉まんがありますね」

 肉まんの買い食いは、久々です。

 あんなお話を聞いた後だと、食べずにはいられません。

「ひとつくださいな」
「オイラもほしいっす」

 わたしの隣に、ハシオさんが並びました。

「ああ、ハシオさん」
「これから、こいつを肴に宅飲みっす」

 ホカホカの肉まんを手にしながら、ウキウキ顔で去っていきます。

 それは、幸福を呼ぶ肉まんですよ。

 心のなかで、つぶやきました。

                 (麻婆豆腐編 完)
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