神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
104 / 285
茶色いお弁当は、罪に含まれますか? ~咎人青春編 その2~

女子のお弁当が茶色いのは、罪なのでしょうか?

しおりを挟む
 外出禁止はとりあえず解除になった。屋敷に戻れるとのことなので、早く家に帰ってマーサのお茶を飲んでゆっくりしたい。元は庶民なのだ。やはりお城なんて緊張するものである。

「リィ、もう帰るのか」

 殿下が寂しそうに呟く。そりゃ、帰りますよ。ここは自宅ではないですし。でもそう言うと、いずれは自宅になるのだからとか言い出すので黙っておく。

「明日また来たらいいから。明日は1日休みにしてゲームをして遊ぼう」

 そんなに遊んでばっかりでいいのか?魔物が出て大変だったんだから、もう少し働かないと国民から不満が出るぞ。と、微笑みながらも心の中で文句を言う。結婚して大丈夫なのだろうかと、不安にもなってきた。

「なりません、今は国民のために事態の終息を目指す時です」

 思わず言ってしまった。真理子時代、忙しい時に呑気にお茶を飲んでいた上司を思い出してしまったのだ。

「リィ・・・」

 殿下がやや涙目になったのを見て、やってしまったと後悔した。だが言ってしまったものはしょうがない。

「で、殿下・・・」
「リィ、なんて・・・なんて・・・」

 婚約破棄か、初の大げんかに発展するか。だが間違っていないぞ。私は殿下の前に立ち、殿下の目を見た。小動物のように可愛らしく見えてきた。

「なんて、素晴らしいんだ!」

 殿下が興奮したように叫ぶ。

「すでに国民のためを思い、殿下に意見できる。最高の伴侶だ!」

 横で聞いていたドミニク様は胸に手を当てプルプル震えている。

「さすがマリアンヌちゅあん。今すぐにでも婚姻を成立させようか」

 陛下、戯れも過ぎますぞ。と、私は時代劇で見た家老の気分になった。

「聞いたか、アレン。妃とはこんなに素晴らしい意見を出せるものなのだ」
「はい、この耳でしかと拝聴しました。マリアンヌ様は国の宝です」

 たかだか働けと言っただけでこの反応。どうなっているんだか。とにかくこの馬鹿騒ぎが早く終わって、無事に家でお茶を飲みたいわ。

「妃教育も始まるのだから、マリアンヌちゃんのお部屋も早く用意しないと」
「やはり、部屋は我々の隣にしようか。夜中に目が覚めてパパとママがいないって泣くかもしれないからな」
「南の庭園が見渡せる部屋にしましょう、あそこなら私の私室と近いもの」
「母上、リィは私の妻となるんですよ。母上の私室の近くに住まわせたら、私が遠くなるではないですか」
「壁紙はピンクで金をあしらおうか。ピンクだけで200色はあるからな。マリアンヌちゅあんのピンクを見つけ出さないと」

 全員無駄に張り切りだした。仕事が忙しすぎると、おかしなことを言って現実逃避をするものなのだ。と、思うようにした。これはもうキリがない。一国の国王陛下を相手にして不敬かとは思うが、仕方がない。いずれは舅となる人なのだ。今から慣れよう。

 王族の一員になるのも不安があるが、それよりも心配なことがある。お妃教育である。勉強など10年以上やっていない。ついていけるのか不安でしかない。だが不安を口にすると、寄ってたかって大丈夫だよと慰められるだろう。慰められるだけならいいが、やらなくてもいいと言い出しかねない。そうなると将来的に困るのは自分自身だ。何も知らない妃など国民からすれば不要な存在。国家に不審をもたらすきっかけにだってなる。

 とにかくやるしかない。私は不安を心の奥に隠し、部屋をどうするかなどと揉めている王族に笑顔を見せた。笑ってたらどうにかなる。そう思うしかない。それで・・・。

 顔の筋肉が死んだように固くなるくらいに笑顔を見せて立っていた。心はとっくにどこかへ行ってしまった。ようやく自宅のお屋敷に戻ってきた時は、すでに自分は放心状態を通り越して宇宙の彼方に飛んでいっていたと思った。お城に1泊しただけなのだが。

「お嬢様!」
「よくぞご無事で・・・」
「お帰りなさいませ」

 セバスチャン、マーサ、メアリが迎えてくれる。マーサが涙ぐんでいる。よくぞご無事って、魔物が出たからだよね。王族と会っていたからじゃないよね。

「怖いご経験をされたと伺っております。すぐお休みになってください」

 気づくとセバスチャンの手が震えている。どんな報告を聞いたかわからないけど、魔物が出現して知らない令嬢に怪我させられたわけだから驚くのは仕方がない。

 私はセバスチャンの手を握った。

「ありがとう、でも私は大丈夫。それよりマーサのお茶を飲みたいわ」

 にっこり笑うと

「お・・・お嬢様」
「私のお茶なら・・・すぐにご準備いたします」
「さぁ、こちらへどうぞ」

 3人が動き出した。お城の人たちもいい人たちだったけど、うちの使用人もすごいよね。できる使用人は違う。私はソファに座った。大きなため息が出てしまう。やっぱりうちはいいなぁ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...