神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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いやあ。ポップコーンって、ホントに罪深《うま》いですねえ ~映画館のポップコーンと、量り売りのお菓子~

映画鑑賞

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 今日は、ウル王女と映画を見る約束の日です。

「おまたせいたしました」

 とびきりの服を着て、ウル王女の指定した場所に到着しました。
 おめかしいしていたら、時間を食ってしまいましたね。

「いえいえ。わたくしも今来たところですわ」

 ウル王女は慣れたもので、いつものオシャレな服装で待っていました。
 わたしみたいに服に着せられていないですね。気合が入っています。

「どれにいたします?」
「塩味のバター入りがほしいです。キャラメルは、遠慮しておきましょう」
「……ポップコーンのお話ではありませんわ。どの映画を見ますか、と聞いています」

 そう言われても、映画館自体が初めてですからねぇ。

「おすすめは、なんですか?」
「世間のオススメは、怖い映画らしいですわね」
「グロ系ですか。結構です」

 ポップコーンが、まずくなりそうですね。

「怖い映画は苦手ですの?」
「いえ。血には案外、慣れていまして。たいして驚きが」
「あなたのおうちは、ニワトリを軽々とシメるお宅でしたわね」

 そうなのです。切った張ったに、たいした驚きがありません。

「では、アクションも特に興味はございませんこと?」
「そうですね。シスター・エンシェントとシスター・ローラが飲みの席でのケンカしたのを抑え込んだばかりですし」
「あなたの人生の方が、死と隣り合わせでしたわね……」

 どうしましょう。なかなか決まりません。

「映画は初めてで?」
「見たことはありますよ。孤児たちと一緒に見ましたね」
「タイトルは?」
「小さいマングースの子どもが、親の仇であるハブと戦う話です」
「ハブのクライですわね! アニメ映画屈指の悪役と言われていましたわね!」

 わたしの方がトラウマになっています。

「個人的に、児童向けは避けたいですね」

 子どもはどうしても、上映中に暴れてしまいます。
 にぎやかなのはいいのですが、見ているこちらも映画に集中できません。

「では、児童が寄り付かない映画にしましょう。あっ、これなんていかがです? 『たぶん、なんとかなるんじゃね?』とか」

 天才的な頭脳と発想を持った異国の貧民が、後にお姫様と添い遂げる話ですか。
 いいと思います。純朴な男性が主人公なのはいいですね。

「ただ、三時間半の映画ですか」
「長いですわね。二人で観る映画ではございませんね。一人で人生を見直すための映画ですわ」

 突っ立っているだけでも、時間がもったいないです。決めましょう。

「これがいいです! ミステリですから、子どもは興味を示しません。ですが、目が離せませんよ」
「遺産相続が主題の映画ですか。いいですわね」

 大金持ちの遺産を巡って、次々と殺人事件が起きるという内容です。

 ややグロめかもしれませんが、これでいいでしょう。

「あと、三〇分ですわね? 何か召し上がってから、入りますか?」

 いいですね。こういうところの軽食はおいしいと聞きますから。

「いえ。やめておきましょう。上映中、お手洗いに行きたくなったら最悪です」

 実際、孤児の子たちに映画を見せたときに、そういう事態に見舞われました。
 お菓子とジュースを食べながら見ていたため、催す子が多発したのです。

「ですわね。では、準備して入りましょう」

 そうと決まれば、あとはお菓子選びです。

「お菓子の量り売りとか、楽しそうですね」

 カウンターの脇に、お菓子を量り売りしていますね。少し見てみましょう。

「すいません、クッキーと、麦チョコを。あと、ソフトキャンディをいただけますか?」
「そんなに食べて、大丈夫ですの?」
「あなたの分も買うんですよ」
「ありがとうございます。では、ラムネとマシュマロをくださいな」

 音が鳴らないお菓子ばかりのチョイスですね。さすが、手慣れています。

「では、念願のポップコーンも買いますわ」

 この時を待っていたのです。
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