神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
105 / 285
茶色いお弁当は、罪に含まれますか? ~咎人青春編 その2~

咎人青春編 ~駄菓子のティータワー~

しおりを挟む
 それは、我々が花の学生だった頃でした。

 思えばその日も、こんな秋深い頃だったでしょうか。

「なんですかこれは、ウルリーカ・ヘンネフェルト! 説明なさい!」

 女教師が、ウル王女の行為にブチキレています。

 彼女が怒っている理由は、木の切り株に建てられたティータワーでした。

 ウル王女の執事さんが、切り株に立派なティータワーを設置していました。
 その女執事さんも、我が校の生徒という徹底ぶり。
 幾分もスキがありません。黙々と作業をしています。

「ですから、ティーセットですわ」

 まったく悪びれる様子もなく、ウル王女は先生に説明しています。

 水筒でロイヤルミルクティーを淹れたあと、女執事さんは作業へ戻りました。

「遠足といえど、エレガントであれ。それこそ、ヘンネフェルトの精神でございます」

 執事の女生徒さんも、まったく悪びれていません。
 自分たちがどれだけの奇行をしているかさえ、誇らしげに語ります。

「ですが、ちゃんと予算に収めるようといったはずです!」

 女学生のおやつの上限が銅貨三枚もどうよ、と思うのですが。

「ちゃんと予算内に収めていますわ。我がヘンネフェルトは王族なれど、咎められるような出過ぎたマネはいたしませんの」

 おっしゃるとおり、お菓子はそのへんで買える駄菓子です。
 ラムネ、ピーナッツ入りのチョコ、ゲソの串というラインナップ。
 極めつけは、『ジョン・キャベツ』という名でありながらソース味で、キャベツの味はしない謎のスナックです。

「ゲソいいわね! アタシの柿ピーと交換しない?」

 シスター・エマが、柿ピーとゲソをシェアしました。

「あんたも一杯どう?」

 エマはコドモビールまで交換しようとします。

「遠慮してきますわ」

 ウル王女は断りました。

 執事の方は、いただいたようです。

「『王族だから庶民のお菓子は口に合わない』といった概念は、彼女にはありません。むしろ率先して買い物をしていましたよ。どうか、ご容赦を」
「シスター・クリスが言うなら」

 手に負えないと思ったのか、先生は説得をあきらめました。

「ありがとうございます、クリス・クレイマー」
「わたしは、オカズをいただけますか?」
「ええ。どうぞ。この焼き鮭サンドはおすすめですわ!」
「いただきますね。うん、罪深うまいです」

 幕の内弁当をサンドイッチにするという発想には、ついていけませんが。
 お金持ちって、どうしてこう思考が斜めっているのでしょう?

 ああでも、フルーツサンドは普通においしいですね。これは大当たりです。

「わたくしは、卵焼きをいただきます」
「ここのは、絶品ですよ! 食べてみてください」

 わたしの弁当は、各お店をかけずりまわってかき集めた、極上品です。
 我が家は
「腹一杯になりたければウチで食え。本格的にウマいものが食いたいなら外で食え」
 をモットーとしています。
 専門的なものは人に作ってもらえと。
 なので、自分で作るといいかげんになっちゃうんですよね。

 王女は卵焼きを半分に切って、口の中へ。

「いただきましょう。おお、これはおいしい!」

 落ちそうになった頬を、ウル王女の執事さんが手で抑えます。

「あなたもどうぞ」

 ウル王女は、もう半分を執事さんにあげました。

「いえ、私は自分の分が」
「いいから食べなさい」
「では。ああ。おいしいです」
「ねえ、ですわよね」

 うっとりする執事さんに、王女も満足げです。

「ありがとうクリスさん」
「とんでもありません」

 和やかにお昼をとっていたときでした。 

「それはそうと、クリスさん」

 先生の目が、わたしに向けられます。

「なんでしょう」
「随分と茶色いお弁当ですね」

 その言葉には、明らかな侮蔑があります。

「さきほどエレガントを否定なさったお方が、今度は庶民的ガッツリメシを否定なさるおつもりですか?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

貴方のために

豆狸
ファンタジー
悔やんでいても仕方がありません。新米商人に失敗はつきものです。 後はどれだけ損をせずに、不良債権を切り捨てられるかなのです。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...