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夜のラーメンは、罪の味 ~家出少女と共に、とんこつしょうゆラーメンと替え〇〇~
元貴族少女が作る、罪の味
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あれから、三ヶ月が経ちました。
ハシオさんの考えは、未だに謎です。
もしかすると、わざとあきらめさせるようなまねを? いえ。彼女に限って、それはありえません。なにか、意図があるはず。
今はお昼時です。件のラーメン屋に、到着しました。
すでに、ミュラーさんとハシオさんが店の前にいます。
なんと、お店が健在でした。
「んじゃ、入るっすよ」
ハシオさんを先頭に、入店しましょう。
「わああああ!」
そこは、女性店員ばかりのお店に様変わりしていました。
「ああ、いらっしゃいませ! カウンター席へどうぞ!」
頭をおだんごツインテにしたステフさんが、カウンター越しにあいさつをしてきます。
「ご注文は?」
「いつものをお願いっす」
「あいよ! しょうゆラーメンライスとから揚げ、三セット!」
大声で、ステフさんがスタッフに指示を伝えました。
から揚げ担当の店員さんが、お肉を油に投下します。
ステフさんは、乾麺を湯の中へ。
「あ、仕事中なんでお酒はなしっす!」
「えへへ。あいよ」
ハシオさんのジョークに、ステフさんも笑顔で返します。
「店長っ、二番テーブル席、えびシューマイ追加です」
「あいよ! はい三番テーブル、ラーメン三杯おまち!」
鍋を振りながら、ステフさんは従業員に指示を送りました。
他の従業員さんも、テキパキと動いています。
今のステフさんに、貴族だった頃の面影は微塵もありません。このお店に溶け込んでいます。
「すごいスタッフ数ですね」
「学友が、入ってくれたんです!」
「ご夫婦は?」
「一週間前に帰りました。お店再開の予定が早まったとかで」
ステフさんが、ラーメンの湯を切りながら答えました。
「はいどうぞ。ラーメンライスと、から揚げセットですね」
さて、ステフさんが作ったラーメンのお味は……。
おうふ。やはり、罪深い!
当時のおいしさ、そのままです。麺もスープも替えメシも、感激の嵐ですね。
から揚げも、いつものようにカリジュワ! 再びわたしの中の胃袋ボディビルダーが、鶏を欲しています。
「おいしいっす、ステフさん」
「味は、全然です。見よう見まねでは、どうしても大将には追いつきませんでした」
「細かいっすね。だいたいの味は、ちゃんとしているのに」
「こだわりがないと、こういうお店は廃れちゃうので」
ステフさんは、謙遜しました。
「それでも、すごいっす。感激っすよ」
「ありがとうございます。でも、父が許してくれるかどうか」
ステフさんは、奥のテーブル席に視線を移します。
そこには、老執事とともにラーメンをすする、ステフさんのお父上がいました。黙々と、ラーメンを口へ運びます。
しかし両名とも、時々しゃっくりで箸が止まりました。
「ごちそうさまっす。夕方になったら、今度は飲みに来るっす」
ハシオさんとともに、わたしたちはお店を後にします。
「ありがとうございました!」
後ろから聞こえたステフさんの声は、どこか涙ぐんでいるようにも思えました。
「結果は、お聞きにならないので?」
「聞くまでもないっす」
鼻をすすっていた両者の表情を見て、ハシオさんは確信したようです。
「ジャンドナート家のご令嬢だったんですね」
ミュラーさんを先に帰し、二人で話しました。
「そうっすよ。さっき、ミュラーパイセンのお話に出てたじゃないっすか」
「ミュラーさんの?」
どういった、話でしたでしょう?
「貴族との結婚を破断にした、って言ってたっす」
「え、まさか」
ミュラーさんの婚約者だったお姫様って……。
「オイラ、貴族が自分の意思で物事を考えるって、発想自体がなかったっす。でも、ステフさんを見て考えを改めたっすよ。そうだったら、オイラも……」
ハシオさんは、ミュラーさんが消えた先を見つめていました。
「だから、めっちゃ応援したくなったっす。ステフさんを。オイラが、できなかったことっすから」
「そうでしたか」
「オイラはオイラで、自分で幸せ掴むっす。それじゃあ」
ハシオさんは、仕事へ戻っていきました。
(ラーメン唐揚げセットと替えメシ編 完)
ハシオさんの考えは、未だに謎です。
もしかすると、わざとあきらめさせるようなまねを? いえ。彼女に限って、それはありえません。なにか、意図があるはず。
今はお昼時です。件のラーメン屋に、到着しました。
すでに、ミュラーさんとハシオさんが店の前にいます。
なんと、お店が健在でした。
「んじゃ、入るっすよ」
ハシオさんを先頭に、入店しましょう。
「わああああ!」
そこは、女性店員ばかりのお店に様変わりしていました。
「ああ、いらっしゃいませ! カウンター席へどうぞ!」
頭をおだんごツインテにしたステフさんが、カウンター越しにあいさつをしてきます。
「ご注文は?」
「いつものをお願いっす」
「あいよ! しょうゆラーメンライスとから揚げ、三セット!」
大声で、ステフさんがスタッフに指示を伝えました。
から揚げ担当の店員さんが、お肉を油に投下します。
ステフさんは、乾麺を湯の中へ。
「あ、仕事中なんでお酒はなしっす!」
「えへへ。あいよ」
ハシオさんのジョークに、ステフさんも笑顔で返します。
「店長っ、二番テーブル席、えびシューマイ追加です」
「あいよ! はい三番テーブル、ラーメン三杯おまち!」
鍋を振りながら、ステフさんは従業員に指示を送りました。
他の従業員さんも、テキパキと動いています。
今のステフさんに、貴族だった頃の面影は微塵もありません。このお店に溶け込んでいます。
「すごいスタッフ数ですね」
「学友が、入ってくれたんです!」
「ご夫婦は?」
「一週間前に帰りました。お店再開の予定が早まったとかで」
ステフさんが、ラーメンの湯を切りながら答えました。
「はいどうぞ。ラーメンライスと、から揚げセットですね」
さて、ステフさんが作ったラーメンのお味は……。
おうふ。やはり、罪深い!
当時のおいしさ、そのままです。麺もスープも替えメシも、感激の嵐ですね。
から揚げも、いつものようにカリジュワ! 再びわたしの中の胃袋ボディビルダーが、鶏を欲しています。
「おいしいっす、ステフさん」
「味は、全然です。見よう見まねでは、どうしても大将には追いつきませんでした」
「細かいっすね。だいたいの味は、ちゃんとしているのに」
「こだわりがないと、こういうお店は廃れちゃうので」
ステフさんは、謙遜しました。
「それでも、すごいっす。感激っすよ」
「ありがとうございます。でも、父が許してくれるかどうか」
ステフさんは、奥のテーブル席に視線を移します。
そこには、老執事とともにラーメンをすする、ステフさんのお父上がいました。黙々と、ラーメンを口へ運びます。
しかし両名とも、時々しゃっくりで箸が止まりました。
「ごちそうさまっす。夕方になったら、今度は飲みに来るっす」
ハシオさんとともに、わたしたちはお店を後にします。
「ありがとうございました!」
後ろから聞こえたステフさんの声は、どこか涙ぐんでいるようにも思えました。
「結果は、お聞きにならないので?」
「聞くまでもないっす」
鼻をすすっていた両者の表情を見て、ハシオさんは確信したようです。
「ジャンドナート家のご令嬢だったんですね」
ミュラーさんを先に帰し、二人で話しました。
「そうっすよ。さっき、ミュラーパイセンのお話に出てたじゃないっすか」
「ミュラーさんの?」
どういった、話でしたでしょう?
「貴族との結婚を破断にした、って言ってたっす」
「え、まさか」
ミュラーさんの婚約者だったお姫様って……。
「オイラ、貴族が自分の意思で物事を考えるって、発想自体がなかったっす。でも、ステフさんを見て考えを改めたっすよ。そうだったら、オイラも……」
ハシオさんは、ミュラーさんが消えた先を見つめていました。
「だから、めっちゃ応援したくなったっす。ステフさんを。オイラが、できなかったことっすから」
「そうでしたか」
「オイラはオイラで、自分で幸せ掴むっす。それじゃあ」
ハシオさんは、仕事へ戻っていきました。
(ラーメン唐揚げセットと替えメシ編 完)
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