神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
69 / 285
第一部 完 後編 カレーうどんは、罪の味 ~ケータリングで食べるカレーうどん~

甘口カレーは、罪の味

しおりを挟む
 翌日から、騎士団のみなさんが利用してくれるようになりました。

 モーリッツさんを陥れた犯人は、ミュラーさんたちが探してくれています。

 崖はトレーニング場として、もしくは競技用として、みなさんが楽しく扱ってくれていました。

 訓練は、若手のシスターも参加させていただきます。みんな熱心に、突起だらけの壁をよじ登りますね。

「そうですそうです……はい。よく登りきりましたね」

 崖の上から、わたしは後輩ちゃんに手を貸して引っ張り上げます。

「ありがとうございます、シスター。私、やりきりましたよ」
「はい、がんばりました」

 息を整える後輩ちゃんに、わたしはアンズで作った疲労回復ポーションを渡しました。

「いやーあ、いい汗をかいたわ。場所を提供してくれてありがとう、クリス」

 シスター・エマが、汗をタオルで拭きます。

「提案したのは、ハシオ副長さんです。彼女がいなければ、この崖は永遠に放置されていたでしょう」
「ホントね。慈悲深いわ」

 彼女からすると楽勝なのか、一〇往復ほどこなしていました。それでも結構な運動量だったのか、稽古着のランニングに汗がビッシリと張り付いていますね。

「はーあ、熱いわ」

 谷間に、汗が滑り落ちていきます。ああ、業深エロい。

 殿方が練習そっちのけで、シスター・エマの艶姿に酔いしれていました。

「ほらほら、見せもんじゃないっすよ」と、ハシオさんたち女性陣が男性陣を蹴散らします。
「向こうが騒々しいわね。どうしたのかしら?」
「あなたのせいですよ」
「ん?」

 自覚がないとは。「無知シチュ」とは、かくも罪作りなものですね。

「ところで、お昼が豪勢だって聞いたんだけれど?」
「ハシオさんが、持ってきてくれましたよ」

 ランチカーを引きながら、馬車がゾロゾロと練習場に現れました。

 カレーのいい香りが、漂ってきましたよ。

 トレーニングを終えた子どもたちが、キッチンカーに殺到します。

 ハシオさんとモーリッツさんで、カレーを配りはじめました。
 カレーラス子爵もいて、大人用の辛いカレーを担当しています。

 騎士団さんたちはコーチをしていたからか、我先にカレーを頬張っています。

「はいはい、順番っすよー」

 ハシオさんたちだけで、大変そうですね。

「お手伝いします」
「助かるっす」

 わたしも配膳役に回ります。しかし誤算でした。配る側に回ると、食に誘惑に負けそうになるとは。目が血走っているのが、自分でもわかります。

「カレーおいしい!」

 ちびっこたちも、カレーを楽しんでいます。ちゃんと空気を読んで、甘口のようです。

「子爵様、辛いカレーはないかしら?」

 カレーを食べながら、シスター・エマがとんでもないことを言い出します。

 わたしの脳裏に悪夢がよぎりました。

「ここに、デスソースの瓶があるわ。アタシが開発した特別製よ」
「ありがとう、いただくわ」

 エマはデスソースなるペースト状の劇薬を、ドバドバとカレーにふりかけます。ああ、この罰当たりが。あれはもはや、固形物じゃないですか。

「やっぱり、これくらい辛いほうがいいわね」

 究極に辛くなったカレーを、エマは平然と食べています。彼女の味覚は、よくわかりませんね。こっちは匂いだけで目がショボショボしているのに。

 食べ終わった騎士団さんやシスターたちが、配膳側に回ってくれました。

「交代するわ、クリス」
「ありがとうございます、エマ」

 ようやく、わたしも食事にありつけます。崖にもたれて、食事にしましょう。

「恵みに感謝し、いただきます」

 ああ、罪深うまい。

 甘口は、ハチミツとリンゴが隠し味のようです。

「ありがとうシスター」

 モーリッツさんとハシオさんが、こちらに来ました。

「いえ。あのときはまったくお役に立てず」
「おふくろの店のときか。しょうがないさ」

 とにかく、繁盛してよかったです。

 ただ、もうひと手間、ほしいところですね。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...