神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第一部 完 後編 カレーうどんは、罪の味 ~ケータリングで食べるカレーうどん~

カレー味のカップ麺は、罪の味 (第一部 完

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「あーあ」

 おかげで、残しておいたポテチが全部、床に散らばってしまいました。
 もったいない。

 ですが、パンはちゃんと老女の手に渡ったようです。

 老女は少年に泣きながら、何度もお礼を言います。パンをちぎって、少しずつ食べていました。

 彼女のためにわたしがしてあげられることは、海鳥を追い払ってあげることくらいしかありません。


 海鳥さんたちはというと、今度はわたしの足元に集まってきました。
 地面に散らばったポテチをついばんでいます。
 お食事にありつけて、よかったですね。



 戻りましょう。


 教会では、モーリッツさんがわたしを尋ねてきていました。

「ありがとうシスター。借金もなくなって、金も戻ってきた」
「よかったです」
「みんなのおかげだ。でも、商売は縮小しようと思う」

 下手に手を伸ばすと、また利用されてしまうかもしれないと、お考えのようです。

「コツコツ、ほそぼそと、身の丈にあった商売をするよ。それで、分前だ」

 モーリッツさんが、アイテムボックスに手を伸ばして、麻の袋を用意します。
 中身は、多額の金貨でした。

「シスターには、お世話になりっぱなしだ。多額の報酬を用意したんだ……けど、あんたは受け取らないんだったよな?」
「はい。すべて、教会に寄付します」

 エンシェント院長に管理してもらったほうが、いいでしょう。
 わたしが持つと、全部胃袋に消えてしまうので。

「だが、シスターには喜んでもらいたい。で、他のパーティに相談したんだ」

 結果、カップ麺の新作を一年分いただけました。

「ほおお、これは! カレー味のラーメンですね?」
「新作だ。俺とアニキで考えた。食べてくれ」
「さっそく、いただきます」

 お湯を入れて蓋をして、温めます。

「うん……これは!」

 辛さの中にもほのかな甘みがあって、ジャンクっぽい味わい。
 平麺にしたことで、麺がドロっとしたスープを存分に吸い込んでいます。

「感想は?」

 わたしは、サムズアップを決めました。


罪深うまい!」

 このコンビネーションを考えついた方は、神ですね?

 もはやラーメン神。

 なんでしょう。ニンジンやジャガイモが薄切りで入っていても、スープの邪魔にならないなんて。

 いったい、どんなマジックなのですか?

 むしろ、お湯で溶けたジャガイモがスープを更に濃厚なものにしてくれるとは!
 なんという融合でしょう。

 この発想を考えついた方に、わたしがいただくはずだった報酬をお支払いしたい!
 いや受け取ってくれ!

 そして、もっとこのカップ麺をください!

 毎日食べます!

「はーあ。これは外で食べるのがベストですね。そんな気がします」
「キャンプ飯か! それもいいな!」
「これこそ、外へ遠征に行く方たちに提供すれば、喜ばれると思います」
「あんたがメチャクチャ気に入ってくれているんなら、大丈夫だな! ありがとうシスター!」
「はい。ごちそうさまでした」
 
 満足したモーリッツさんが、帰っていきます。

 これから船に乗って、他の土地へ向かうようです。カップ麺を売り込みに行くのだとか。
 ですが、「手広くするのではなく、ノウハウだけ提供すればいいかな」とお考えだそうです。

「これは、またヒットを狙えると思うのですが?」
「儲けたいんじゃない。自分たちの味をみんなに知ってもらえたらいいんだよ」

 素晴らしいお考えだと、わたしは思いました。

「海の向こうでも、流行るといいですね。ご兄弟の考えたラーメンが」
「ああ。きっと喜ばせてみせるよ。じゃあ、船が来る時間だから」
「お気をつけて」

 モーリッツさんは、港に向かいます。

 さて、わたしは教会を抜け出す算段を考え始めました。

 例のジョギング女性から聞いた、新店舗に向かうために。

 いったい、どんな「罪」がわたしを待っているのでしょうか?

 なんだか、お腹が空いてきました。


                                 
(第一部 完)
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