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第一部 完 後編 カレーうどんは、罪の味 ~ケータリングで食べるカレーうどん~
甘口カレーは、罪の味
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翌日から、騎士団のみなさんが利用してくれるようになりました。
モーリッツさんを陥れた犯人は、ミュラーさんたちが探してくれています。
崖はトレーニング場として、もしくは競技用として、みなさんが楽しく扱ってくれていました。
訓練は、若手のシスターも参加させていただきます。みんな熱心に、突起だらけの壁をよじ登りますね。
「そうですそうです……はい。よく登りきりましたね」
崖の上から、わたしは後輩ちゃんに手を貸して引っ張り上げます。
「ありがとうございます、シスター。私、やりきりましたよ」
「はい、がんばりました」
息を整える後輩ちゃんに、わたしはアンズで作った疲労回復ポーションを渡しました。
「いやーあ、いい汗をかいたわ。場所を提供してくれてありがとう、クリス」
シスター・エマが、汗をタオルで拭きます。
「提案したのは、ハシオ副長さんです。彼女がいなければ、この崖は永遠に放置されていたでしょう」
「ホントね。慈悲深いわ」
彼女からすると楽勝なのか、一〇往復ほどこなしていました。それでも結構な運動量だったのか、稽古着のランニングに汗がビッシリと張り付いていますね。
「はーあ、熱いわ」
谷間に、汗が滑り落ちていきます。ああ、業深い。
殿方が練習そっちのけで、シスター・エマの艶姿に酔いしれていました。
「ほらほら、見せもんじゃないっすよ」と、ハシオさんたち女性陣が男性陣を蹴散らします。
「向こうが騒々しいわね。どうしたのかしら?」
「あなたのせいですよ」
「ん?」
自覚がないとは。「無知シチュ」とは、かくも罪作りなものですね。
「ところで、お昼が豪勢だって聞いたんだけれど?」
「ハシオさんが、持ってきてくれましたよ」
ランチカーを引きながら、馬車がゾロゾロと練習場に現れました。
カレーのいい香りが、漂ってきましたよ。
トレーニングを終えた子どもたちが、キッチンカーに殺到します。
ハシオさんとモーリッツさんで、カレーを配りはじめました。
カレーラス子爵もいて、大人用の辛いカレーを担当しています。
騎士団さんたちはコーチをしていたからか、我先にカレーを頬張っています。
「はいはい、順番っすよー」
ハシオさんたちだけで、大変そうですね。
「お手伝いします」
「助かるっす」
わたしも配膳役に回ります。しかし誤算でした。配る側に回ると、食に誘惑に負けそうになるとは。目が血走っているのが、自分でもわかります。
「カレーおいしい!」
ちびっこたちも、カレーを楽しんでいます。ちゃんと空気を読んで、甘口のようです。
「子爵様、辛いカレーはないかしら?」
カレーを食べながら、シスター・エマがとんでもないことを言い出します。
わたしの脳裏に悪夢がよぎりました。
「ここに、デスソースの瓶があるわ。アタシが開発した特別製よ」
「ありがとう、いただくわ」
エマはデスソースなるペースト状の劇薬を、ドバドバとカレーにふりかけます。ああ、この罰当たりが。あれはもはや、固形物じゃないですか。
「やっぱり、これくらい辛いほうがいいわね」
究極に辛くなったカレーを、エマは平然と食べています。彼女の味覚は、よくわかりませんね。こっちは匂いだけで目がショボショボしているのに。
食べ終わった騎士団さんやシスターたちが、配膳側に回ってくれました。
「交代するわ、クリス」
「ありがとうございます、エマ」
ようやく、わたしも食事にありつけます。崖にもたれて、食事にしましょう。
「恵みに感謝し、いただきます」
ああ、罪深い。
甘口は、ハチミツとリンゴが隠し味のようです。
「ありがとうシスター」
モーリッツさんとハシオさんが、こちらに来ました。
「いえ。あのときはまったくお役に立てず」
「おふくろの店のときか。しょうがないさ」
とにかく、繁盛してよかったです。
ただ、もうひと手間、ほしいところですね。
モーリッツさんを陥れた犯人は、ミュラーさんたちが探してくれています。
崖はトレーニング場として、もしくは競技用として、みなさんが楽しく扱ってくれていました。
訓練は、若手のシスターも参加させていただきます。みんな熱心に、突起だらけの壁をよじ登りますね。
「そうですそうです……はい。よく登りきりましたね」
崖の上から、わたしは後輩ちゃんに手を貸して引っ張り上げます。
「ありがとうございます、シスター。私、やりきりましたよ」
「はい、がんばりました」
息を整える後輩ちゃんに、わたしはアンズで作った疲労回復ポーションを渡しました。
「いやーあ、いい汗をかいたわ。場所を提供してくれてありがとう、クリス」
シスター・エマが、汗をタオルで拭きます。
「提案したのは、ハシオ副長さんです。彼女がいなければ、この崖は永遠に放置されていたでしょう」
「ホントね。慈悲深いわ」
彼女からすると楽勝なのか、一〇往復ほどこなしていました。それでも結構な運動量だったのか、稽古着のランニングに汗がビッシリと張り付いていますね。
「はーあ、熱いわ」
谷間に、汗が滑り落ちていきます。ああ、業深い。
殿方が練習そっちのけで、シスター・エマの艶姿に酔いしれていました。
「ほらほら、見せもんじゃないっすよ」と、ハシオさんたち女性陣が男性陣を蹴散らします。
「向こうが騒々しいわね。どうしたのかしら?」
「あなたのせいですよ」
「ん?」
自覚がないとは。「無知シチュ」とは、かくも罪作りなものですね。
「ところで、お昼が豪勢だって聞いたんだけれど?」
「ハシオさんが、持ってきてくれましたよ」
ランチカーを引きながら、馬車がゾロゾロと練習場に現れました。
カレーのいい香りが、漂ってきましたよ。
トレーニングを終えた子どもたちが、キッチンカーに殺到します。
ハシオさんとモーリッツさんで、カレーを配りはじめました。
カレーラス子爵もいて、大人用の辛いカレーを担当しています。
騎士団さんたちはコーチをしていたからか、我先にカレーを頬張っています。
「はいはい、順番っすよー」
ハシオさんたちだけで、大変そうですね。
「お手伝いします」
「助かるっす」
わたしも配膳役に回ります。しかし誤算でした。配る側に回ると、食に誘惑に負けそうになるとは。目が血走っているのが、自分でもわかります。
「カレーおいしい!」
ちびっこたちも、カレーを楽しんでいます。ちゃんと空気を読んで、甘口のようです。
「子爵様、辛いカレーはないかしら?」
カレーを食べながら、シスター・エマがとんでもないことを言い出します。
わたしの脳裏に悪夢がよぎりました。
「ここに、デスソースの瓶があるわ。アタシが開発した特別製よ」
「ありがとう、いただくわ」
エマはデスソースなるペースト状の劇薬を、ドバドバとカレーにふりかけます。ああ、この罰当たりが。あれはもはや、固形物じゃないですか。
「やっぱり、これくらい辛いほうがいいわね」
究極に辛くなったカレーを、エマは平然と食べています。彼女の味覚は、よくわかりませんね。こっちは匂いだけで目がショボショボしているのに。
食べ終わった騎士団さんやシスターたちが、配膳側に回ってくれました。
「交代するわ、クリス」
「ありがとうございます、エマ」
ようやく、わたしも食事にありつけます。崖にもたれて、食事にしましょう。
「恵みに感謝し、いただきます」
ああ、罪深い。
甘口は、ハチミツとリンゴが隠し味のようです。
「ありがとうシスター」
モーリッツさんとハシオさんが、こちらに来ました。
「いえ。あのときはまったくお役に立てず」
「おふくろの店のときか。しょうがないさ」
とにかく、繁盛してよかったです。
ただ、もうひと手間、ほしいところですね。
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