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パンケーキは、罪の味 ~港のオープンカフェのパンケーキ~

王女だって、遊びたい

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「ごちそうさまでした」

 いやぁ、想像以上でした。
 まさか、こんなおいしいパンケーキをいただけるとは。

「すばらしい料理でした。ありがとうございます。でも、お友だちは誘わないのですね?」
「構いませんわ。ここを、あんな人たちの社交場にする気はありませんの」

 ウル王女の言葉から察するに、強がっている風には思えません。
 本心から、そう考えているようですね。

「そうなるくらいなら、いっそクローズドにして、一人でおやつをたしなみますわ」

 王女の思いは、頑なです。
 そこまで、貴族間のしがらみはキツイのでしょう。
 わたしには、彼女の苦労なんて伺い知れません。

 ここは、彼女にとってオアシスなのでしょうね。

「一人で、寂しくはありませんか?」
「決まっています。寂しいですわっ!」

 ですよね。

「それでもわたくしは、たくさんの顔見知りや、知り合いなんていりませんの。あなたのような、親友を求めていますの。心が通じ合う友人なんて、たった一人いるだけでいいのです」

 わたしは、言葉を失います。そこまで、思ってくださっていたとは。

「ありがとうございます。うれしいですね。心強いですし、わたしをそこまで信頼してくださるなんて」

 素直にお礼を言うと、ウル王女は咳払いをします。

「だって、なんでもお話できる友だちなんて、めったに出会えないでしょ? うちの父なんて、お酒がお友だちですわ!」
「あはは……」

 大変ですよね。王様って。
 いくら取り繕っても、権力や財力が邪魔をして、なかなか相手も心をひらいてくれません。

 だからこそ王族は、我々のような聖職者と仲良くなりたがるのでしょう。
 我々の上には、神という漠然とした概念しかありませんから。

「ですからあなたを、わたくしの運営するこのカフェにお連れしたかったのですわ。友人として」
「う、うわあ、ありがとうございます」

 そこまで、自慢のカフェなのでしょう。

 王女が大事になさっているカフェに連れてきてもらえるなんて、ありがたいです。

「さて、もうすぐ帰る時間ですわ。もう少し、遊びたかったのですが」
「次はどこへ行きましょうか?」

 それとなく、わたしは予定なんか聞いてみたりします。

「うーんと、そうですね」

 ウル王女は、辺りをキョロキョロとしました。
 やがて、一つの大きな建物に目を移します。

「あれです!」

 王女が、建物を指差しました。

「映画、というものが見たいですわね!」

 おーっ、映画ですか。
 たしか、「ポップコーン」なる未知の食べ物が最高に美味しいと聞きますが。

 ポップコーン目当てに見に行くのもいいかも。

「次は、映画にいたしましょう! ではクリスさん、ごきげんよう」

 王女が、馬車に乗り込みました。

「ごきげんよう」

 手を振って、王女を乗せた馬車を見送ります。

 楽しそうでしたね、王女。他人との約束が、あそこまで人を元気にするなんて。

 さて、わたしも夕飯を食べに行きますか。

 もう一度、朝に訪れた喫茶に向かいました。

「いらっしゃい。グラタンだね?」

 あら、すっかり覚えられてしまいましたね。

「はい。よろしく」

 着席して、注文の品を待ちます。

 キノコグラタンを、いただきましょう。

「……うわあ、罪深うまい。あれ?」

 コリコリとした食感を味わいながら、わたしは首をかしげます。
 キノコの種類が、多少変わっているような。

「ああ。ウチはね、季節によってグラタンに入れるキノコを変えるの」

 なるほど。

「もう秋だろ? 秋向けのキノコを入れてみたよ」

 秋がすぐそこまで来ているのですね。

 シスターたちの休暇は、終わってしまいました。
 ですが、次は秋がやって来ます。
 どんな料理が、わたしを待っているのでしょうね?  

 そんなことを考えながら、わたしはキノコグラタンを平らげます。
 ごちそうさまでした。

(パンケーキ編 完)
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